~花火の夜に2~
「河原で仕掛け花火が始まるから、千春も行こうよ!」
みんなに誘ってもらったけれど、私はお留守番をすることにして断った。
仕掛け花火の前にスターマインが盛大に上がる。
ロンの顔を覗くと、ロンも私のほうを向いて目が合った。
「二人きりの花火って、ロマンチックだね!」
屋台や仕掛け花火も楽しいだろうけど、やっぱり私はロンと一緒のほうが好き。
そのとき見上げていた花火が急に黒い影に隠れた。
目の前に二人の男の人が立っていて、通り過ぎるのかなと思っていたら声を掛けられた。
「ねえ。君ひとり?」
「いえ。友達と来ています」
二人は高校生か大学生っぽい若い男の人。
しかも少しガラが悪そう。
「友達は、どこに行ったの?」
「仕掛け花火を見に行きました」
正直に答えて、すぐに後悔した。
戻ってくる時間を教えたようなものだ。
案の定二人は私の傍から離れずに、一緒に屋台に行こうとか面白いものがあるとか彼氏はいるのとか中学生か高校生なのかとかめちゃくちゃ話しかけて来た。
そのうちの一人が私の袖を引き無理やり立たせようとした。
「困ります!」
私が少しきつめに言うと、二人は私の目の前にしゃがんで私の顔を覗き込んで「いいじゃん。ちょっと遊ぶくらい」と、しつこく絡んできた。
早く里沙ちゃんたちが帰ってこないかな。
と、いっても仕掛け花火もまだ始まっていないのに、帰って来るはずはない。
相変わらず二人組の男の人たちは、私の前から離れずにニヤニヤしながら奇妙な言葉を掛けて来る。
正直、怖い。
さっき、私の袖をつかんだ男の人が今度は私の手を取って引っ張ろうとした。
「キャッ」
怖くて小さな悲鳴を出しそうになったとき「ワン!」という大きな声とともに、ロンは立ち上がってその手に飛びかかった。
『噛んじゃ駄目!!』
頭で咄嗟に思ったけど、怖くて言葉に出なかった。
ロンはその手を上に弾き上げ、もう一度「ワン!」と吠えた。
驚いて飛び上がった男の人に、なおもロンは飛びかかって吠えた。
そして、もう一人の男の人にも威嚇するように吠えた。
ロンの気迫に怯んだのか、二人の男の人は「クソ犬!」と、ロンを侮辱して去って行った。
暫くボーっと見ていた私は、急に今まで我慢していた怖さが込み上げてロンに抱きついて泣いた。
「ロン!ありがとう。怖かったよぉ~」
言葉を出せるまで少し時間が掛かった。
まだ込み上げる嗚咽のなかロンを抱いたままの私の耳に、駆けて来る二つの足音が聞こえた。
あの男の人たちが仕返しに帰ってきた!
今度は私がロンを守る番!
私はどうなっても、ロンを守らなければ……。
あいつらの目当ては私?
もしもロンに仕返しするのが目的なら、リードを離す?
いや。
私が殴られても絶対にリードは離さない。
必ずロンを守ってみせる。
武器になるものは……。
あった。
さっき里沙ちゃんが食べていたバーベキューの串!
短剣を持つように私は串を手に持ち、ロンの首輪を押さえて背中に隠す。
迫って来る二つの影をキッと大きく見開いた眼で見据えて、眉を精悍に立て、口は真一文字にきつく閉め、さながら映画に出てくる女忍者のような出立で身構えていた。
それなのに、何故かロンは私の肩に前足を掛けてポニーテールに結んだ頭の上に、自分の頭を乗せている。
頭の上に違う頭。
これだとまるでトーテムポール。
誰がどう見ても、間抜けな女忍者にしか見えないじゃないのよ!
気迫で相手を蹴散らすことは、こんなことがなくても土台無理なのは分かっていたけれど、少しだけは期待していたのでガッカリしたが、気持ちを確りしなくてはと気を引き締め直す。
そして暗闇の中、二人の足音が近づいて来る。
二人の影が近づいて来る程に増す私の緊張感。
それとは正反対に、頭の上に乗っているロンは喜んでいるみたいに私の背中を足で蹴ったり、もっと身を乗り出そうとしたり、挙句によだれを零したり。
いったい、この緊張感の欠如は何なのだ?




