衝撃のUSB
弁護人事務所の中は、驚きのあまり音をなくしていた。
「穴ですね。」
「穴ですな。」
「穴でしたね。」
「穴?なの?よく分かんないんだけど?穴?」
「判決の問題点のことね。」
「あ、そういうことね。ずっと穴って何だろうって思ってたんだよね。」
ワフッ
リビングの外からジャッキーの鳴き声が聞こえる。
「ジャッキー餌かな?さっきあげたのに。吐いちゃうから、『めっ!』してこないと。」
木暮真奈がリビングを出ていく。
「さて、これは確実に上告理由ですがな……」
「まあ、問題ありますよね……」
「先に言っときますが、私は無理です。私のツテも役立たずです。すいません。」
「何よ、ちゃんと役立ちなさいよね。元刑事なんだから。」
いつのまにか戻ってきていた木暮が声を出す。
「純ちゃんには無理です。これはデカすぎですよ。」
「よし、出来たら『純ちゃん』って呼んでやるよ。」
「え、そうね……いや、無理無理。デカすぎて、純ちゃんでは役立たずです。また、ねつ造とか妄想とか逆恨みとか言われるだけです。」
「そうなの?え、持ってけばオーケーなんじゃないの?この映像。」
「あのねぇ、これだけ大きな事実だと、真正の証明が重要なの。」
「シンセイの証明って何?」
「これが本物です。という証拠のことですな。」
「え、本物じゃないの?」
「本物でしょうな。」
「それどころか、本物中の本物よ。ハム絡みの証拠物よ。」
「じゃあ、本物ですって言えばいいじゃない?」
「どこで手に入れましたか、となりますな。」
「素直に言えば?貰いましたって。」
「裁判所はねつ造を疑いますね。」
「誰が作って得するのよこんな映像。」
3人は直ぐに自分自身を指差す。
木暮はようやく事態を飲み込んだ。
「つまり、ねつ造を疑われるってこと?」
「最初からそう言ってるじゃない、バカなの?」
「うっさい、黙れ。」
岡部は、すぐにシュンとする。
「なら、どうするの?これ?」
「密告者に真実を語って貰うのが一番ですがな。」
「じゃあお願いしよう。」
「出来るなら最初から密告じゃなくて持ってくるわよ。あんたバカぁ〜」
木暮は岡部を睨みつけた。
他の2人も特にフォローしない。
「もしくは、映像の人物を探し出すのが近道ですね。」
「映像の人?先輩じゃないの?」
「そっちじゃないわよ。ホームレス風の男の方よ。あなた本当にバカねぇ〜」
木暮は、岡部をガチで睨みつけた。
岡部は縮み上がる。
映像には、ベンチに座る被告人が写っている。
彼女はピーナッツパンを袋から取り出して、しばらくのあいだ眺めていた。
食べそうになり、食べないを繰り返す。
そして、ピーナッツパンをベンチに置いた。
袋だけ、丁寧にバッグにしまう。
それから、彼女はピーナッツパンを置いたまま立ち去った。
彼女はピーナッツパンを食べていない。
しばらくしたあとで、ベンチの横の灰皿に、1人の男がやってきた。
ホームレス風の男は、シケモクを漁っているようだった。
男は、ベンチに置いてあるピーナッツパンに気がつくと、周りを見渡した。
誰もいないことを確かめてから、
男はピーナッツパンを食べた。
食べたのである。
被告人が当日に食べたとされるピーナッツパンは、全くの別人の腹に収まっていた。
「判決は、どちらも被告人がピーナッツパンを食べたことが前提になっています。コンビニで購入した事実と、空袋を持っていた事実から、被告人が食べたと推論しただけなんですな。」
老弁護士は、電話でそう言った。
「そうですか。それが何か?」
「いえ、神田教授には何の関係もありません。柴崎教授に、映像の解析と、ほんのちょっと映像の整理をお願いしたいのですな。」
「あ、そういう事ですね。それが柴崎教授に連絡をとりたい理由なんですね。繋がりました。」
「もちろん、これが終われば、神田教授のところに、彼女を面会に向かわせますのでな。どうかひとつ、よろしくお願いしますわ。」
「良いですよ。『ピーナッツパン子ちゃん』が行き詰まってたんで嬉しいです。」
「え?」
「いえ、こちらの話です。では、すぐに柴崎教授に掛けときます。」
ガチャ
電話は一方的に切られた。
「あとは、証人探しですな。」
これほどの証拠を警察が隠していたのだ。
この証拠の真正を証言する勇気のあるものなど、そうそう見つからない。
いたとして、岡部の言う通り、公安が消す可能性は十分にある。
公安も手を出せない大物を探すことなど出来るのであろうか。
映像に映っていたホームレス風の男探しも難航している。
もう、公安に消されたあとなのかもしれなかった。




