表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/47

第十四話「社会現象」

【調査報告書:KJ-017 / 広域情報拡散分析】

媒体:週刊誌、WEBニュース、新聞、地上波放送、SNSトレンド

回収期間:6月15日〜7月2日

解析担当:篠崎ミナ

状況:特定の「思想」が、閾値を超え、社会的なマジョリティ(多数派)へと変質。

 

1. メディアによる「正論」の増幅

かつては「極端な行為」と見なされていた人間関係の遮断が、メディアの手によって「現代的な賢さ」へと書き換えられていった。

 

週刊誌特集:『週刊トレンド・アイ』7月号

【特集: 『人間関係リセット』は救いか、依存か】

「最近SNSを中心に拡散される『人間関係整理』。かつては逃げとされたこの行為も、今や『メンタルヘルスの最適化』として若年層に支持されている。……背景にあるのは、24時間他者と繋がらざるを得ないデジタル疲労だ。専門家は『自分を守るために、流されるのをやめる勇気が必要』と説く」

 

WEBニュース:『Domestic News Online』

【『通知遮断』がステータスに。若者の間で広がる『デジタル静寂』】

「スマホの通知を完全にオフにし、返信の義務から解放される道を選ぶ者が急増。アンケートでは『今までどれだけ他人に時間を奪われていたか気づいた』という声が圧倒的。……一方で、職場や家族から『対話が不可能になった』と困惑する声も上がっているが、それすらも『境界線を守れない他者の問題』として処理される傾向にある」

 

2. 言論の画一化(テレビ番組書き起こし)

番組名:『朝ワイドNEXT』 6月28日放送分

司会:「最近、SNSで話題の『人間関係リセット』。極端な気もしますが、専門家の先生、どう見ますか?」

心理カウンセラー:「現代社会は情報過多ですからね。距離を置くこと、つまり『自分を大切にする』という選択は、非常に合理的で健康的な判断と言えます」

司会:「なるほど……。でも、突然連絡が取れなくなるのは、周りは困りませんか?」

コメンテーター:「それこそが『他人の目を気にしすぎている』証拠ではないでしょうか。自分が壊れてまで他人に合わせる必要はない。迷わず、自分で選ぶべきなんです」

 

【番組SNSのリアルタイム反応】

・「コメンテーターの言う通り。自分を守れるのは自分だけ」

・ 「反対してるやつは、他人を利用したいだけの依存体質」

・ 「迷わない。私も今、LINE全部消した。スッキリした」

 

3. 「変容」の現場(地方紙・WEBメディア)

地方紙社会面:【静かな失踪――相次ぐ家族相談】

「『昨日まで普通だった息子が、突然別人になった』。そんな相談が公的機関に相次いでいる。暴力や金銭トラブルがあるわけではない。ただ、ある日を境に『自分の人生を生きることに決めた』と告げ、家族を含むあらゆる連絡先をブロックし、物理的にも姿を消す。共通するのは、特定の自己啓発動画を、まるで儀式のように繰り返し視聴していた形跡だ」

 

文化批評サイト:『Edge-Culture』

「縁切り文化は、なぜ『正解』になったのか」

「……問題は、これが『他者の切断』を伴う快感、一種の成功体験として提供されている点だ。一度でも『切って楽になった』を経験した人間は、次により小さな違和感で人を切り始める。その先にあるのは自由ではなく、究極の無菌室。他人の存在しない、自分だけの静かな地獄だ」

 

4. 解析メモ:篠崎ミナ

「……街を歩いていても、電車に乗っていても、みんな同じ顔をして画面を見ている。イヤホンから漏れる微かな音。あの緑色のキャラクターの、平坦な声。ネット上の至る所に『ここからは、あなたが選ぶ』という広告が踊っている。最初は特定の動画だけだった。でも今は、ニュースも、テレビも、掲示板も、全部同じフレーズを繰り返している。『もう迷わない』『ちゃんと選ぶ』『自分を守る』『流されたくない』……これ、誰が最初に言い出したのか、もう誰にも分からないんです。社会全体が、ひとつの巨大な『正論』というウイルスに感染して、同じ方向に歩き出しているみたいで……怖い。先生……久世先生。先生も、そっちに行ってしまうんですか?」

 

5. 解析メモ:久世(文字は極めて整然としている)

「危険なのは動画ではない。ましてや悪意でもない。『正しい』と感じること。それ自体が、最強の捕食回路だ。人間は、自分が正しいと信じている時、最も残酷になれる。

『自分を守る』という大義名分のもとで行われる他者の排除は、良心の呵責を一切伴わない。これは社会の崩壊ではない。過剰に膨れ上がった『自己』という名の腫瘍が、他者という組織を食い尽くしているだけだ。非常に、合理的だ」

 

6. 最終添付:復元された広告配信ログ

【広告ID:RESET-MYSELF-00】

表示回数:測定不能(指数関数的に増殖中)

ターゲット: 「孤独」「疲れ」「人間関係」「自己啓発」を検索した全ユーザー。

配信元: [Unknown]

 

【クリエイティブ文言】

「迷いは、ノイズだ。選べないのは、病気だ。あなたは、もう答えを知っている。さあ、その指で。静寂を選び取るのだ」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ