~秋子お姉ちゃんの知らせ2~
「ただいまー」
家に帰ると、待ちきれなかったようにロンが出迎えてくれた。
キッチンの電気はついていなくて、お母さんはまだ帰っていないみたい。
発育促進のためにミルクを飲みにキッチンに行き、コップに注いで飲んでいると、お母さんの手提げ袋が置いてあることに気がついた。
帰ってきているんだと思って呼んでみるけど、返事はなかった。
もしかしたら急に倒れたとか……私は慌ててトイレやお風呂をはじめ、部屋の中を探し回り、それでも見つからなかったので外も見た。
でも、お母さんはいなかった。
玄関には、お母さんの靴はあるけど……。
もしかしたらと思って下駄箱を開けてみると、お母さんの靴が一足なかった。
“なんだ、出かけているのか”
それにしても朝は何も言ってなかったのに、何か急な用事だったのかしら?
とりあえず考えても仕方なかったので、オーボエの練習をすることにした。
その日は久しぶりに秋子お姉ちゃんからもらったオーボエを持って練習した。
まあ、こっちのほうが演奏しやすいし、音もいいけれど、高い物らしいので大切に使っている。
練習を始めてすぐに、家の門が開く音がした。
時間はまだ夕方前の四時。
お父さんが帰ってくるのは夜の七時くらいだし、兄もサークル活動のある平日は同じくらいの時間に帰ってくるはず。
お母さんかなと思ってオーボエを持ったまま、ロンと玄関に向かった。
ロンが閉まっているドアに向かって尻尾を振っている。
自転車の鍵がかかる音がする。
お母さん?
でも、ドアが開いて入ってきたのは兄だった。
あれっ?
サークル活動は?
それに、なんだか疲れた顔をしている。
サークルのことを聞くと、兄は「休んだ」と答えたが、嘘だと思った。
そしてお母さんが居ないことを伝えると「ああ」とだけ言ったその雰囲気は、何か知っているように感じた。
「なんか知っているの? 知っているんだったら教えて!」
「……」
兄は私の言葉に返事をせずに、何か考えているようだった。
理由は分からないけれど、きっとお母さんから私には言わないように止められているのだと思った。
「お父さんも知っているんでしょう? だったら家族で知らないのは私だけだよね。なんで家族なのに私に隠さなくてはいけないの? 私のせいなの? それとも私は家族から信用されていないの?」
「違う、千春のせいじゃないし、みんな千春を信用している」
「だったらなぜ!?」
私の言葉に兄は私に向けていた目を逃がすようにそらしたが、その目はある一点でギョッとした表情になり止められた。
兄の視線を追うと、そこには私が手に持っているオーボエがあった。
なんでオーボエを見てギョッとしたのだろう?
「秋子お姉ちゃんになにかあったの?」
でも秋子お姉ちゃんはアメリカのオーケストラに入っているから、時差も12時間くらいある。
いまが夕方の四時過ぎだから、アメリカでは明け方の四時くらいのはず。
だからなにもあるはずはないと思っていたら、兄がコクリとうなずいた。
どうして!?
いったいなにがあったの!?
私が鳴らすリードの音を録音したデータをお母さんが秋子お姉ちゃんのサイトに送り、秋子お姉ちゃんのサイトからお母さんにアドバイスが届けられ、それに従って私はレッスンを受けていた。
最初にもらった楽譜の『白鳥の湖』も録音データを送って上手だと褒めてもらったし、こっそり隠れて練習した『風笛』も、オーボエを頂いた一年の記念日に送ってもらったときには「すごい!」と言って喜んでくれた。
部活で演奏した曲も送ってもらったはずだけど、大会や体育祭そして『さがみ風っ子文化祭』の練習に忙しかった私もそうだけど、秋子さんもオーケストラの仕事が忙しいのか最近はお互いに連絡は途絶えていた。
だからといって、いったい何が起こったのだろう?
何があったのか聞くと、兄はおとなしく私に話してくれた。
秋子お姉ちゃんが危篤状態になったことを。




