~吹奏楽部の大会3~
みんなで青いタオルを首に巻いて練習をした。
全体練習では見守るしかできなかったけれど、個人練習では大会メンバーの人が主旋律を練習するときは私たちが副旋律を伴奏して、副旋律を練習するときは主旋律を伴奏してサポートした。
その他にも自分たちの音を客観的に聴いてもらうために録音をしたり、個人練習やパート練習共にメトロノームに合わせて指揮をおこなったりした。
大会当日は大会メンバーよりも早く登校してバスが来る前に楽器や機材を3階の音楽室から1階まで降ろし、バスでは揺れの大きい後ろの席に座り、会場に到着したら指定された楽器置き場までいち早く楽器を運んだ。
会場となる相模女子大学グリーンホールは、びっくりするほど大きなホールだった。
まるで空港か新幹線が乗り入れる都会の駅みたいに、建物が大きくて通路も広く、その通路の天井も高い。
楽器を運び終わって中に入ると、ものすごく広い二階席もあって、こんな素晴らしいところで演奏できる大会メンバーを初めてうらやましいと思った。
本番前にはリハーサル室で練習できるのも感動した。
来年こそ、私たちもここで演奏したいと、今回メンバーから外れた一年生たちで頑張ろうねと言いあった。
そしていよいよ本番。
私たちは大会メンバーが楽器から手を離さないですむように、手分けして急いで的確に、この日のために練習をしてきたとおりに椅子と譜面台とパーカッションの楽器を並べた。
準備が整い音合わせを行い幕が上がる。
最初は課題曲のマーチ『メモリーズ・リフレイン』この曲は中盤の華やかに盛り上がるシーンでトロンボーンによる音を伸ばすグリッサンドのテクニックが必要となる。
しかも音はトロンボーンがリードするため柔らかいながらも強く吹くことが要求される難しいパート。
四本のトロンボーンの中で、一年生の江角くんは個人レッスンを受けているだけあって、完全に上級生をリードするように音を伸ばしていて彼が選ばれた理由は確かなものだったと証明してみせた。
まだ一年生も混じって合同練習していたとき、誰かが間違うたびに舌をちっと鳴らしたりあからさまに嫌な顔をしたりするから嫌いだったけど、その音楽に対する真剣な姿勢は今日のこの演奏を聴いていてとてもよくわかる。
私もあの輪の中に入っていたなら、どんなにか幸せだっただろうと思いながら聞いていた。
大きなミスもなく課題曲を終えたあとは、いよいよ自由曲の歌劇『トゥーランドット』
この曲を演奏するのは、おそらく去年の支部大会で銀賞に終わったあとから決めて練習に取り組んでいたのだと思った。
三年連続支部大会敗退した昨年の三年生も練習を怠っていたわけではないのだろう。
だから最後の支部大会で結果が出たとき、とても悔しかったに違いない。
三年間の努力が報われなかったことで、人目もはばからずに泣いた人もいただろう。
いまの二三年生は、それを目の当たりにした。
だから同じ悲劇を繰り返さないために、来年に向けて前を向いてこの曲の練習を始めた。
けっして簡単な曲ではない。
むしろ一つ一つの音を強く出し続けなくていけなくて、初心者にはかなり難しい曲。
ごまかしや、間違いはけっして許されない曲。
そしてリコーダーから楽器を持ち替えたばかりの一年生にとっては難しい曲。
いままでは一年生が入っても、なんとかついていけるような曲を設定していたに違いない。
それを彼らは変えた。
持田先生がそのことに賛成したのか反対したのかは、私にはわからないけれど個人レッスンを受けていて実力の確かな一年生のみを大会メンバーに選んだことで、かれら上級生の意志を受け入れたことだけはたしかだと思う。
そして彼らは、この曲を自分たちのものにした。
自身と決意に満ちあふれている、この曲を聴いて私は思った。
この曲はメンバーから外れた私たち1年生にとって明日へのエールでもあることも。
やればできる。
努力はけしてむだではない。
その思いを伝えるように、曲の最後は静かに私たちメンバーになれたかった一年生に語りかけてきて私たちの胸を熱くした。
曲が終わったとき、観客席から盛大な拍手が沸き上がった。
その拍手がさらに私の胸を打ち、私はうれしくて泣いてしまった。
三村さんも一緒に、そして女子の何人かも泣いていた。
泣き崩れ、俯く目の前には青い冷感タオルがゆれていた。
心配した美緒と伊藤くんが傍に来て私を介抱しようとしてくれた。
でも私は青い冷感タオルを握りしめ、それで涙を拭いて自力で立ち上がった。
まだ私の大会は終わってはいない!
「さあ、次の大会へ向けて、片付けましょう!」
幕が閉じたとき、私はみなに号令をかけて真っ先に機材の撤去作業をするために舞台へと向かった。




