第五話「久世調査事務所」
【資料回収:デジタル・アーカイブ】
出典:久世調査事務所 公式サイト(ウェブ魚拓:20XX年7月9日保存データ)
ステータス:現在ドメイン失効。サーバー上のデータは物理的に抹消済み。
【久世調査事務所:概要】
東京都武蔵野市吉祥寺本町。
迷路のように入り組んだ路地裏に建つ、築年数不明の雑居ビル「井ノ頭センタービル」の3階。
一階には潰れたスナックと古物商、二階には宗教団体の勧誘所。その最上階に、この事務所はある。
主な調査内容:
・一般行方調査・失踪事案の解明
・インターネット上の風評・拡散経路の特定
・アーカイブ情報の復元および分析
・「分類不能な事象」および都市伝説の現実的検証
【ご挨拶】
世間の常識では説明できない事象を、私たちは調べています。
世の中には、警察が取り扱わない失踪が数多く存在します。
証拠がない。事件性がない。争った形跡がない。
警察や周囲の人間は、それを『本人の意思による蒸発』あるいは『自分勝手な逃避』だと片付けます。
しかし、私たちは問いかけます。
その決断は、本当に『本人の意思』だったのでしょうか。
本人が気づかないうちに、何者かによって『決断させられた』のではないか。
私たちは、その境界線に落ちている『痕跡』を拾い集めています。
【調査員プロフィール】
所長:久世 透
年齢:34歳
役割:実地調査/対人聞き込み/文献資料の精査
経歴:大手出版社の実録誌編集を経て独立。未解決事件やネットコミュニティの変遷を十数年にわたり追跡。
人物像:
極度のデジタル音痴。SNSアカウントは一切持たず、今なお旧型のガラケー(音声通話専用)を愛用。情報収集の基本は「現場の空気」と「紙の資料」にあると頑なに信じている。事務所の片隅にある、床が抜けそうなほどの古書山脈は彼の私物。
所長コメント:
「私自身は、怪異の存在を信じているわけではありません。ですが、人間は『正体の分からない恐怖』に耐えられません。ですから、物語を作り、名前を付け、無理やり納得しようとします。それが怪談や都市伝説の正体です。しかし、稀に……その物語の中に、論理では説明のつかない『本物』が混ざることがあります。私の仕事は、その混じり物を見分けることです」
助手:篠崎 ミナ(しのざき みな)
年齢:29歳
役割:ネット調査/OSINT/映像・音声解析
人物像:
実年齢に反して幼く見える中学生のような外見とは裏腹に、ネットの深淵を知り尽くした情報工作のエキスパート。個人で複数のSNSアカウントを運営し、総フォロワー数は18万人を超える。流行の動画、ミーム、ネット上の言語変化をリアルタイムで監視している。
得意分野:
情報の拡散経路特定、削除済みアカウントの復元、非公開グループへの潜入調査。
補助員コメント:
「最近のネットって、すごく気持ち悪いんです。怖い話と、キラキラした自己啓発の境界線が溶けて混ざっている。『自分を大事にしよう』とか『悪い人間関係を断ち切ろう』って、言葉だけ聞けば正論ですよね。でも、それが過激な動画と結びついた瞬間、毒に変わる。誰かを切り捨てることを『自己決定』という綺麗なパッケージで包んで、人々を孤立させていく。その先に何が待っているのか、想像するだけでゾッとします」
【過去の主要調査事案(抜粋)】
都内地下鉄「存在しない出口」噂検証:特定の時間帯にのみ現れる階段の物理的調査。
SNS集団失踪事案(※継続調査):共通のハッシュタグを使用していたユーザー43名が、同時刻に連絡を絶った事案。
動画配信者「連続失踪」案件:特定の『合成音声キャラクター』を動画に使用した配信者が、次々と消息を絶った件。
匿名掲示板「行動誘導」事案:書き込みを通じて、特定の廃墟へ無意識に誘導するパターンの解析。
【サイト下部・不可解な表記】
サイトの最下部、通常のブラウザでは視認しにくい背景色と同色の極小フォントで、以下の文言が記述されていた。
「自分で決めている」と感じる時ほど、人は強く誘導されている。
あなたの自由意志は、すでに彼らの流れの一部なのだ。
【補足】
事務所の公式サイトは現在、どのアーカイブサイトからも『存在しない』としてエラーが返されるようになっている。




