~体育祭のマーチング(挑発する千春)~
夏休みが明けると、すぐに体育祭の練習が始まった。
練習は体育祭の競技だけではなく、吹奏楽部の練習も体育祭バージョンのマーチングの練習を行う。
吹奏楽コンクールではメンバーに選ばれなかったけれど、今度は全員参加なので私はやる気満々!
かっこよくオーボエを吹きながら行進する自分の姿を想像していたら、春日部長が黒板に書いた楽器の中にはオーボエはなかった。
なかったのはオーボエだけでなく、フルートやクラリネット、それにファゴットやピッコロ、つまり木管楽器そのものがなくて、代わりに書かれていた楽器はリコーダーとシンバル。
リコーダーなら小学校のとき鼓笛隊で担当していたから問題なくできる!
木管楽器の担当者は全員リコーダーになるのかと思っていたら、数の制限が書かれてあった。
枠は八。
これを一年生から三年生までの木管担当者の希望者で競い合うのだ。
選定方式は実力主義、ではなくて、あみだくじ。
木管楽器担当者なら、リコーダーもできて当然。
私はリコーダーを希望して、あみだくじに人生をかけたが、見事に敗戦。
だったらシンバル! と、思ったものの、こっちのほうは既にリコーダー争奪戦を回避した人たちで埋まっていて、かっこいいカラーガードのフラッグ隊争奪戦にも負けた私はポンポン隊の係になった。
楽器の演奏ができないのは少しつらかった。
それに踊りも苦手。
しかも本番ではミニスカートで踊るというのも抵抗があった。
「いーなあ美緒は、リコーダーで」
部活が終わった帰り道、つい愚痴を言ってしまった。
「でも千春は手足が長いから、私より確実に踊り似合っていると思うよ」
「そうかなぁ……」
「それに下半身、結構ボリュームあるし」
「やめてよね、気にしているんだから」
やせているわりには前からお尻とかももは太かったのが少しコンプレックスだったのに、ロンと散歩に出るようになってそれがさらに太くなってきたような気がする。
それに比べて上半身は、やせたまま。
どうせなら、胸にもその栄養をまわせないものだろうか?
そんな叶わないかもしれない悩みよりも、今大切なのはポンポン踊りをマスターすること。
あー、現実は無情だ。
家に帰ってロンと散歩に出ているときも小さく手を振って踊りの練習をしていると、気になるのかロンがちらちらと私のほうを向く。
「踊りの練習をしているのよ」と教えてあげると、ロンは興味を持ったらしく私の前でお座りをした。
ちょうど公園の角で辺りには誰もいなかったので、しょうがないのでリードを長くして踊ってみせるとロンは目をキラキラさせて大喜びして立って踊るようにしてみせた。
ロンは立つのは得意ではないので、バランスが崩れそうになるたびに私に上げている前足を当てに来るので、たまにその手を取っていっしょに踊ってあげるとさらに喜んでくれる。
“結構ロンってダンスが好きなんだ!”
ロンが私のダンスを喜んでくれて、それが好きだと分かると、なんだかそれまでダンスのことを悩んでいたのが嘘のように楽しくなってきた。
結局この日から私は家でもダンスの練習をロンの前で披露して、もう全然ダンスのことが苦にならなくなり先輩たちが驚くほど日に日に踊りが上達して、自分でいうのも変だけど体育祭本番では完璧な踊りを披露できる自信を持てた。
これも、ロンのおかげだね!
体育祭当日。
入場行進は吹奏楽部によるマーチングを先頭に、各クラスが入場する。
ドラムメジャーを先頭に私たちカラーガード(フラッグ隊、ポンポン隊)が続き、そのあとをトランペット、サキソフォン、ホルン、トロンボーン、ユーフォニアム、チューバ、ドラムライン、リコーダー、そして最後尾のシンバルと続いた。
ポンポン隊最後尾外側が私の位置。
せめて内側か真ん中だと目立たないのにと思ったけれど、仕方がないしポンポン隊の踊りはそもそも華やかさをアピールするためのものだから恥ずかしがっていては役に立たない。
だから私は華やかさを演出するために大きく手足を振り、笑顔で全身の力をリズムに代えて踊った。
途中何度か私のすぐ後ろについているトランペットの伊藤くんの音が高くズレていたので、またお調子に乗ってふざけているのかと思ってターンするときにチラッと見たときに目が合った。
伊藤くんはお調子に乗っているわけでなく、真っ赤な顔をして真剣な表情で演奏していた。
久しぶりの鼓笛隊。
しかも九月中旬のまだ残暑が厳しい中で、伊藤くんも頑張っているのだと思っていたら、あとで聞くと私のパンツが見えるから集中できなかったと文句を言われた。
「パンツじゃなくて、ブルマよ!」もう、本当に失礼しちゃうんだから。
あんまり癪に障ったから退場の際はもっとオーバーアクションで踊り、伊藤くんの前でわざと足を高く上げてやると、そのたびに伊藤くんは音程をずらして面白かった。
もちろん一人だけ音程をずらしまくった伊藤くんは、終わった後で春日部長に注意されていた。
それを見て「ざまあ」と思っていた私も、持田先生に呼ばれてなかなか大胆なダンスで素晴らしかったけれど、学生らしくすることも大切だとたしなめられた。




