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~さようならロン、またあう日まで~ (中学校編)  作者: 湖灯


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   ~一年生のほとんどが大会メンバーから外されたわけ~

 毎年はなるべく全員で大会に出ようとしていた。

 それが西中の伝統だと思っていた。

 しかしその結果が三年連続支部大会敗退。

 ここ十年でも県大会に出場できたのは二回しかなかった。


 つまり我々が思っていた伝統とは、大会に勝てないという伝統。

 吹奏楽は団体競技だから、仲良しクラブでは勝てない。

 だから今年の初心者はメンバーに加えないで基礎練習をしてもらう方針をとり、一年生部員にはたいへん申し訳なく思っていることを打ち明けてくれた。


 深刻な話のあと、誰も話すものはいない。

 場が静まり返る。

 嫌な雰囲気。


 不意に伊藤くんが手を上げた。

「ちょっと聞いてもいいですか?」

「なんですか伊藤くん」


「あの俺、実は小学校四年生のときから小学校の鼓笛隊でトランペット吹いているんですが、これって経験者枠ですよね。だからいまからでもよければ、どうですか?」


 そう言われて春日部長は顔を歪めて、いかにも困った顔をして言った。

「すまない。君を見ていたのに経験の長さと演奏の技術が必ずしも一致していないことを気付けなかったことを反省しなくてはならない」と春日部長は深く頭を下げて謝った。


 それに対して伊藤くんは怒るどころか「いいんですよ、分かってくれれば」と笑って言い、それでも江角くんが福田さんに言った努力を見せることは上級生やメンバーに選ばれた人には重要なのではないだろうかと、まるでふだんの伊藤くんとは全く違う的を射た意見を述べた。


 そして伊藤くんの意見を踏まえて春日部長はこう言った。

 おそらく次が我々三年生には最後になるかもしれないが、いつ終わったとしてもその後ろ姿を後輩たちに笑われるような姿だけは見せたくない。

 一年生の初心者を切り捨てたからここまで来たんじゃなく、努力の積み重ねこそが大切だったことを下級生たちに伝えられるように引退したいことと、そしてその一年生が大会に出られなかった間にしっかりした基礎を身に着けてもっと上の世界を目指す姿を見せてほしいと言った。


 私は春日部長の言葉に感動して泣いてしまった。

 そして伊藤くんが拍手を始め、それにつられて美緒も三村さんも私も拍手すると、その拍手の輪は音楽室全体に広がった。

 いつの間にか教室に入っていた持田先生もそれに加わり、そして春日部長が「本番まで今日を入れてあと六日ある!みんな、悔いのないように頑張ろう!」

 春日部長が拳を突き上げると、みんなも一斉に拳を突き上げ「おーっ!」と叫んだ。


 江角くんと福田さんも和解して部の方針もしっかりと固まり、火曜日からは私たち大会メンバーに入っていない一年生が体育館や放送室に入って練習することはできないくらい人が集まった。 もちろん福田さんもその中に入っていて、私たち大会メンバーに選ばれなかった一年生部員は音楽室で基礎練習に励んだ。

 そう。

 それは春日部長が言ったように、私たちの時代にもっと上を目指すために。


 大会当日は、いよいよ私たちの出番。

 機材の搬入や搬出、会場の設営に青いタオルを揺らして頑張るのが私たちの務め。


 今回の会場となる川崎市スポーツ文化総合センター(カルッツかわさき)は、相模原支部大会の会場となった相模女子大学グリーンホールよりも客席が一段多くて3階席まであった。


 伊藤くんがこの大会の次に行われる東関東大会の会場の観客席は四階席まであると本当か嘘か分からないことを言って私たちを驚かせたが、そんな伊藤くんの冗談が掻き消されるほど私たちを驚かせたのはこの大会に挑む学校の多さだった。


 総勢四十四校。

 その中から十校が東関東大会に進出できる。

 相模原支部大会では九校中三校で、県大会に進出できる確率は三分の一で、こんどはそれが約四分の一になったに過ぎない。

 しかし、この中から次へ駒を進めるなんてと、私たちは見たこともないよその中学校の生徒の数に大きな不安を感じてしまった。


 私たちが感じたことは、上級生たちも感じたらしい。

 なにしろ三年生も二年生も、支部大会から先に進んだ経験がないのだから。


 本番前の最後の音合わせ。

 部員たちの表情は、いままで見たことないほどみな硬く強張っていた。

 “何とかしなければ” と思いながらも何ともできない自分に歯がゆさを感じた。

 ふと伊藤くんならと思って、彼を探した。

 大会前の月曜日に江角くんが起こした騒動をきっかけにギスギスしてしまった部の雰囲気を自虐ネタで一気に風向きを変えた伊藤くんなら何とかしてくれるかも。

 そう期待して見つけた伊藤くんも、やはり場の雰囲気に呑まれてガチガチに固まっていた。


 ロン!

 ロンならこういう時に、どうするだろうと思ったが、ロンはこういった予想もしない大人数の中ではビビって逃げようとするから、その行動はあてにならない。


 結局私たちは何もできずに場の雰囲気に呑みこまれたまま、本番を迎えてしまった。

挿絵(By みてみん)

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