~吹奏楽部の大会2~
しばらくして村上さんたちは部を辞めた。
彼女たちが辞める前から甲本くんも部に来なくなっていたので、甲本くんも彼女たちと同じ理由で辞めたのかと思っていると、しばらくして部活に顔を出すようになった。
帰り道で何があったのか甲本くんに聞いても、なにも教えてくれない。
言いたくないことを無理に聞くのは悪いから、それっきり聞かなかった。
これは後で三年生の鈴原先輩に教えてもらったのだけど、甲本くんは村上さんたちがなにか悪いことを起こすと思って音楽予備室で見張っていたらしい。
そこに彼女たちが来て、木管楽器のケースをいくつか開けてオーボエを見つけて壊そうとしたらしく、甲本くんはそれを咎めて村上さんを殴った。
村上さんたちの悲鳴を聞いて慌てて飛んで来た三年生たちが、その現場を見てすぐに先生を呼びに行った。
村上さんは意味も分からず甲本くんに殴られたと言っていて、普段から制服のボタンを外していて見るからに素行の悪そうな甲本くんをかばう人はいなくてみんな村上さんの言うことを信じた。
けれども甲本くんの言ったことに不安を感じた鈴原先輩をはじめとする楽器係で棚を確認したとき、片方のロックが開けられていつもの置き場と違うところに投げ捨てるように置かれていたオーボエのケースを発見して持田先生に報告した。
日頃から備品の管理をしていた鈴原先輩は、いつも部活が終わったときに決められたところに帰していることをチェックしていたので私が間違えておいたわけではないことを知っていてくれた。
そして持田先生は甲本くんと村上さんたちの両方に、そのことを確認して村上さんは悪戯しようとしたことを白状したそうだ。
もし甲本くんがいなければ、誰も知らないまま私が借りていたオーボエは壊されていたかも知れない。
そう思うと怖さでゾッとしたし、持田先生が秋子お姉さんからもらった楽器を学校に持ってこないように言ったわけもわかった。
もらった物とはいえ、秋子お姉さんはアメリカの有名な楽団に所属しているプロの演奏家らしいから、練習用だとしてもそれほど安いものは使用しないだろう。
そのことはあまりこの楽器に慣れていない私でも、音を聴けばすぐに分かるくらいハッキリ聴き分けることができるくらいの差があった。
もしも秋子お姉さんからもらったオーボエが壊されていたら、私はいまこうしてここには居ないだろうと、それを聞いたとき私は思った。
もちろんオーボエを守ってくれた甲本くんには、遅ればせながらそのことを知った後でチャンとお礼を言ったが、彼はぶっきらぼうに「偶然現場に出くわしただけのことだ」と言った。
七月の期末テストも終わり、大会まで残り十日。
大会前の練習は、記録的な夏の暑さも加わり過酷だ。
私の発案で大会メンバーではない一年生を集めて、ミーティングを行った。
ミーティングの主題は、私たちにできること。
暑い夏の日の練習を頑張って欲しいと思ったから。
フルートの三村さんが、足を冷やせば効率的に体温を下げることができると言ってくれた。
足湯ならぬ足冷水。
なるほど、これなら座ったまま演奏するので名案だと思った。
しかし両足を浸けるとなると、それ相応のうつわが必要となるが、両足を浸けることができるタライのある家なんてほとんどない。
伊藤くんがバケツなら学校に沢山あると言ったけど、バケツではつま先立ちになってしまうし、倒れる危険もあり暑さは凌ぐことができたとしても逆に集中力を持って行かれる恐れがあった。
美緒が扇風機を持って来ることを提案してくれた。
扇風機なら涼を取れるけれど、各家庭に余っている扇風機なんて殆ど無いだろうから毎日持ってきた物を持って帰らなければならないし、もし壊れたときに家の人に迷惑が掛かるので先生も許さないだろうということになった。
甲本くんが水に濡らすだけで、ひんやりする冷感タオルはどうだろうと提案した。
冷感タオルは持っている人は持っているよねと誰かが言った。
たしかに持っている人は持っている。
けれども持っていない人もいるし、それを学校で使うのをためらっている人もいるだろう。
でも100円ショップなどでも売られているし、実用性も高い。
私はあることを思いつき、それを提案した。
「みんなで同じ色のものをそろえたらどうでしょう?」と。
「一体感生まれるよね!」すぐに美緒かがそう言ってくれると、みんなが賛成してくれた。
全員同じ冷感タオルを巻くことに決まり、色は議論の結果、青色に決まった。
青色に決まった理由は、誠実、忠実、真実という色言葉から。
それにスタートをきるには信号が青になってからという意味も込めて。
一応先生に無断では出来ないから、そのことを先生に伝えると先生も了解してくれて、さらに部費で購入することになり、翌日私たちは冷感タオルの調達に向かった。
買ってきた冷感タオルはすぐに使わず、女子たちで家庭科教室に集まって「西中ガンバ!」と刺繡を入れてからみんなに配った。
先輩たちをふくめ大会メンバーの人たちは喜んでくれて、おなじものをつける私たちもそれは同じだった。
大会に出る者と出られない者ではなく、代表者とそれを送り出す者が一体となり大会当日までともに自分たちの役割をまっとうした。




