~それぞれの進路4~
冬休み、私の家では二度の異なる合宿が行われた。
ひとつは里沙といっしょの受験合宿。
もうひとつは木乃美ちゃんと緑ちゃんを招いての、演奏合宿。
私の家は大通りに面しているので、それなりに防音対策がされているので金管楽器や打楽器は無理だけど、木管楽器の演奏なら日中は外を走る車の音もあり、そうそう外には聞こえない。
本来の目的は外からの車などによる騒音対策なのだけど、逆もまたいけるということ。
訪問者がくるたびに、いちばんうれしいのはおそらくロン。
大きな犬だから初めての人はみんなびっくりするけれど、ロンはとても穏やかで愛嬌のある犬なのでふたりともすぐに仲良くなってくれた。
冬休みがおわりしばらく経つと、三年生最後の模試が行われた。
この模試の成績が、二月上旬に行われる私立試験の指標となる。
里沙も私も、この日のためにがんばってきた。
私の青葉台高校合格判定はここでAランクに乗った。
そして里沙もCランクまで乗せてきた。
「すごいね、里沙。もう少しよ!」
「いーなー、Aランク」
私が里沙のがんばりをほめたにもかかわらず、里沙の表情には落胆の色が濃く出ていた。
家庭教師に毎日来てもらい、冬休み中は毎日15時間も勉強して、格段に成績が上がったと思っていたのにB判定に届かなかったことがその原因。
里沙は私のAランクをうらやましがったので、私もまだ頑張らないといけないことを伝えると、なぜなのかと聞かれた。
「これは現時点での目安に過ぎなくて、この結果を見て、たとえばCランクやDランクだった人が自分はだめだと諦めてくれたなら私はそのままAランクの位置に居座り続けることができるだろうけど、里沙はそうではないでしょう?」と私が聞くと、里沙は明るくそして強い言葉で「負けるもんか!」と言ってくれた。
ある日、お母さんといっしょに買い物に出たとき、茂山さんのお店の近くを通った。
どんな犬がどんな飼い主と遊びに来ているのだろうと、ちょっと好奇心でお店の前を通ってドッグランのところからなかをのぞくと、窓際の席で勉強している里沙をみつけた。
なんでこんな所で勉強をしているのだろうと思ったら、里沙のとなりの席に座っている茂山さんが真面目な顔をして里沙が持っている参考書を指さして何か説明している様子だった。
なるほど!
里沙の家庭教師というのは茂山さんだったのか!
就職をせずに大学院に留まっている茂山さんなら、里沙を可愛がってくれているし、なんといっても兄と同じ国立大学だから頭もいいはず。
短期間に里沙があれほど成績を上げたのは、すごいと思った。
里沙を応援したい私は、勉強の邪魔をせず、見なかったことにして通り過ぎた。
二月の第二週、いよいよ青葉台高校受験の日が訪れた。
里沙と私はいっしょに電車に乗り、試験会場に着くまで参考書をまとめたノートを確認して試験に挑んだ。
試験が終わったあとは、いっしょに茂山さんのお店に行って二人で答え合わせを行い、私はあの日お母さんと買い物に行ったとき偶然茂山さんが里沙を教えているところを見かけたことを打ち明けた。
里沙も茂山さんも私が知っていたことに驚いていた。
やはり里沙の家庭教師をしていたのは茂山さんだった。
私は茂山さんにお礼を言い、里沙には本当にここまでよく頑張ったことを労った。
「でも、発表まで、どうなるか分かんないよ」と不安げに言う里沙に、これだけ頑張ったのだからだいじょうぶだと太鼓判を押して別れ、次の日は合格者の発表には里沙と私は共に合格してほっとした。
翌週は公立高校の入試があり、二月下旬にはその合格発表があった。
心配していた伊藤くんも美緒や桃子と同じ高校に合格して、早苗は橋本の音楽科に、加奈子は東京の音大付属に合格した。
甲本くんは公立に落ちて近くの私立に行くことになったけれど、一応みんな無事に進路が決まってほっとした。
あれっ?
そういえば江角くんはどこを受けたのだろう?
まあ、学年トップの江角くんのことだから、どこを受けても落ちるはずはないと思っていてあまり気にしていなかった。
そんなある日、部長の今川さんと副部長の宮崎くんから卒部会についての相談があった。
相談の内容は、今まで通り卒業式の前の日程で、今まで通り音楽室でするのがいいか。
それとも何か希望があれば意見を聞かせてほしいという内容だった。




