~花火の夜に1~
結局私たちの吹奏楽コンクールはこの県大会で終わった。
結果は銅賞。
やはりギリギリ大編成をクリアしただけの人数では支部大会は突破できても、県大会レベルとなると明らかに見劣りがした。
でもそれは、しかたがない。
今年の目標は、県大会進出だったのだから。
そして私たちは、みごとにその目標を達成することができた。
夏休み最後の日曜日は、毎年この街の花火大会が催され、今年は中学の仲良しグループで見に行くことになった。
里沙ちゃんが迎えに来てくれるというので待っていると、白い生地に青い花柄の模様をあしらった少し子供っぽい浴衣に、うちわを持った可愛い里沙ちゃんが来て、パァっと明るくなった玄関にロンも私も驚いて見とれていた。
「ロンも一緒に連れて行こうよ!」
里沙ちゃんはロンも誘ってくれ、その言葉が分かったのかロンも大よろこび。
「わぁっ!ロンったら、言葉が分かるのね!」
里沙ちゃんもロンの反応に大よろこびだけど……やっぱりロンは言葉の意味が分かっていない。
だって今日はロンの嫌いな花火の『ドカン!』という爆発音が連発するのに、その真っただ中に行くのだから。
ロンの嫌いなものベストスリーは
①かみなり
②花火の音
③ミニチュアダックスフント
紺色に金魚の模様が入った浴衣に着替え、ロンを連れて行くのは人ごみだから無理よって里沙ちゃんに言うと、里沙ちゃんはがっかりしていた。
私たちが家を出ようとすると、ロンは珍しく私たちに向かって吠えた。
その言葉は「いってらっしゃい」ではなくて「待って!ぼくも連れて行って!」だということは分かっていたけど無視しようとした。
隣にいた里沙ちゃんが「ほら、連れて行けって言っているよ」と、私じゃなくてもロンの気持ちが伝わっている。
仕方なしに私は引き返して、お母さんに言ってお散歩道具一式を持ち、ロンも連れて行くことにした。
エンジ色の帯に、うちわを挿して、右手にはポーチ。
それとは別に右手にぶら下げているのは100円ショップで買った手提げ袋。
中身は、ビニール袋に消臭剤、それにウェットティッシュと火箸にスコップ。
これはロンのお散歩セット。
そしてその右手にはリードも持ち、私の横にはそのリードにつながれたロンが胸を張って私をチラチラ見上げながら楽しそうに歩いている。
途中のコンビニエンスストアで美緒と桃子と合流して30分くらい歩いて会場に着くと、土手の上にあるバス停でまた他の友だちと合流すると、みんながロンを可愛がってくれた。
「よう、鮎沢、かわいいな」
花火会場に向かっているときにクラリネットの二年生の二岡先輩と出くわしたが、学校で見る先輩よりもずっと大人びていて驚いた。
私たち十代の一年の差は大きい。
私も来年は、あんなふうに大人っぽくなるのだろう。
土手の上から花火会場の河原を見ると、たくさんの屋台と、たくさんの人でごった返していた。
“ロン、大丈夫かな……”
不安な気持ちになっている私とは逆に、ロンはうれしそうに目を輝かせていて、眼下に広がる光景を好奇心に胸を踊らせる子供のように見ていた。
場所取りは土手の斜面近くで、広い花火会場では隅のほう。
早く来たので前のほうもまだ空いていたけど、ロンがいるのでみんなが気を使ってくれて、人のまばらなこの場所にした。
ここをベースにして屋台回りをして遊んでくる。
友だちに一緒に行こうと誘われたけど、私はその子にアイスとかたこ焼きとかお金を渡して買ってきてもらうことにした。
人ごみの中では、全員が犬を歓迎してくれるわけではないだろうからロンを連れて行けない。
ロンが嫌な目で見られるのは、我慢できないから。
途中里沙ちゃんがロンを預かるから屋台に行って来たらと言ってくれたが、これも断った。
何が起きるかわからないのに里沙ちゃんに責任を取ってもらうわけにはいかない。
ちゃんと両親に了承をもらって来ているからには、私は家族の代表としてロンを守らなければならない。
それが私のロンに対する責任だから。
屋台の楽しさは味わえないけれどロンと一緒に夜の花火ってちょっといい感じ。
……でも、ロンって雷や花火の音が嫌いなのに大丈夫かな。
一応、友だちには前もってそのことは伝えていて、あまりロンが怖がるようなら先に帰ると決めていた。
ひゅ~~~……ドンッ!
最初の花火が上がった時、私はロンの耳を手でふさいだ。
「あれ?!」
ロンは意外に平気な素振り。
2発目が上がり、3発目が上がり、そして連発。
ロンはおとなしくお座りしている。
里沙ちゃんから爆弾アイスを渡されたときロンの耳から手が離れたとき花火の大玉がドンとなり、慌ててロンの耳を押さえようとしたけど間に合わなかった。
だけどロンは平気な顔をして行きかう人たちを見ている。
外だと意外に平気なのかな、でも何かあった時のためにリードは手首にぐるぐる巻きにして抜けないようにしていた。




