~楽器を選ぶ理由~
吹奏楽部の練習は楽しかった。
小学校のときはほとんどみんなリコーダーだったのに、この吹奏楽部での練習はさまざまな楽器があり、それぞれが違う演奏をする。
オーボエは私一人だったけど、美緒のクラリネットは同じ曲なのに二つ以上の異なる演奏をする。
これはフルートも伊藤くんたちのトランペットも同じ。
トランペットやトロンボーンのような金管楽器に、クラリネットやフルートといった木管楽器だけではなく、マリンバやドラムのような打楽器、さらにハープやコントラバスまであった。
さまざまな楽器が、さまざまな演奏をして、それが組み合わさったときにどのような演奏になるのか想像するとなんだかワクワクしてしまう。
とはいっても、練習はたいへんだった。
なにしろ小学生のときのように歌詞がつくような曲ではなく、本格的なクラシック音楽の演奏をするのだから。
そして1年生に課せられた最初の課題は地味に、チューニングのB♭の音を出すこと。
最初はみんなで何度も挑戦していたけれど、何度やっても合わないからそのうち個人に分かれて、もうチューナーの取り合い。
1年生全員のチューニングが終わり、ようやくみんなで集まって音合わせを行うと、いままで苦労してやってきたことは何だったのかというくらいメチャクチャ。
これではいつまでたっても練習できないので、三年生の何人かがいっしょにみてくれてチューニングが安定している人から次のステップに進めることにしてくれた。
私は秋子おねえさんのオーボエをもらったときに、一切演奏させてもらえずにこの練習ばかりしていたので初日からOKをもらい練習用の譜面を渡された。
一年生の練習が始まってもう一週間たつのに譜面を渡されている人は半分程度しかいなくて、その中にクラリネット初心者の美緒はいたけど、小学校の鼓笛隊でトランペットの演奏をしていた伊藤くんはいなかった。
「美緒、さすがね!」
演奏の練習の合間に美緒に声をかけると、美緒は先週の金曜日にようやく譜面をもらったのだと教えてくれた。
「それにしても千春って、オーボエ習っていたの?」
美緒に聞かれた私は、歳のはなれた従妹からオーボエはもらっていたけど、習ったことはないと正直に伝えた。
「じゃあ、才能あるのかも!」
そういってくれるとうれしいのだけど、家族のだれもオーボエの演奏ができないので、楽器をもらってからずーっと音合わせの練習しかしていなかったことを白状した。
あのころはロンがよろこんでくれるからそれが励みとなって続けることができたけど、もしロンがいなかったら続けることはできなくて伊藤くんたちと必死にチューナーの取り合いをしていたことだろう。
いや楽器の都合で練習がみんなより一週間遅れた私は、それで完全に出遅れていたことは間違いないのだ。
「すごいですね、来て一発で音を合わせるなんて」
「えっ、え~っと……」
不意に知らない子に話しかけられて驚いた。
「あっ、私、福田です。福田加奈子、担当は鮎沢さんと同じダブルリードのファゴットです」
福田さんは同じダブルリードと言ってくれたのだけど、私はファゴットもダブルリードの楽器だということを初めて知った。
福田さんはおとなしい子で、小学校4年生から音楽教室に通ってファゴットの演奏を練習していることを教えてくれた。
いろんな楽器の中からなぜファゴットを選んだのか聞くと、小学校三年生のとき横浜みなとみらいホールで行われていたコンサートに行き、そのときにボレロに出会ってから好きになったと教えてくれた。
小学校三年生のときに、家族でクラシックコンサートに行ったなんてすごいと思った。
私が小学校三年のころだと家族で橋本にあるショッピングモールの映画館でアニメ映画を観に行った記憶があるので、その違いが子どもっぽすぎて恥ずかしかった。
それに私がオーボエを好きになったのも、お母さんがむかしDVDに録画していた朝ドラのテーマソングだったからというものだったし。
「ねえ、美緒はなんでクラリネットを選んだの?」
不安になって美緒に聞いてみた。
「選んだ理由? だってかわいいじゃん」
なるほど、音以外にも選ぶ理由はあるのかと思った。
私たちの会話を聞いていた伊藤くんが、俺には聞かないのかというので、かわいそうだから聞いてあげると「俺が吹くとかっこいいじゃん!」と偉そうにして言った。
美緒があきれて私の耳元で「自分の出す音を聴いたことないのかな」って言い、私はそれを伊藤くんには言わないように注意した。




