~里沙と私の頑固同盟2~
吹奏楽コンクールには50人のA編成での出場だったから、ほとんど全員出られるのかと思っていたら、メンバーに選ばれたのは40人だった。
一年生からはファゴット担当の福田さんと、トロンボーンのあの嫌な子(江角くん)の二人だけだった。
大会メンバーに私が選ばれなかったことを知った里沙は、もうかんかんに怒って顧問の持田先生に問いただしてくると言い出した。
私のことを大切に思ってくれているその気持ちはとてもありがたいし、うれしいけれどソフトボール部で私の演奏をまともに聴いたこともない部外者が口を挟む問題ではないと落ち着かせようとしたら、その言葉はかえって里沙を怒らすことになってしまった。
「ソフトボール部で練習していたって、千春の演奏する音を私がわからないわけないじゃないの! 私はどんなにキツイ練習でも、どんなに嫌なことがあっても、千春の吹くオーボエの音は私へのエールだと思って聴いている。だからどんなことも乗り越えられてきた。……だから、千春には大会メンバーになってほしかった。選ばれるべきだと思っていた。千春は悔しくないの!?」
私は返事に困った。
里沙が私を思ってくれている気持ちは分かるし、それに応えてあげたいとも思った。
けれども、それは無理だということを。
なぜなら私自身、大会メンバーに選ばれなかったことに、ひとつも悔しいと思っていなかったから。
ひとつも。
そう、ひとつも。
たった数人だけ選ばれない中に入るのは、すこしだけかっこう悪いとは思っていたけど、それも嫌だったわけではない。
もともと選ぶものと選ばれるものの二つに分かれたとき、選ばれるほうの立場に身をゆだねたときから私はその結果に対していかなる感情も抱いてはいけないことはわかっていた。
たとえ選ぶほうに何か特別な事情があったとしても、そのことに変わりはない。
まして選ぶほうの立場にいる持田先生は、学校の備品になかったオーボエを私ひとりのために用意してくれた人。
そのような人が不正なかたちで私を落とすはずはない。
里沙にそのことを話すと、彼女はもう一度さっき言った言葉を投げかけてきた。
「悔しくないの?」と。
私はその問いに、何とも思っていないと正直に答えた。
悔しいというものは、自分自身の努力が足りなかったと認めている人か、もしくは自分の実力を過大に思い描いていた人が言う言葉だと思う。
私には決してそのように後悔する気持ちはない。
「千春って、おひとよしそうに見えて、すごく頑固だよね」
「そう? そんなこと言われたことないよ」
「それは、いままでそこに相手を踏み込ませなかっただけでしょう?」
里沙に言われて、そうなのかもしれないと思った。
兄とは八歳も離れているから喧嘩をすることもなかったし、家族みんなから大切に育てられた自覚もある。
でも決してあまやかされて育ったわけではない。
私が悪い時には常に兄がやさしくとがめてくれていたし、こうすればこうなるということも教えてくれた。
だから私は、そうならないようにすることを身につけていたのにかもしれない。
頑固だなんてはじめて言われた。
私は里沙がそう言ってくれたことをうれしく思った。
放課後、部に出る前に持田先生に呼ばれた。
なんだろうと思って職員室に行くと、大会メンバーの件だった。
理由を聞かされるのは嫌だった。
理由は言いわけ。
理由を言われることで、先生を嫌いになるかもしれないから。
しかし持田先生は理由を言わず、あと二年待っていてほしいと私に言った。
もちろん二年生になれば今のままの調子なら大会メンバーに加えると言ってくれたが、それでもあと二年我慢してほしいと私に言った。
何が問題で何を我慢するのか、まったく見当もつかなかったけれど、私は素直に「はい」と明るく答えた。
先生は私の返事が予想外だったのか、それとも物足りなかったのか、一瞬呆気にとられたような顔をして「これからも、頑張ってください」と言ってくれた。
大会のメンバーになるよりも、先生がわざわざ私を呼んでまで「頑張れ!」と励ましてくれたことのほうが余程うれしかった。
校舎と校舎の間にある中庭の隅で個人練習をしていたとき、グレープフルーツくらい大きなボールが私のほうに向かって転がってくるのが見えた。
里沙が楽しそうにそのボールを追いかけてくる。
里沙がスピードを緩めて、わざと私の傍まで来てボールを手に取った。
「よかった千春が元気で、私も負けないよ。頑固同盟!」
「うん」
私の返事と同時に、里沙が投げた白いボールは遠い青空の中に吸い込まれるようにぐんぐんと伸びて行った。




