~夏休みの練習1~
次の日の朝、7時前に登校すると、そこにはいつもとそう変わらないメンバーが開門時間を待っていた。
もっとたくさんの吹奏楽部の部員が押し寄せていると期待していたのに、そして春日部長もいなかったのが残念だった。
まだ7時前だというのに、真夏の太陽は容赦なく降り注いでいて暑い。
体育館と音楽室の鍵を取りに行くと職員室にはもう持田先生が来ていて、音楽室を開けて譜面台を取ったあと、いっしょに体育館に行った。
体育館の中に入ると、さすがに天井が高くて広い室内は涼しかった。
先生から短い曲の譜面を渡され、これをなるべく大きな音で演奏するように言われた。
譜面には『おおぞらをとぶ』と書かれていたが、私はこの曲を知らなかったのと、Largo(非常にゆっくりと)やAllegretto(やや速く)といったことや、f(強く)やp(弱く)などといった演奏の指示は譜面に書かれていなかったので、私はとりあえず譜面に書かれている音を追いかけるように演奏してみた。
先生は何かすこし違うな、みたいな顔をしたけど、そのまま繰り返し演奏するように言ってステージから降りて行った。
おそらく外に出て、音の聞こえ具合を確認するのだろう。
先生の “少し違う” 表情には、おそらく先生の知っている曲と今私が演奏している曲のイメージが違うのだと思った。
私は繰り返して演奏するうちに、この曲名が『おおぞらをとぶ』ということを意識して、大空をどこまでも飛んでいる自分をイメージして演奏してみた。
川を越え、山を越え、雲を抜けて遥かな大空をゆうゆうと飛び、未来への希望に胸を膨らませて飛んでいる私のそばにはロンがいる旅を。
しばらくして先生が入ってきて音は大丈夫だったことを伝えてくれた。
先生といっしょに三村さんと美緒が入って来た。
美緒が私に「ついに千春も、ゲームデビュー?」なのかと聞いてきた。
「ゲーム、デビュー?」
私は美緒が言っている意味が分からなくて、聞き返す。
「だっていま演奏していたのって、あのゲームの挿入曲でしょう」
「そうなの?」
私たちの会話を聞いていた持田先生が、私に「ひょっとして鮎沢さんこの曲、知らなかったの?」と聞いた。
私がそうだと伝える前に、美緒が先生に言った。
「千春は天然記念物級にゲームには一切興味がないから、ゲームの挿入曲なんて知りませんよ。さすがです先生!」
どうやら美緒は先生が私にこの曲を教えたと思ったみたい。
まあたしかに楽譜をもらったから教えてもらったことには違いないが、簡単な曲でよかったと私は胸をなでおろした。
だって難しい曲で、入って来た美緒に「いま何の曲を演奏していたのか」と聞かれたら恥ずかしいでしょう?
それからすぐにほかの木管メンバーも来て、人数が10人を超えそうになった段階で、メンバーでない私と美緒は体育館を離れて音楽室へと向かうとしばらく経って福田さんが来た。
その日のうちに放送室も使えることが決まり、伊藤くんが「よっしゃー!」と大会メンバーでもないのに喜んでいたのがおかしかった。




