~里沙と私の頑固同盟1~
私たち一年生が、ちゃんとチューニングを合わせられるようになったころ、全体ミーティングで私たち西中の年間スケジュール第一段階が発表された。
「第一段階ってなに?」
「さあ」
美緒に聞いたけど知らないようで、聞いた私は上級生から私語をつつしむように注意された。
発表された第一段階は七月におこなわれる全国吹奏楽コンクール支部(市)大会へ出場することだった。
ここで支部代表に選ばれれば八月の県大会への出場でき、ここで県代表に選ばれれば9月の東日本大会、さらにここで代表に選ばれれば十月の全国大会に行ける。
「すごい!全国大会で優勝したら次は、せ、世界大会!?」
感動した私が美緒にそう言うと、席の後ろから「あるわけないだろうバカ」と言われて振り向くと、あのトロンボーンの嫌な男子がいた。
たしかに、あるわけないのかもしれないけれど、市から県、県から地域、地域から全国という流れだと次は世界かなって思うでしょう?と、思った。
あとでそのことを美緒に言ったら、アジア大会はないの?と言われ、あー確かにそこも抜けていると思った。
年間スケジュールの次の段階というのは、支部(市)大会の結果次第で大きく予定が変わってしまうということで、最終目標はもちろん全国大会への出場となるらしい。
鼓笛隊をしていたときは、四月の桜フェスティバルは終わったら次は五月の横浜と毎年出場することが決まっていたのに、ここでは直近の大会での結果次第だということに驚いた。
つまり大きな催しに参加するのは、エントリーすれば出られるわけではないということ。
そのシステムは、なんだかたいへんそうだけど、小学生のころからたった一か月でずいぶん大人になったものだと自分の置かれた環境の変化に驚かされた。
そして私のように夢ではなく、それを現実としてとらえている目の前にいる人たちを見て、私だけ大人になれないで置いてけぼりにされてしまうのではないだろうかと不安になった。
この日、新しい楽譜が配られて大会へ向けての練習が始まった。
小学校ではしたことのなかった朝練というものも、あった。
先生たちがまだ集まる前から登校するのは小学五年生のとき、放送クラブで当番に当たったとき以来でおもしろかった。
朝五時に起きて、ロンの散歩に行って、朝食を食べて七時の正門の開く時間に間に合うように家を出る。
「おっ、早いな、一年!」
三年生の先輩から、声をかけてもらってうれしかった。
うれしいから毎日必ず七時前には正門の前に来るようになった。
なんだかロンといっしょ。
褒められたら、うれしくてなんでも覚えてしまう。
ただすべてが楽しいわけではない。
一年生の中で、朝一番に必ず来るのは私のほかには、あの嫌なことをいう背の高い男子の二人だけ。
名前は江角くん。
担当はトロンボーンで、かなり上手いらしい。
美緒とか他の女子からイケメンとか王子とか言われていることは知っているけれど、私は苦手。
だって入部届に希望楽器の欄にオーボエって書いたときに話しかけてくれて、同じ小学校出身者以外で初めて友だちになってくれると思って内心喜んでいたのに、「経験者なの?」って聞いてきた彼の言葉に少し迷って経験者ではないと正直に言うと「話しにならねえな」と言われてから妙に癪にさわる。
たまに目が合ったときも、すぐに目を反らしてそっぽを向くし。
そんなに一方的に私を嫌うのなら、私だって嫌いになっても悪くないでしょう?
朝練に早く出るのは、もちろん褒めてもらえるからだけではない。
みんなが集まると音が混ざるので、あまり人のいないときに自分の音をよく聞いておきたかったから。
校舎と校舎の間にある中庭の隅、人通りもなく日も当たらないところに持ってきた折り畳み椅子を広げて座って課題曲の練習をしていたとき、パタパタと大股で走ってくる足音に気がついて演奏を止めた。
これはソフトボールの朝練に向かう里沙の足音。
今日も里沙は元気そのもの。
「おっはよう、千春!」
「おはよう里沙!」
里沙は元気にそこからグラウンドに向かって駆けて行った。




