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~さようならロン、またあう日まで~ (中学校編)  作者: 湖灯


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   ~訃報1~

 お母さんたちは現地時間10時50分にロサンゼルス国際空港に到着して、12時に秋子お姉ちゃんの病院に着いた。

 病院には旦那さんのアンドリューさんが待っていて、秋子お姉ちゃんが今朝七時過ぎに奇跡的に危篤状態から回復して、いまは話もできる状態だということをLINEで私たちに送ってくれた。


 秋子お姉ちゃんは私のお母さんに、昏睡状態だったとき夢を見たことを話してくれた。


 星空の美しいどこかの夜の河原に私と兄とロンが居て、私が秋子お姉ちゃんからもらったオーボエで何かの曲を演奏していたらしい。


 しかしその曲は遠すぎて何の曲なのかわからなかった。


 どうしても聴きたいと思っていると、ロンが大きく息を吐いて風を起こし、その曲が風に運ばれてロサンゼルスの病院まで届いた。


 届けられた曲は『白鳥の湖』と『風笛』

 とてもきれいな音色だったと秋子お姉ちゃんは優しく微笑んでいたらしい。


 朝五時半に起きたときにそのLINEのメールを読み、ロンといっしょに散歩に出かけて家に戻ったとき兄に昨夜の曲が海を越えて届いたと言うと、兄は「よかったな」と言ってくれた。


 昨日私が相模川の河原で曲を演奏したのは夜の十時ごろ。

 その時間はロサンゼルスの朝六時に相当する。

 だから私の音は、やはりロンの遠吠えに乗せられて、太平洋を渡り秋子お姉ちゃんのいる病院まで届いたのに違いないと思い兄にそう話すと兄は「うん」と、うなずいた。


 超常現象など存在しないと日頃から言っている兄にしては珍しいと思った。

 兄も秋子お姉ちゃんのことが心配だったのだろう。


 お父さんが起きてきたので今日はどうすればいいのか聞くと、秋子お姉ちゃんの意識が戻ったのだから何も心配することはないことと、もしなにかあったとしても日本にいてできることはなにもないから普段通りに学校に行くこと。

 それと携帯の電源は校則通りに切っておくことを言われた。


 私はお母さんの代わりに急いで朝食の支度をした。

 三人分のハムエッグとサラダとトーストを焼いて、お父さんと兄にはコーヒーをいれ、私はミルクを飲んでいっしょに朝食を食べた。

 洗いものは学校から帰ってきてからすると言って、私は学校に向かった。


 家を出るときにロンに「よく頑張ったね!」と、昨夜のお礼を言ってなでてあげると、ロンは「どんなもんだい!」と、偉そうに胸を張っていたのがおかしかった。



 朝練を終えて急いで教室に向かっているとき、カラカラと何か小さなものが転がる音がして止まると、左耳の上で止めていたはずの赤いヘアピンが外れて転がっていた。


 慌てて拾おうとしたときに思い出した。

 このヘアピンは秋子お姉ちゃんのオーボエのケースに入っていたものだったことを。


 何か嫌な予感がした。


 携帯に手を伸ばして手に取り、開くボタンを押そうとして迷った。

 お父さんから、校則を守るように言われたこと。

 そして何が起きても、なにもできないことを。


 約束を破ると神様は必ず罰を下す。

 だから私は携帯を開かずにしまい、拾い上げたヘアピンで元通りに髪を止めた。


 お昼休みのときに携帯を開くと、お母さんからのメッセージは来ていなくて安心した。

 私はロンがいないぶん、頑張ってロサンゼルスの病院にいる秋子お姉ちゃんに音を届けるためにいつもより強く息を吹いて広い青空に向かって演奏した。


 今日も三年生の三者面談があるので、放課後の部活はなかった。

 帰りに携帯を見ると、お母さんからのメールは入っていなくて安心した。


 家に帰ると誰もいなくて、鍵を開けるとロンがお出迎えしてくれて、玄関につないであったチェーンを外してあげると喜んでくれた。

 お母さんがいないから長い時間つなぎっぱなしにしていたことを申し訳ないと思った。


 自由にしてあげたいけれど何かの拍子にパニックになったときに家の中がメチャクチャにされるし、まんがいち電気のコードを噛んでしまうと感電するし火事になる危険もあるので誰もいない時間に放してあげることはロンの安全のためにもできない。


 手を洗ってキッチンに行き、朝の洗い物をしようと思ったら、もう洗われていた。


 お米をといでご飯の用意をしようとふたを開けると、もうとぎ終わったお米が水に浸かっていて、炊飯器に予約のランプがついていた。

 それではお風呂の掃除をと思ってお風呂場に入ると、ここもきれいに洗われていた。


 お父さんと兄が協力して、してくれたのだ。


 私は昨日バタバタしてできていなかった洗濯物をするためにスイッチを入れて、洗濯機が止まるまで、トイレの掃除をして部屋に掃除機をかけた。

 そのあいだじゅうロンが私の後をついてくるものだから、ロンの体にも掃除機をかけてやると、ふかふかの毛の間に溜まった暑い空気が吸い取られるのか気持ちよさそうにしていておかしかった。

挿絵(By みてみん)

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