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~さようならロン、またあう日まで~ (中学校編)  作者: 湖灯


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   ~訃報2~

 洗濯物を干してから、お待ちかねのロンの散歩に出た。

 散歩に出る前に携帯を開くと、お父さんから帰りにお惣菜を買うから、おかずの支度はしなくていいとメールが入っていたので安心した。

 安心したのは夕ご飯の支度をしないでいいということではなくて、秋子お姉ちゃんのことが書かれていなかったこと。

 メールがないということは、なにもなかったということに違いないのだから。


 散歩を終えてロンのケアを済ませても、まだ誰も帰って来ていなかったので、シャワーを浴びたあとオーボエの練習をして過ごした。

 冬休みになったら、私も秋子お姉ちゃんの病院にお見舞いに行き直接オーボエをくれたお礼を言って演奏を聞いてもらいたいと思った。

 実際にアメリカまで行って帰るのに、どれだけお金がかかるのかわからないけれど、頼めば何とかなるかもしれない。

 もし無理なら秋子お姉ちゃんに、私が社会人になって自分で行けるようになるまで元気でいてほしいと思っていた。


 七時前には兄が素っ気ない顔をして帰ってきて、七時過ぎにはお父さんが帰ってきた。

 どんなお惣菜を買ってきてくれたのだろうと思って玄関に飛んで行くと、いつもは家族が帰ってくると大喜びするロンがお座りをしたまま尻尾を揺らしていて変な気がした。


「お帰りなさい」と言って、お父さんが持っていたエコバッグを受け取ったとき「ただいま」と、にっこり笑ったお父さんの顔がまるで泥のように疲れていて驚いた。


 エコバッグの中のお惣菜は、スーパーのではなくデパートのもので、私の大好きなハンバーグやエビフライにフルーツサラダが入っていた。

 すべてのお料理のレンチンが終わるまでに、ほうれん草とお豆腐のお味噌汁を作ってみんなで楽しく食べた。


 食事が終わったあと、お茶を出したタイミングでお父さんに聞いた。

 何があったのかと、私ももう中学生でいつまでも子ども扱いしないでほしいと言った。


 お父さんはチラッと兄の顔を見たので、やはり私だけ教えられていなかったことを知る。

 それからしばらく経って秋子お姉ちゃんが亡くなったことを教えてくれた。

 現地時間の午後四時、日本時間の今朝八時に、疲れたから休むと言ったあと目をつむり、そのまままるで眠るように静かに息を引き取って亡くなられたそうだ。


 悲しかったけれど仕方がない。

 一度危篤になった秋子お姉ちゃんは、いずれこうなることは私でもわかっていた。

 わかっていたけれど、考えたくはなかった。


 洗いものを済ませて二階の部屋に上がるまで、泣かなかった。


 けれども部屋の戸を閉めたときから涙がとめどなく出てきて、ベッドに飛び込んでいつまでもいつまでも涙が枯れるまで泣いた。


 次の日学校に行くと、持田先生がきて大丈夫なのかと聞かれた。

 何のことを言われているのか分からないでポカンとしていた私に先生は、昨夜ロサンゼルス・フィルハーモニック楽団の高倉秋子さんが亡くなったことを知ったので、もしかしたら私にオーボエをくれたのがその人なのではないかと心配してくれていた。


 そういえば持田先生には、アメリカに住んでいる従妹の秋子お姉ちゃんからもらった物だとしか言っていなかったし、私自身秋子お姉ちゃんがそのような楽団で演奏していることは知らなかった。


 私は昨日秋子お姉ちゃんが亡くなったことと、その人がロサンゼルス・フィルハーモニック楽団の高倉秋子だということを昨夜知ったことを伝えて、大丈夫ですとだけ返事をして練習へと向かった。


 大丈夫なわけではない。

 いまでも秋子お姉ちゃんの死は悲しい。

 でもそれは事実として既に終わってしまったこと。

 もう巻き戻せない。

 だからバトンを渡された私は、秋子お姉ちゃんが演奏できなかったぶん演奏をしようと思った。

 そのことに何の意味があるかなんて求めずに、ただ天国にいる秋子お姉ちゃんにその音を届けるためだけに。


 それから四日後に、アメリカでのお葬式を終えてお母さんが帰ってきた。

 叔母さんたちは大丈夫なのかと心配して聞くと、姉さんの心配をしてくれてありがとうと言ってお母さんは泣き出してしまい、ロンと私は涙を流すお母さんのそばにいつまでも寄り添ってあげていた。

挿絵(By みてみん)

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