~卒部会は山小屋で3~
私たち吹奏楽部の部員は学校で手配されたバスに機材を積み込んでキャンプ場に向かった。
学校行事ではないので、バス代は実費だけど持田先生の他にも私たち生徒の安全を守るために引率の先生がつく。
おそらく全国大会に出ることが決まり、その合宿をすることになったらこんな感じになるのかなって思うとなんだかワクワクしてしまう。
楽器は借りているコテージにひとまず片付けてタープを張り、それが終わるともう昼食の準備。
その前に携帯を確認すると里沙から『従兄といっしょに行くことになりました!』とメールが入っていた。
従兄ってどんな人だろう?
ロンを任せても大丈夫なのだろうかと少し不安になる。
実は平日なのでお母さんが来られないので、里沙がロンを車で連れてきてくれるとは言っていたのだけど、どうやら里沙のお母さんとかではないみたい。
昼食は焼きそばなので、美緒たちとキャベツを切る。
春休み中なのに部員全員が参加してくれたうえに、緑ちゃんの他にも二人の女の子と西小の先生まで参加してくれた。
切ったキャベツなどを洗い終わると今度は男子部員にバトンタッチ。
男子が起こした火に鉄板を乗せて油を引き、切ったお肉とキャベツやニンジンやモヤシにピーマンを炒め、しばらくしてソバを入れ、最後にソースを絡めて出来上がり。
出来上がった時に時計を確認した江角くんが「調理に取りかかって、完成まで四十分かかっている」と言ったのに対して、伊藤くんが「俺たち何部よ!」と突っこんで皆を笑わせていた。
特に笑いを取る目的で行ったわけではない江角くんは、笑われたことに対して複雑な表情を見せて、それを見てまた皆が笑った。
「江角くんって、ホント真面目っていうか、ちょっと硬すぎだよね!」
美緒が私の耳元でささやいて笑っていたけど、完成までに要する時間を記録しておくことって、大切なことじゃないのかなって私は思ってしまった。
私はきっと忘れてしまうけれど、何となく兄なら江角くんと同じことを言いだしそうな気がした。
昼食を食べ終わって片付けをしている間に何台かの車の音が聞こえ、一般参加の部員の家族や持田先生の奥さんが到着した。
先生の奥さんって持田先生には失礼だけど、もったいないくらいの美人!
まだ四歳の男の子もかわいいし。
先生の奥さんと子供を囲んでしばらく遊んでいたときに、もう一台車の車が入ってくる音が聞こえた。
『あれ!?この車の音、なんだか聞き覚えがある……』
オートキャンプ場ではないので、車の音は聞こえても離れたところにある駐車場に止める車は見えない。
車の音が聞こえてもなかなか誰も来ないので、ただの通りすがりの車か空耳だったのだろうと思っておしゃべりの輪の中に加わっていると、聞きなれたあの声が耳に……いや、心の金を打ち鳴らした。
「ワン!ワン!!」
あこがれ色のまなざしを向けると、遠くのほうから大きな男の人をグイグイ引っぱりながら走ってくるロンがフェードインしてきた。
ロンの横で手を振りながら「おまたせ~!」と言っているのは里沙。
そして体を反らせながら走ってくる男の人は……茂山さんだ!
あの車の音は、茂山さんのワンボックスバンだったんだ。
ロンが私に飛びかかってきて、今日は私を押し倒さずに顔を舐めまくる。
やっぱりロンもいっしょにいたかったんだと嬉しくなる。
みんなが、それを見てかわいいと大騒ぎになり、すぐにロンはみんなの人気者。
特に女子たちに囲まれてロンは大喜び。
みんな(特に女子)に愛想を振りまくロンを見ていると、最初のときめきからだんだんうんざりした気持ちになってきた。
顔こそ笑顔にしていたけれど、心の中はイライラしながらロンがほかの女子と遊ぶのを見ていると、急に里沙に手を引っぱられてコテージの裏に連れていかれた。
なんで連れていかれたのかわからなかったけど、そういえば里沙に私も聞きたかったことがあった。
「ねぇ、従兄じゃなかったの!?」
里沙は、口の前に人差し指を立ててシーっと言うとキョロキョロ周りを確かめてから、拝むように私に手を合わせて「だから、従兄ってことにしておいて!」と言う。
「なんで?」って聞くと、あとあと面倒だからと答える。
まあ確かに茂山さんは兄の友達でいっしょにスキーに行って知り合って、そして偶然実家がペット同伴の喫茶店を経営していて、それで常連さんになって仲良くしてもらっているけれど、それをいちいち全部説明するのはたいへんなので“従兄”ってことにしておいたほうが成り行きを知らないほかの人向けには都合がよさそうだと思った。
わたしが「いいよ」って答えると、里沙は「助かったぁ~」とホッとした表情でため息をついた。
「あら、助けてもらったのは私のほうよ。ありがとう里沙!」
里沙に改めてお礼を言うと、里沙の目が小悪魔モードに変わった。
「それにしても、千春。やきもち焼きすぎよ!」
指でオデコをツンツンしてくる。
「えーっ。そんなの焼いていないし!」と、私は反論すると、そんなにあからさまに焼いていたら江角くんに嫌われるぞ!って言われ、急に耳が焼けるように熱くなった。
「ぜっ、ぜんぜん、江角くんなんて関係ないし!!」
おそらく私の顔は言葉に反して真っ赤なのだろうという自覚はあった。
しかし、そのあとの里沙に指摘されたことが私の意表をついた。
「ははぁ~ん。さては告白されたな!」
「ばっ・ばか!違うったら!」
急に走り出した里沙を追いかけながら不思議に思った。
なんで里沙は、江角くんが私のことを好きなことや、その江角くんが私に告白したことがわかるのだろう?
ひょっとして里沙ってエスパーなの?




