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9/20

第9話 契約を作った男。

《死亡まで、あと11日23時間58分》


《運命分岐開始》


《生存可能性――あり》


セシリアは。


その文字を。


何度も見た。


見間違いじゃない。


消えない。


初めてだった。


これまで。


何をしても。


レオンの未来には。


死しかなかった。


矢。


毒。


刺殺。


呪い。


形を変えて。


何度でも。


彼を殺そうとする未来。


でも今。


初めて。


《生存可能性――あり》


と。


表示されている。


「……生きられる」


小さく呟いた。


ベッドの上。


レオンは。


まだ眠っている。


呼吸。


安定している。


頬にも。


少しずつ。


血色が戻ってきた。


セシリアは。


彼の手を。


握った。


「今度こそ」


もう。


殺さない。


殺させない。


誰も。


◇


朝。


王宮。


レオンの部屋。


セシリア。


ルーク。


そして。


父。


エドワード公爵。


四人。


いや。


眠っているレオンを入れれば。


五人。


ルークは。


窓際に立っていた。


いつもより。


ずっと。


口数が少ない。


セシリアは。


そんな彼を。


じっと見る。


「約束」


ルークが。


顔を上げる。


「何?」


「昨日言ったでしょう」


「……」


「全部話すって」


ルークは。


小さく息を吐いた。


「覚えてる」


「なら」


セシリア。


椅子へ。


座る。


「話して」


「ここで?」


「ここで」


父が。


腕を組む。


「私も聞く」


ルーク。


苦笑。


「信用されてないね」


父。


即答。


「当然だ」


「ですよね」


セシリア。


少し。


呆れる。


「そこはどうでもいいから」


ルーク。


窓の外。


見る。


「じゃあ」


一度。


目を閉じる。


「最初から話す」


◇


「僕の父親の名前は」


ルークが。


言った。


「カイル・ヴァレンタイン」


セシリア。


その名前に。


聞き覚えはない。


父も。


首を傾げる。


「ヴァレンタイン家?」


「今は存在しません」


ルーク。


答える。


「記録から消されています」


「消された?」


父。


「はい」


「誰に」


「王家と教会」


父の。


目。


鋭くなる。


「なぜ」


ルーク。


少し。


黙る。


「ヴァレンタイン家は」


一拍。


「魔術研究をしていた家系だからです」


セシリア。


「魔術?」


「昔は」


ルーク。


話す。


「今よりずっと普通に存在していた」


「でも」


「百年ほど前から、王国では禁忌になった」


父。


「それは知っている」


セシリア。


父を見る。


「本当に?」


「お前にはまだ教えていなかった」


「どうして?」


「十三歳だからだ」


「……」


正論。


少しだけ。


腹が立つ。


ルーク。


続ける。


「ヴァレンタイン家は」


「……」


「人の感情と生命力を結びつける術を研究していた」


セシリア。


嫌な予感。


「それが」


「星喰い?」


ルーク。


頷く。


「原型は」


「……」


「そう」


◇


「最初から」


ルーク。


言う。


「星喰いは呪いじゃなかった」


「じゃあ何」


セシリア。


聞く。


「契約」


「誰と誰の?」


「王家と」


ルーク。


少し。


声を落とす。


「世界」


セシリア。


「……世界?」


「説明が難しい」


父。


「簡単にしろ」


ルーク。


困った顔。


「公爵閣下、怖いな」


父。


「早くしろ」


「はい」


ルーク。


仕方なさそうに。


続ける。


「この国には昔」


「……」


「大きな災厄があった」


「何年前?」


「約二百年前」


「そんな話」


セシリア。


「歴史書にない」


「消されたから」


ルーク。


「当時」


「……」


「王都の半分が消えた」


セシリア。


息。


止まる。


「原因は」


「魔力暴走」


「誰の?」


ルーク。


父ではなく。


セシリアを見る。


「アストレア王家」


「……」


「王家の血には」


「……」


「異常なほど強い魔力を生む性質があった」


父。


「それを抑えるために」


「そう」


ルーク。


「アルフォード家の血が使われた」


セシリア。


身体。


固まる。


「使われた?」


「アルフォード家は」


ルーク。


続ける。


「魔力を鎮める性質を持っていた」


「王家が暴走」


「アルフォード家が止める」


「そう」


「じゃあ」


セシリア。


考える。


「本来は相性がいい?」


ルーク。


苦い顔。


「良すぎる」


「どういう意味?」


「二つの血が」


「……」


「強く結びつきすぎると」


ルーク。


「一つになる」


「何が?」


「感情と魔力」


セシリア。


理解。


追いつかない。


「つまり」


父が。


低く言う。


「王家の人間がアルフォード家の人間を深く愛した場合」


ルーク。


頷く。


「その感情が」


「……」


「魔力の核になる」


セシリア。


レオン。


思い出す。


最初の世界。


自分が死んだ。


レオン。


壊れた。


「だから」


「……」


「私が死ぬと」


「レオンの感情が」


ルーク。


「暴走する」


セシリア。


胸。


冷たい。


「それが星喰い」


「そう」


◇


父。


腕。


組んだまま。


言う。


「では」


「……」


「なぜそんな危険な仕組みを残した」


「残したんじゃない」


ルーク。


答える。


「作った」


セシリア。


「誰が」


ルーク。


目。


暗くなる。


「僕の父」


「カイル」


「そう」


「何のために?」


ルーク。


長い。


沈黙。


「最初は」


「……」


「国を救うためだった」


◇


二百年前。


王家の魔力。


暴走。


ヴァレンタイン家。


魔術師。


王家とアルフォード家。


二つの血。


結びつけ。


魔力。


循環させる。


「それだけなら」


セシリア。


「悪いものじゃないでしょう?」


「その時点では」


ルーク。


答える。


「でも」


「……」


「父は」


拳。


握る。


「改良した」


「どうして?」


「永遠に」


ルーク。


「壊れない国を作ろうとした」


父。


「馬鹿げている」


ルーク。


「僕もそう思う」


「具体的には?」


セシリア。


ルーク。


少し。


迷う。


「王の感情を」


「……」


「国全体へ流す」


セシリア。


「何それ」


「王が」


ルーク。


言う。


「国を愛している限り」


「……」


「国そのものが王を守る」


「逆に?」


父。


聞く。


ルーク。


「王が憎しみに染まれば」


「……」


「国全体がその憎しみを受ける」


セシリア。


ぞっとする。


最初の世界。


レオン。


自分を失った。


怒り。


悲しみ。


憎しみ。


全部。


国へ。


流れた。


だから。


王国が。


滅んだ。


「最悪じゃない」


セシリア。


「そう」


ルーク。


自嘲。


「父は」


「……」


「完成したと思ってた」


「でも」


「人間の感情を」


ルーク。


言う。


「計算できなかった」


◇


セシリア。


一つ。


気になる。


「待って」


「何?」


「あなたのお父さん」


「……」


「二百年前の人じゃないでしょう?」


ルーク。


目。


止まる。


父も。


同じ疑問。


「ヴァレンタイン家は昔から研究していた」


ルーク。


説明。


「契約の原型は二百年前」


「……」


「父は」


「……」


「約二十年前に、それを復活させた」


セシリア。


「復活?」


「王家に」


ルーク。


「再び星喰いを埋め込んだ」


「誰に」


答え。


分かってる。


でも。


聞く。


ルーク。


「レオン」


セシリア。


拳。


強く。


握る。


「生まれたときに?」


「たぶん」


「たぶん?」


「僕も」


ルーク。


悔しそう。


「全部見たわけじゃない」


「でも」


「父の研究記録に」


「……」


「王太子誕生の日付があった」


セシリア。


頭。


熱くなる。


「じゃあ」


「……」


「レオンは生まれたときから」


「利用された」


「……」


「そういうこと?」


ルーク。


頷く。


◇


ベッド。


レオン。


静かに。


眠る。


十三歳。


何も。


知らない。


生まれたときから。


誰かに。


呪い。


いや。


契約。


埋め込まれ。


将来。


愛する人を失えば。


怪物になるように。


作られた。


「許せない」


セシリア。


呟く。


「絶対に」


ルーク。


何も言わない。


セシリア。


彼を見る。


「それで」


「……」


「あなたのお父さんは今」


ルーク。


「死んだと思ってた」


「でも」


「昨日」


灰色の目。


男。


セシリアが見た。


そして。


旧礼拝堂。


バルディスの前。


現れた。


「生きてる」


セシリア。


「たぶん」


ルーク。


「……」


「どうして?」


「契約」


ルーク。


「星喰いを作った人間は」


「……」


「契約の外側にいる」


「意味分からない」


「僕も完全には分からない」


父。


「要するに」


「……」


「レオンが死んでも」


「……」


「カイルには影響しない」


「それどころか」


ルーク。


「レオンが苦しむほど」


「……」


「父は契約を利用できる」


セシリア。


嫌な予感。


「何に?」


ルーク。


答える。


「時間」


「……?」


「父は」


ルーク。


低く。


「時間を巻き戻す力を」


セシリア。


「まさか」


「星喰いから奪った」


◇


空気。


止まる。


「じゃあ」


セシリア。


「私が繰り返してるのは」


「君の力じゃない」


ルーク。


「……」


「父が作った巻き戻し」


「でも」


「……」


「私は死ぬと戻る」


「それは」


ルーク。


セシリアを見る。


「君が契約のもう半分だから」


「つまり?」


「レオンが死ぬか」


「……」


「君が死ぬか」


「……」


「星喰いが一定以上暴走した瞬間」


ルーク。


「世界が巻き戻る」


セシリア。


「じゃあ」


一つ。


大きな疑問。


「九回目がないっていうのは?」


ルーク。


黙る。


「今回」


「……」


「巻き戻しが壊れ始めてる」


「どうして?」


「分からない」


父。


冷静に。


「可能性は」


ルーク。


考える。


「一つ」


「何」


「父が」


「……」


「今回だけ」


顔。


上げる。


「巻き戻しを止めようとしてる」


◇


セシリア。


胸。


ざわつく。


《運命分岐開始》


《生存可能性――あり》


カイル。


八回目。


正しい道へ。


そう。


言った。


なぜ?


ルーク。


父。


自分が負ける。


とも。


言った。


「待って」


セシリア。


「昨日」


「何?」


「私が見た記憶の中で」


「……」


「あなたのお父さんは」


思い出す。


《星喰いは呪いではない》


《契約だ》


「それと」


「……」


「バルディスのところで」


セシリア。


聞いたわけではない。


でも。


違和感。


記憶。


まだ。


残っている。


ルーク。


「何?」


「二人が完全に結ばれれば」


「……」


「世界が巻き戻らない」


ルーク。


顔。


変わる。


「誰が言った?」


「……分からない」


セシリア。


「でも」


「……」


「そういう言葉が頭に残ってる」


ルーク。


急に。


立ち上がる。


「まずい」


「何が?」


「父は」


「……」


「二人を離したいんじゃない」


「じゃあ?」


ルーク。


青ざめる。


「結ばせたいんだ」


セシリア。


「は?」


◇


「意味分からない」


「僕も今」


ルーク。


早口。


「やっとつながった」


父。


「説明しろ」


「星喰いは」


ルーク。


「王家とアルフォード家の強い感情で完成する」


「……」


「愛」


「……」


「喪失」


「……」


「絶望」


セシリア。


「だから?」


「父は」


ルーク。


セシリアを見る。


「今まで七回」


「……」


「二人が中途半端に結ばれたところで」


「……」


「どちらかが死ぬようにしてた」


セシリア。


ぞっとする。


「まさか」


「感情を」


ルーク。


「育ててたんだ」


「何のために?」


「もっと大きな」


「……」


「星喰いを作るため」


父。


「八回分の感情」


ルーク。


頷く。


「蓄積してる」


セシリア。


身体。


冷たくなる。


七回。


自分は。


レオンを愛し。


失い。


殺し。


泣いた。


レオンも。


自分を。


愛した。


全部。


消えていなかった?


契約の中。


残ってる?


「今回」


ルーク。


「八回目」


「……」


「もし二人が」


「……」


「過去七回分まで含めて」


「……」


「完全に互いを選んだら」


ルーク。


声。


震える。


「星喰いが完成する」


セシリア。


「でも」


「……」


「それなら」


「……」


「私たちを結ばせたいんでしょう?」


「そう」


「なのに」


「……」


「完成したら何が起きる?」


ルーク。


目。


閉じる。


「たぶん」


「……」


「時間そのものを喰う」


◇


父。


「時間を喰う?」


「世界を」


ルーク。


「巻き戻すんじゃない」


「……」


「好きな地点へ」


「……」


「作り替えられる」


セシリア。


「そんなこと」


「父は」


「……」


「それが欲しい」


「何のために?」


ルーク。


声。


小さくなる。


「母さん」


セシリア。


「……?」


「僕の母は」


「……」


「僕を産んだ日に死んだ」


ルーク。


「父は」


「……」


「母を取り戻したい」


セシリア。


何も。


言えない。


世界。


国。


レオン。


自分。


エリア。


何度も。


死んだ。


全部。


一人の人間を。


取り戻すため?


「そんな」


怒り。


湧く。


「そんな理由で」


「うん」


ルーク。


「僕も」


拳。


握る。


「そう思う」


◇


そのとき。


ベッド。


微かな声。


「……母さん」


セシリア。


振り向く。


「レオン?」


レオン。


眠ったまま。


眉。


寄せる。


「母さん……」


セシリア。


近づく。


「大丈夫?」


レオン。


目。


閉じたまま。


「行かないで」


汗。


額。


浮かぶ。


「母さん」


レオンの母。


王妃。


生きている。


はず。


セシリア。


父を見る。


「王妃様は?」


父。


「北の離宮だ」


「どうして?」


「療養中」


セシリア。


記憶。


一度目の人生。


確か。


レオンの母。


王妃エレノア。


身体が弱く。


ほとんど。


公の場に出なかった。


でも。


生きていた。


少なくとも。


セシリアが。


十三歳のころ。


「母さん……」


レオン。


また。


呟く。


そして。


突然。


目。


開く。


「レオン?」


青い瞳。


でも。


怯えている。


「セシリア」


「いるよ」


手。


握る。


「夢を」


「どんな?」


「母さんが」


息。


荒い。


「殺される」


セシリア。


背中。


冷たくなる。


《死亡まで、あと11日16時間02分》


レオンの死。


変化なし。


でも。


その横。


新しい文字。


《関連死亡》


《エレノア・アストレア》


《死亡まで、あと6時間》


「……嘘」


セシリア。


立つ。


レオン。


「何?」


「王妃様が」


「母さん?」


「六時間後」


言葉。


止まる。


レオン。


顔。


青ざめる。


「何」


セシリア。


「死ぬ」


◇


王宮。


一気に。


騒がしくなる。


父。


兵。


手配。


北の離宮。


馬で。


約二時間。


「僕も行く!」


レオン。


ベッド。


降りる。


「ダメ!」


セシリア。


止める。


「母さんが!」


「まだ身体が」


「関係ない!」


「レオン!」


初めて。


名前。


呼び捨て。


レオン。


止まる。


セシリアも。


一瞬。


固まる。


でも。


続ける。


「今」


「……」


「あなたが動けば」


「……」


「また狙われるかもしれない」


「でも」


「私が行く」


レオン。


「君が?」


「うん」


「危険だ」


「知ってる」


「なら」


「大丈夫」


「何で!」


セシリア。


手。


握る。


「絶対に」


「……」


「王妃様を連れて帰る」


レオン。


「約束?」


「約束」


◇


出発。


セシリア。


父。


ルーク。


護衛。


馬車。


北へ。


《エレノア・アストレア》


《死亡まで、あと5時間31分》


「何で王妃様が」


セシリア。


呟く。


ルーク。


考える。


「父だ」


「やっぱり?」


「可能性高い」


「でも何で今」


「レオンを」


ルーク。


「揺さぶるため」


セシリア。


「感情を?」


「そう」


「王妃様を殺せば」


「……」


「レオンは悲しむ」


「その状態で」


ルーク。


「セシリアがそばにいる」


「……」


「契約は強くなる」


セシリア。


怒り。


「人を」


拳。


握る。


「道具みたいに」


ルーク。


何も。


言えない。


自分の父。


だから。


余計に。


◇


北の離宮。


到着。


予定より。


早い。


《死亡まで、あと3時間12分》


門。


閉まっている。


衛兵。


いない。


「変」


父。


剣。


抜く。


「全員警戒」


門。


開ける。


静か。


鳥の声すら。


ない。


庭。


誰も。


いない。


「王妃様!」


セシリア。


屋敷。


走る。


廊下。


使用人。


倒れている。


「生きてる!」


父。


確認。


「眠らされている」


薬。


セシリア。


胸。


ざわつく。


奥。


寝室。


扉。


開く。


王妃。


エレノア。


ベッド。


横たわる。


「王妃様!」


セシリア。


近づく。


息。


ある。


「よかった」


でも。


頭上。


《死亡まで、あと3時間03分》


原因。


《毒殺》


また。


毒。


「医師!」


父。


叫ぶ。


護衛。


走る。


そのとき。


王妃。


ゆっくり。


目。


開く。


「……セシリア?」


セシリア。


驚く。


「私をご存じなんですか?」


王妃。


弱く。


微笑む。


「もちろん」


「でも」


今の自分。


ほとんど。


会ったこと。


ない。


王妃の手。


セシリア。


握る。


「八回目」


セシリア。


身体。


固まる。


「……え?」


王妃。


目。


少し。


開く。


「やっと」


「……」


「会えた」


ルーク。


後ろ。


息。


呑む。


「王妃様」


王妃。


ルークを見る。


「あなたも」


「覚えて……?」


エレノア。


微笑む。


「全部」


セシリア。


混乱。


「どういうこと?」


王妃。


苦しそう。


咳。


血。


「時間が」


セシリア。


「喋らないで!」


「聞いて」


王妃。


手。


強く。


握る。


「カイルは」


「……」


「私を殺したいんじゃない」


セシリア。


「え?」


「私を」


王妃。


息。


苦しい。


「器にするつもり」


ルーク。


顔。


変わる。


「器?」


王妃。


ルーク。


見る。


「あなたの」


一拍。


「母親のために」


ルーク。


凍る。


「……何?」


王妃。


苦しそうに。


続ける。


「カイルが取り戻したい女」


「……」


「あなたの母」


「……」


「その魂を」


王妃。


胸。


押さえる。


「私の身体に」


セシリア。


「入れる?」


王妃。


頷く。


ルーク。


後ずさる。


「そんな」


「だから」


王妃。


手。


震える。


「私が死ねば」


「……」


「始まる」


「何が?」


エレノア。


セシリア。


見つめる。


「最後の契約」


◇


《死亡まで、あと2時間57分》


王妃。


急に。


苦しむ。


「王妃様!」


口元。


血。


ルーク。


「毒が回ってる!」


セシリア。


「何の毒?」


エレノア。


首。


振る。


「解毒……できない」


「そんな!」


「これは」


王妃。


震える。


「毒じゃない」


セシリア。


「表示は毒殺って!」


エレノア。


苦笑。


「未来は」


「……」


「結果しか見ない」


第3話。


リナ。


実行者。


結果だけ。


「なら何?」


王妃。


胸元。


開く。


そこ。


黒い。


星形。


印。


セシリア。


「これ」


レオンと。


似ている。


「星喰い?」


「違う」


王妃。


「器の印」


ルーク。


顔。


青い。


「父が」


王妃。


「ええ」


「いつ」


「あなたが」


エレノア。


ルークを見る。


「生まれた日」


「……」


「私にも」


ルーク。


頭。


真っ白。


自分。


生まれた日。


母。


死んだ日。


同じ日。


「まさか」


王妃。


ゆっくり。


頷く。


「あなたの母親は」


「……」


「死んだんじゃない」


ルーク。


息。


止まる。


「魂だけ」


「……」


「保存された」


セシリア。


ぞっとする。


「じゃあ」


エレノア。


「カイルはずっと」


目。


閉じる。


「戻す身体を」


「……」


「探していた」


「それが」


セシリア。


「王妃様?」


「ええ」


ルーク。


顔。


歪む。


「何で」


王妃。


「私が」


「……」


「彼女と」


弱く。


笑う。


「同じ血だから」


ルーク。


「同じ血?」


王妃。


「あなたの母は」


「……」


「アストレア王家の女性だった」


世界。


止まる。


ルーク。


何も。


言えない。


「つまり」


父。


低く。


「ルーク」


「……」


「お前にも王家の血がある」


王妃。


頷く。


セシリア。


ルーク。


見る。


灰色の目。


カイル。


同じ。


でも。


母。


王家。


なら。


ルークは。


「あなた」


セシリア。


声。


震える。


「王族なの?」


ルーク。


首。


振る。


「知らない」


本当に。


知らない顔。


そのとき。


王妃。


最後の力。


振り絞る。


「セシリア」


「はい」


「レオンを」


「……」


「王にしてはいけない」


セシリア。


「どうして?」


「王冠が」


「……」


「最後の鍵」


「鍵?」


王妃。


「星喰いは」


「……」


「王位継承で完成する」


セシリア。


血の気。


引く。


最初の世界。


レオン。


王だった。


王冠。


そのあと。


自分が死に。


呪い。


完成。


「じゃあ」


「……」


「レオンが王にならなければ」


王妃。


「まだ」


「……」


「止められる」


その瞬間。


外。


鐘。


ゴーン。


一回。


二回。


三回。


父。


窓。


見る。


「何の鐘だ」


王妃。


顔。


青ざめる。


「……即位鐘」


セシリア。


「え?」


「ありえない」


王妃。


身体。


起こそうとする。


「陛下はまだ」


遠く。


王都。


方角。


鐘。


鳴り続ける。


ゴーン。


ゴーン。


ゴーン。


ルーク。


「まさか」


セシリア。


頭。


レオン。


王宮。


一人。


《レオン・アストレア》


頭上。


見えない。


でも。


嫌な予感。


その瞬間。


視界。


文字。


突然。


浮かぶ。


《重大運命変動》


《現国王――死亡》


セシリア。


息。


止まる。


「陛下が……」


父。


「何?」


続く。


《王位継承開始》


《次期国王――レオン・アストレア》


「ダメ」


セシリア。


立ち上がる。


《星喰い進行率――》


数字。


一気に。


跳ねる。


《41%》


《52%》


《68%》


《79%》


「止まって!」


《86%》


ルーク。


「何が起きてる!」


セシリア。


青ざめる。


《91%》


「レオンが」


「……」


「王にされる」


王妃。


目。


見開く。


「カイル……!」


《95%》


セシリア。


走る。


「戻らないと!」


父。


「馬を!」


ルーク。


一緒に。


走る。


そのとき。


最後。


文字。


《星喰い進行率 99%》


そして。


新しい表示。


《王位継承完了まで》


《59分59秒》


一時間。


あと。


一時間で。


レオンが王になる。


そして。


星喰いが。


完成する。


◇


王都。


王宮。


玉座の間。


レオン。


一人。


立っている。


目の前。


王冠。


父。


国王。


隣室。


動かない。


王宮中。


混乱。


大臣。


騎士。


誰も。


理解できていない。


ただ。


古い王国法。


国王死亡時。


王太子。


即位。


それだけが。


自動的に。


進んでいる。


「……セシリア」


レオン。


小さく。


呟く。


頭の中。


声。


《王になれ》


《すべてを手に入れろ》


《そうすれば》


《誰も奪えない》


レオン。


耳。


塞ぐ。


「いらない」


《王になれ》


「いらない!」


《愛する女も》


「黙れ!」


《国も》


「黙れ!」


《命も》


黒い影。


足元。


広がる。


《全部》


そして。


玉座の後ろ。


誰もいないはずの場所から。


男。


現れる。


灰色の瞳。


カイル・ヴァレンタイン。


「レオン殿下」


レオン。


振り向く。


「誰だ」


カイル。


深く。


頭。


下げる。


「あなたを」


笑う。


「本当の王にする者です」


レオン。


「近づくな」


「怖がる必要はありません」


カイル。


王冠。


手。


取る。


「これを被るだけ」


「嫌だ」


「なぜ?」


「セシリアが」


レオン。


拳。


握る。


「嫌がる」


カイル。


少し。


笑う。


「やはり」


「……」


「八回目は違う」


「何の話だ」


「何でもありません」


カイル。


王冠。


差し出す。


「殿下」


「……」


「王になれば」


低い声。


「セシリア様を」


「……」


「永遠に失わずに済みます」


レオンの。


赤い瞳。


ゆっくり。


開く。


――第9話・完――

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