~涙の卒業式1~
三月になり。とうとう卒業の日が訪れた。
体育館の外で入場を待つ私たち。
卒業生として初めてこの席に並ぶ。
正直、体育館の二階にいる吹奏楽部の後輩たちが恨めしい。
できるなら私も、あの場所にいてみんなを送ってあげたい。
そして春にはまた元の通り、新入生を交えて、みんなといっしょに練習をしたい。
吹奏楽部には個人名のほかに、その人を紹介する際に使われるタイトル名が遊びで付けられたことがある。
陽気なムードメーカーの伊藤くんは「トランペットの漫才師」
ドラムの甲本くんは「スネアスティックの魔王」
誰がいつ付けたのか定かではないが、それぞれの特徴をよく捉えていると思う。
私の場合は演奏が終わった時いつも涙が零れ落ちているから「オーボエの感動屋」と付けられた。
付けられた時は正直嫌だったけれど、今では懐かしい名前。
吹奏楽部は団体競技の中でも特にメンバーが多く、それゆえに練習中ミスなどで気まずい雰囲気になったことは何度もあったし、怒鳴り合いの喧嘩が起きたこともあった。
それでも演奏という共通の目的に向かって、空中分解せずに最後はいつも一致団結して本番を迎えていた。
最後のコンクールでは県代表は叶わなかったけど、私たちの代で初めて金賞を取った。
いつまでもみんなといっしょに演奏したかったのに、この春からは、別々の高校へと進む。
卒業式典の前に、そんなことを思い出していたらいつの間にかまぶたにたまった涙が頬を伝っていた。
「おっ!感動屋の副部長がもう泣いているぞ!」
涙を拭いているところを伊藤くんに見られた。
「伊藤!お前デリカシー欠乏症!」
江角くんがフォローしてくれたけど、今日は我慢せずに正直に言いたいと思った。
「いいよ、本当に悲しいんだもん。みんなとわ・かれ……」
辛くなって途中で声が出なくなる。
すぐに里沙が背中をさすってくれた。
今の気持ちを正直に言おうとすれば悲しさがこみ上げてきて、結局里沙や他の人たちに迷惑をかけるだけになるから、式が終わるまで我慢しようと決めた。
先生の合図で、厳かな演奏に迎えられ卒業式の会場へ入る。
体育館の二階席、東側の一番後ろに陣取っている吹奏楽部が曲を奏でている。
三年生が抜けて、まだ新一年生が入ってくる前だから人数は少なくなってしまったけれど後輩たちのしっかりした演奏に応えるよう堂々と胸を張って椅子に腰かけた。
校長先生や来賓の方々の挨拶も終わり、いよいよ卒業証書授与式。
代表以外は以下同文だけど一人ひとり名前を呼んでもらって担任の先生から卒業証書をもらう。
もらいに行くまでは壇上に進むけど、帰りは当然壇上に背を向けて体育館の後ろにいる吹奏楽部の後輩を見る形になり、さっそく伊藤くんがもらった卒業証書を片手に後輩たちにガッツポーズをして拍手をもらっていた。
江角くんは先に拍手をもらって、返礼で軽く人差し指で敬礼をして、そのあと頭から下げる手で小さくハートを描いてさらに拍手をもらっていた。
男子の様子を見ていて、私もあんなふうにできたらいいな。と思っていた。
伊藤くんみたいに派手なガッツポーズは無理としても、江角くんみたいに軽く敬礼のハートバージョンくらいはしてみたい。
女子の番になり名前を呼ばれた。緊張しながら壇上に向かい、先生から卒業証書を渡される。
「高校でも吹奏楽頑張れよ!鮎沢は頑張りやさんだからきっといい演奏家になれると信じているぞ」
卒業証書を渡されるとき担任の持田先生に声をかけてもらい「ありがとうございます」と言って証書を受け取った。
それから一歩下がって90度右に向き来賓の方々に礼をして、今度は180度向きを変えて先生方に礼をして壇の左方向へと進み、そこの階段から降りる。
正面の二階席にいる後輩たちが静かにホタルノヒカリを演奏してくれている。
去年まで私も演奏していた曲。
私のポジションには今、一年生の木乃美ちゃんが座って同じオーボエを吹いている。
悲しい調べ。
私は深く頭を下げた。
今日、この場で私たち卒業生のために演奏してくれている後輩たちに、私を支えてくれた先生や同級生、下級生に、そして私たちを育んでくれたこの場所に感謝の気持ちを込めて。




