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~さようならロン、またあう日まで~ (中学校編)  作者: 湖灯


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   ~卒部会は山小屋で1~

 卒部会の相談を受けて、いままでのことを思い出しながら考えていた。

 春日部長たちを送り出した一年生のころ、狩野部長や二岡先輩たちを送り出した二年生のころのこと。


 高校生になった先輩たちとはもうほとんど顔を合わせることもない。

 特に中学時代と変わらずに吹奏楽を続けている先輩となると、行動パターンが同じで行く方向が異なるので “すれちがい” にもならない。

 吹奏楽コンクールの相模原支部大会も高校A編成の部は私たち中学A編成の翌日に行われるから、自分たちの大会を明日にひかえた先輩たちが観に来ることもなければ、ここで県大会進出が決まって新たな目標に向けて胸をおどらせている私たちが練習をキャンセルして先輩たちの演奏を観に行くこともない。


 おそらくこの関係は先輩たちが高校を卒業するまで。

 いや、私たちが高校を卒業するまで変わらない。

 いっしょに練習して、時には意見が対立して険悪になったり、同じ目標に向けて協力し合ったりしたあの思い出も色あせてしまうかもしれない。

 もっと先輩たちと仲良くしたかったし、いっしょに遊んでみたかった。

 もちろん最上級生となったいま後悔するのは、先輩たちとではなく後輩たちとのことも。


 卒部式。

 昨年と一昨年のことを思い出すとそんな先輩たちとの交流の場面よりも、先輩たちに配るプレゼントのために家で製作したことや、卒部会で食べるサンドイッチや手作りのお菓子を作るために昼休みからてんてこまいになっていたことばかり思い出してしまう。

 あらためて送り出される身になって思うことは、先輩たちをとどこおりなく送り出すことばかりに集中してしまい、なにか本質を忘れていたようなそんな寂しい気もする。


「ねえ、ちょっとわがまま言っていい?」

「はい」

 いろいろ考えた私は、いつも好きなことを言って周囲を巻き込んでしまう面倒な元副部長の最後のわがままとして提案してみることにした。


「山小屋でね、みんなと遊びたい」と。


 無理なことはわかっていた。

 毎年、卒部会は卒業式の前の週に行われる。

 その時期の吹奏楽部は、卒業式に演奏する楽曲の練習から、一か月後に入ってくる新入生の入学式の演奏の練習。

 あとは来年度の吹奏楽コンクールの課題曲や自由曲を決めることなどで忙しい。

 無理なことは承知のうえで、私は自分の気持ちを伝えるつもりで提案した。


 案の定、今川さんと宮崎くんは少し顔を見合わせていた。

 それでも二人は私に笑顔を向けて「わかりました。ありがとうございます!」と、気持ちのいい返事をしてくれた。

 私には、その笑顔だけで十分だった。



 次の日、教室で江角くんが私のところに来た。

 吹奏楽部の元部長と副部長ながら、教室で話をしたことはほとんどなかったので、離れたところにいる女子たちが少しざわついていた。

 わたしも県大会のあと告白のようなことを言われたことを思い出してしまい、妙に緊張する。


「鮎沢、ちょっと聞いていいか?」

「は、はい!」

 告白の返事を受けていないと怒られるのかと緊張して声が上ずってしまった。

 そういえば春日部長のときも狩野部長のときも木乃美ちゃんのお兄さんの堀田先輩のときもその他の人からも似たような声をかけられたけど、私はただ驚いただけで誰にも返事をしていない。

 ついにその罰を受けるときがやってきたのだと思った。

 しかも相手はラスボス級の江角くん……。


「山小屋って、なんだ?」


「へっ!?」


 思いもよらない言葉に、私はいっしゅん我を失い、すっとんきょうな声を出してしまった。


「だから山小屋ってなんだ? おまえ卒部式に山登りをして肺活量を鍛えるつもりなのか?」

「い、いや……」

 とまどっている途中で、やっと話の意味が分かった。


 山小屋とは私が今川さんたちに言ったリクエストで、今川さんたちは私が肺活量を増やすトレーニングを兼ねた卒部式のイベントと勘違いしたのかもしれない。

 そして同じクラスで、元部長の江角くんにそれとなく聞いてもらうようにお願いしたのだろう。

 しかし江角くんの言葉は、それとなくではなく剛速球の直球だった。


 近くで話を聞いていた里沙と美緒が「登山?」と聞くと、どこから現れたのか違うクラスの伊藤くんが「鮎沢、おまえまさかその高野山での武者修行みたいなことをして、それに合格しないと卒業させない。ってわけか?」と面白半分で突っ込んできた。


 私は慌てて「山小屋でみんなとご飯を作って食べたり、夜に演奏会をしたりして遊べたらいいなって」そう思っていたことを伝えると、みんなは一度お互いの顔を見合わせたあと声をそろえて言った。


「それはふつうキャンプって言うんじゃないの?」と。

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