~吹奏楽部の大会1~
大会に向けての練習が始まり、大会メンバーが音楽室で全体練習を行い、私たちメンバーに選ばれなかった一年生は木管と金管に分かれて練習していた。
金管は中庭で、私たち木管は理科室を使っていた。
練習を始めてすぐに、演奏を止めて話を始めた者たちがいた。
「三年生の鈴原先輩とか、二年の二岡先輩とか、どう見ても下手なのにメンバーだなんておかしくね?」
「どっちみち今年も県大会なんて行けないんだから、一年生ももっと選んで55人の枠いっぱい使えばいいのに、何考えてんだか」
「あーヤル気しねえ!」
「結局大会メンバーに選ばれた二人って学校外の音楽教室に通っている人たちなんだって!」
「ファゴット、いらねー!」
「江角も生意気!」
「オーディションもなかったし、どうやって選んだのだろうとは思っていたんだ」
「結局、そこか!?って感じだよね」
「持田先生、安直すぎ~!」
彼女たちは、大声で笑い始めた。
みんなの練習を止めるように彼女たち三人は、話に参加していない子にも話を振ってきた。
「ねえ、菊地原さんは、どう思う?」
美緒がその話を振られた。
美緒は否定も肯定もしないけど、なるべく振られた話に沿うようにも取れる曖昧な返事をした。
さすが美緒。
何事も波風を立てない平和主義者。
「ねえ、三村さんはどう思う?」
美緒の返事には納得できなかったらしく、彼女たちはフルートの三村さんにも聞いた。
三村さんは口数の少ないおとなしい子だから、楽しくない話を振られて困っているようだった。
困っている三村さんに目を向けたとき、三人のうちの一人、村上さんと目が合った。
とても鋭い眼。
口元は歪に笑っていた。
村上さんにしてみれば、備品にない楽器を指定してそれを学校に購入してもらった私がメンバーから落ちたことが嬉しいのだろうとおもった。
そしてその嫌な話を振る相手は、おとなしい子に限定させている。
人はそれぞれの環境で育ち、それぞれの個性を持っている。
合うか合わないかは誰にだってあるし、それはしかたがないこと。
悔しい気持ちは分かるけれど、それを妬みに変えて何になるというのだろう?
今は練習時間。
大会メンバーたちの練習の音は絶え間なく聞こえている。
私たちは学年という枠に守られている。
一年生だから、しかたない。
一年生なのに、すごい。
そのようなことは年齢と言う枠を取り払えば、なんの意味も持たない。
むしろ私たち一年生は、その枠に守られていることの方が多い。
メンバーに選ばれた人たちが時間を惜しむように練習している中で、練習を止めてまで話をする内容ではない。
私たちがメンバーに追いつくためには、練習するしかないのだ。
このような未来のない話をしている間にも、その差はどんどん開いていくばかり。
私はオーボエと譜面台を持ち、個人練習をしてくると言い残して輪の中から離れた。
背中越しに嫌な笑い声が追ってきたが、かまわずにいつもの場所に行って練習した。
彼女たちが私を追いかけてくるかもしれないという不安はあったが、結局なにごともなく練習時間は終わった。
同じ小学校の吹奏楽部の私たちは、四人でいっしょに帰った。
美緒があのあとのことを私に話した。
けっきょく彼女たちは、ずーっと愚痴を言い続けて練習の邪魔をしていたらしい。
甲本くんはそれについて何も言わなかったけれど、お調子者の伊藤くんが美緒から色々と話を聞きだし、彼女たちが私の悪口を言ったことも美緒は聞かれるまま話した。
伊藤くんがその話を聞いて「女子は面倒くさい奴がいるな」と言った。
わたしもそう思う。
女子は、たしかに面倒くさい。
あの子たちだけでなく、私も同じ。
もちろん彼女たちのような妬みはないけれど、人間の感情というものは恐ろしいほど複雑に出来ている。
私だって大会のメンバーに入れるものなら入りたい。
それは美緒だって三村さんだって同じだと思う。
けれども大会は練習ではなく、決して失敗は許されない。
誰だって失敗したくて失敗するわけではない。
私だって、失敗しないという自信はあるけれど、入部してたった数ヶ月間で他人から見てそのことを保証できるだけの実績があるかと聞かれると無いと答えるしかない。
そいう意味では、上級生には実績がある。
いままで蓄積された努力が、それを証明する。
一年生で選ばれたのが個人レッスンを受けている二人というのは、それを見越してのことだと思う。




