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~さようならロン、またあう日まで~ (中学校編)  作者: 湖灯


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   ~涙の卒業式2~

 卒業証書授与式が終わると、在校生代表の送辞に続いて卒業生代表の答辞が行われ、いよいよ式も終盤になり卒業生による合唱が行われる。

 卒業生全員が席を立ち、ステージへ移動し父兄と向き合い、その後ろには二年生がいた。


 江角くんが指揮棒を執り「旅立ちの日に」を全員で歌う。

 女子のほとんどは泣いていて声が出ないので、男子の低いパートが目立つ。

 私は泣かずに江角くんの指揮棒をにらみつけるように見つめ、大きく口を開いて歌った。

 そうすることで涙が我慢できた。

 次第に女子の中にも私と同じように頑張って歌おうとする子が増えてきて、男子に負けないちゃんとした合唱になった。


 合唱が終わり、もう一度席に戻ると吹奏楽部が静かに「仰げば尊し」を奏で始めた。

 去年も一昨年も私たちも奏でた曲。

 今日は聞きながら送り出される立場。


『感動屋』と呼ばれるゆえんは、いつも最後に泣き出してしまうところからきているが、今日は泣かないコツをつかんだから最後まで泣くことはないだろう。


 目を大きく見開いて少しだけ見上げるように顔を上げる。

 鼻を刺激しないように息は口を少しだけ開けてゆっくりと呼吸する。

 別に泣いちゃいけないわけではないけれど、何となく桜の咲く四月から高校生なのに、いつまでも『感動屋』に甘んじてはいられないと思ったから。

 先輩としても後輩たちに、しっかりした姿を見せておきたい。


 いよいよ私の列にも退場する番が回ってきた。

 列が一斉に立ち上がり、そのまま通路に向かいそして通路を出口へと向かう。


 吹奏楽部の演奏する「仰げば尊し」がいったん終わり、次のリピートが始まるはずだった。

 でも再び始まった曲は「仰げば尊し」ではなく、耳に聞こえてきたのは私の大好きなオーボエの調べによる「風笛」だった。


 少し上向きの私の目は、しっかりと後輩たちの演奏する姿をとらえていた。

 中学校生活の思い出が走馬灯のようにぐるぐると頭の中を回る。

 そして目の前の体育館二階席東側に陣取る吹奏楽部。

 その中に自分がいるのを見つけた。


 一年生のときの私と、その頃の部員たち。

 会場を見る余裕もなく、ただ目の前の楽譜にしがみつくようにしてオーボエを吹いている一年生の私。

 その私が演奏の合間に慌てて楽譜をめくっていた。


 次に二年生の私が見えた。

 二年生の私は、しっかりと先輩たちにいい演奏で送り出そうと張り切っていた。

 トランペットの伊藤くんは楽譜より退場する卒業生ばかり気にしている。

 その隣で江角くんは伊藤くんが開き忘れている楽譜をめくってあげている。


『人が見ていないときは意外に優しいんだ』と、私が思ったとき江角くんが二階席から下を見て私と目が合う。


「えっ!?」と驚いた私を見てニッコリと笑い、その目を前に向けると、私を見て同じようにニッコリと微笑む演奏している私がいた。

 二階席に映る私はそのまま斜め後ろにいる江角くんを振り返りお互い何か楽しそうに言葉を交わし、指揮棒を振る前の狩野部長が私に手を振って笑った。


 一年前の先輩たちが、二年前の先輩たちが、そして今の後輩たちが目に浮かぶ。

 あんまり人数が多すぎて、いくら大きく見開いた私の目だからといっても入りきらなくてあふれ出した。

 あふれ出した思い出は涙となって流れ出る。

 つきることのない思い出と涙。

 涙なんかにして流したくないのに、とめどなく涙が流れてくる。

 とうとう私は通路にうずくまってしまう。


 とめようもない嗚咽と涙。

 何とか起き上がろうとしたときに、力が入らず倒れそうになった。

 私の両わきをやわらかいやさしい腕と、硬くて力強い腕が支えてくれた。

 里沙と、江角くんの腕だった。

 泣かないつもりだった私は、結局泣いて動けなくなってしまい二人に支えられて式場を後にした。


 体育館を出て、教室に入るまで自力で歩くことも立つこともできなかった。

 二人に支えられて教室の自分の席に座らせてもらう。

 私が椅子に腰かけるとすぐに江角くんはいなくなったけど、里沙はずっと私の傍にいてくれた。


「里沙。ごめん、私、もう、大、丈夫、だ、から」

 里沙だって悲しいのに決まっている。

 私がこんなんだから里沙に迷惑がかかっている。

 だから嗚咽をこらえながら口に出してみたものの、言葉は喉に詰まってうまく吐き出せなかった。


「いいよ。泣いている千春のお世話をしていると、改めて三年間過ごしてきた日々がこんなにも大切だったんだなぁ~って思えるし、お姉さんみたいな気分も味わえるし」


「お、ねえ、さ、ん?」

「だって、私、一人っ子だ、から……」


 里沙もやっぱり無理していたのだろう、言葉が詰まって私の背中に抱きついて泣き出してしまった。

 私は向きを変えて席から腰を浮かせて、里沙を抱きかかえるようにして今まで私が座っていた席に座らせ一緒に泣いた。

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