~吹奏楽部の大会4~
私たちの吹奏楽部は4年ぶりに県大会に進むことができた。
悪しき流れは断ち切った。
次は二週間後、お盆まえの土曜日に開かれる県大会に向けて頑張るだけ!
私たちメンバーに入れなかった一年生は、次の作戦を考えた。
それは練習時間と効率を上げること。
学校の正門は朝七時に開くけど、音を出していいのは七時半以降。
いちおう窓を閉め切っている状態の室内であれば、木管楽器は個人練習に限っては七時からでも許されているが近所から苦情が来るようであればそれもできなくなってしまう。
いまは真夏で、七時ともなれば、もう暑いから窓を閉め切ったままでは練習はできない。
それと熱中症対策で一日の練習時間は、基本的に四時間を超えてはならないと校則で決められている。
だから今までは、朝八時に全員集合して十二時まで練習することを、吹奏楽部の練習時間として学校に提出している。
しかしこれにはひとつだけ抜け道がある。
それは吹奏楽部の朝礼が行われる前の行動は含まれていないということ。
つまり、自習は含まれていないということだ。
それともうひとつ思いついたのが、開いているスペースの有効的な利用方法。
夏休み中の部活動に四時間の制限が設けてあるので、各部活の開始時間は午前中に行うところは軒並み八時から八時半開始で学校に提出していた。
だから体育館は八時まで誰も使用しない。
体育館自体は防音仕様の建物ではないと思うけれど、ことステージに限っては両サイドには「そで」という控室のようなスペースがあるのと、ステージの奥には厚い幕が張ってありそこには舞台裏を通り抜けて両サイドのそでに移動したり機材を置いたりできるスペースがあるので他の教室などと比べて格段に防音効果は高いはず。
ステージの前に幕を張ってしまえば、木管のパート練習くらいには耐えられるはず。
もうひとつ目をつけたのは、放送室。
ここは六畳の部屋よりも少し狭い部屋で、人数的には四人か五人で演奏するのがやっとくらいのスペースしかないけれど、部屋自体は完全な防音仕様だ。
通常であれば朝や昼、放課後は放送部が音楽を流す合間に今日の学校行事などを伝えるために使用しているが、夏休み中のいまは使用していない。
私たちは、この二つの部屋を有効に活用するための話をまとめて、春日部長に話して上級生の許可をもらって持田先生のところに行った。
体育館の使用に関しては木管のみで、多人数をさけて大きな音を出さなく、なおかつ近隣から苦情が来なければという条件で朝七時からの使用が認められた。
ただ放送室は放送を行うための施設であり、放送用のスタジオには放送設備もあるので明日の職員会議で話し合ってから決めると言われた。
職員会議の結果が遅れるのは、放送部の顧問の先生が夏休み中で出て来ていないからだ。
とりあえず体育館の方は明日の朝から使えることになり、明日を楽しみにして帰った。
帰り道で伊藤くんが、明日体育館のステージで演奏するのが楽しみだと言ったので、あわてて早朝の体育館を使えるのは木管だけだということを伝えた。
美緒が部活の終礼のときに春日部長が話していたのを最後まで聞いていなかったでしょうと言うと、伊藤くんは「オチがあるとは知らなかった」と言って笑わせた。
「じゃあ俺たち金管は、放送室に期待しよう!」って伊藤くんが言ったとき、私は甲本くんのことが気になった。
パーカッションはドラムやティンパニー、マリンバにシロフォン、グロッケンなど移動が困難なものが多くて、移動が簡単なものでもシンバルのようにとてつもなく大きな音を出してしまうものもあり、音楽室を離れて自由に練習できる楽器はタンバリンとかトライアングルとかギロとかの小物に限られる。
だからパーカッション担当の甲本くんには、つまらない話になってしまったことを謝った。
甲本くんはそんなことは部に入る前から分かっていたことだからいいよと言ってくれたけど、普段は少し暗い印象のある甲本くんが小学校のときの鼓笛隊でドラムを叩いているときだけは誰よりも楽しそうな顔をしていたのを覚えているから、ちゃんとした練習環境を整えてあげられないことを申し訳なく思った。
家に帰ると玄関のドアを開けた途端、ロンが飛びついてきてくれた。
本当はこの飛びついてくる癖を矯正しないといけないのだけど、私はそれをできずにいる。
犬に限らず猫や他の動物も、私たち人間と言葉を使って会話することはできない。
喜びを声で伝えることもできるけど、犬の声はとてもうるさいのでどの飼い主さんでも基本的には無駄吠えはさせないようにしつけをしている。
わが家もそう。
だからロンも滅多に吠えることはない。
唯一の愛情表現は尻尾を振ることと、こういった飛びつくこと、そしてほぼ私に限定されるのだけど顔を舐めることに限られる。
ロンが感情豊かな子に育ってほしいから、私はこの三つのことをすべて許している。
おそらくそのことで私たちはお互いのコミュニケーションがうまくとれているのだと思う。
「ねえ、ロン。そうでしょう?」
ロンはいつものように私の言葉をただうれしそうな顔をして聞いていてくれた。




