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8/20

第8話 それでも、あなたのそばへ。

《呪い進行率 90%》


《自我崩壊開始》


黒く染まった文字が。


セシリアの視界に浮かんでいた。


「レオン……」


遠く。


王宮の方角から。


もう一度。


聞こえた気がした。


「セシリア!」


自分を呼ぶ声。


苦しそうな。


助けを求める声。


セシリアは。


バルディスの手を振り払った。


「行きます」


「なりません」


司祭長の声は。


穏やかなままだった。


「今、あなたが殿下へ近づけば」


「……」


「呪いは完成する」


「でも」


セシリアは。


まっすぐ老人を見る。


「離れていても完成しかけてる」


バルディスの表情が。


ほんの少し。


動いた。


「今、私はここにいます」


「……」


「レオンから離れてる」


一歩。


前へ出る。


「なのに90%まで進んだ」


「それは」


「おかしいでしょう?」


バルディスが。


黙った。


セシリアは。


確信する。


全部。


嘘ではない。


でも。


全部を話しているわけでもない。


「あなたの言う通りなら」


声。


強くなる。


「私がレオンから離れた時点で、呪いは弱まるはず」


「時間が必要なのです」


「本当に?」


「もちろんです」


「じゃあ」


セシリアは。


赤い――いや。


黒い文字を見る。


《呪い進行率 91%》


「何で上がってるの?」


バルディスの。


目が。


わずかに細くなった。


「あなた」


セシリア。


続ける。


「何か隠してる」


「セシリア様」


「レオンから離れれば助かるなんて」


拳。


握る。


「嘘でしょう?」


◇


バルディスは。


しばらく何も言わなかった。


礼拝堂。


静寂。


外。


父の兵。


聖騎士。


睨み合い。


奥。


縛られたリナ。


その隣。


弟のエリオット。


そして。


セシリア。


ルーク。


バルディス。


誰も。


動かない。


やがて。


老人が。


ゆっくり息を吐いた。


「……完全な嘘ではありません」


「完全な?」


「殿下とあなたの距離が離れれば」


「……」


「呪いの成長は遅くなります」


「止まるんじゃないの?」


「いいえ」


やっぱり。


セシリアの胸に。


怒りが湧く。


「じゃあ」


「……」


「私が一生レオンに会わなくても」


「いずれ」


バルディス。


目を伏せる。


「目覚める可能性があります」


「だったら何で!」


声。


礼拝堂。


響く。


「離れれば助かるなんて言ったの!」


「時間が必要だったからです」


「何の?」


バルディス。


答えない。


ルークが。


低い声を出した。


「儀式だ」


セシリアが。


振り向く。


「何?」


ルーク。


バルディスを。


睨む。


「こいつは最初から」


「……」


「セシリアをレオンから引き離したかったんじゃない」


剣。


握る。


「儀式に使いたかったんだ」


バルディス。


顔。


変わらない。


でも。


否定しない。


「何の儀式?」


セシリア。


聞く。


ルークが。


答える前に。


バルディスが。


静かに口を開いた。


「星喰いを終わらせるための儀式です」


「終わらせる?」


「はい」


「どうやって?」


沈黙。


嫌な予感。


「言って」


バルディス。


セシリアを見る。


「アルフォード家の血を」


一拍。


「王家から永久に切り離します」


「それって」


「……」


「どういう意味?」


ルークが。


遮るように言った。


「セシリアを殺すって意味だ」


◇


リナが。


息を呑んだ。


「そんな……」


セシリアは。


バルディスを見る。


「本当?」


老人は。


否定しなかった。


「あなたが死ねば」


「……」


「アルフォード家の直系は一時的に途絶える」


「お父様がいる」


「公爵閣下には、呪いを完成させる血の条件がありません」


「条件?」


「王家の星と結びつくのは」


バルディス。


淡々。


「同世代のアルフォード直系女性」


セシリア。


「……私」


「はい」


「だから」


「あなたが死亡すれば」


老人。


続ける。


「少なくともレオン殿下の代では、星喰いは完成しない」


一瞬。


セシリア。


言葉を失った。


「じゃあ」


ゆっくり。


「最初から」


「……」


「私を殺すつもりだった?」


「あなたを救う方法も探しました」


「でも見つからなかった?」


「……はい」


胸。


冷たい。


でも。


不思議と。


恐怖より。


納得が先に来た。


一度目の人生。


自分は処刑された。


王太子暗殺未遂。


もし。


あれも。


最初から。


レオンを助けるために。


自分を消す計画だったなら?


「一度目の人生」


セシリア。


呟く。


「私が処刑されたのも」


バルディスの。


目。


ほんの一瞬。


揺れた。


見逃さない。


「あなたが関係してたの?」


沈黙。


「答えて!」


バルディス。


目を閉じた。


「……はい」


世界。


音。


消えた。


◇


処刑台。


群衆。


罵声。


レオン。


冷たい表情。


《刑を執行する》


あの日。


全部。


仕組まれていた?


「じゃあ」


セシリアの。


声。


震える。


「私がやってもいない暗殺未遂を」


「……」


「あなたが作ったの?」


「証拠の一部は」


「一部?」


「私が用意しました」


セシリア。


拳。


震える。


「リナの証言も?」


バルディス。


リナを見る。


「七回目までは」


その言葉。


リナの表情。


理解できない。


「弟を使いました」


リナ。


青ざめる。


「……私」


一度目の人生の記憶。


自分にはない。


当然。


今のリナには。


未来のこと。


でも。


セシリアには。


裁判で。


リナが。


自分を裏切った記憶がある。


「やっぱり」


セシリア。


涙。


出る。


「リナは」


「……」


「脅されてたんだ」


バルディス。


何も言わない。


怒り。


湧く。


「あなたが!」


一歩。


「私の人生を!」


また一歩。


「全部壊したの!?」


「王国を守るためです」


「だから何!」


セシリア。


叫ぶ。


「私の人生は王国じゃない!」


バルディス。


初めて。


顔。


苦しそうになる。


「分かっています」


「分かってない!」


「分かっています!」


老人の声。


初めて。


大きくなった。


「私は七回!」


「……」


「あなたが死ぬ姿を見た!」


礼拝堂。


静まる。


バルディス。


拳。


震えている。


「七回……」


「……」


「そのたびに」


老人。


声。


掠れる。


「別の方法を試しました」


「……」


「レオン殿下を遠ざけた」


「……」


「あなたを国外へ逃がした」


「……」


「婚約を潰した」


「……」


「記憶まで消した」


セシリア。


息。


止まる。


「でも」


バルディス。


続ける。


「必ず二人は出会う」


「……」


「必ず惹かれ合う」


「……」


「そして」


「……」


「必ずどちらかが死ぬ」


老人の。


目。


赤い。


涙?


「私は」


声。


弱くなる。


「もう、見たくないのです」


セシリア。


何も。


言えない。


この人も。


繰り返している。


七回。


全部。


覚えている。


そして。


毎回。


失敗。


「じゃあ」


セシリア。


静かに。


「だから今回は私を最初に殺す?」


「……」


「それで終わらせる?」


バルディス。


頷けない。


でも。


否定も。


しない。


◇


そのとき。


ルークが。


鼻で笑った。


「変わってないな」


バルディス。


彼を見る。


「何がです」


「最初の世界から」


ルーク。


一歩前。


「お前はいつも」


「……」


「誰か一人を犠牲にすれば全部救えるって考える」


「他に方法がありません」


「本当に?」


「七回探した!」


「八回目だ」


ルーク。


強く。


「まだ終わってない」


バルディス。


「あなたに何が分かる!」


声。


荒く。


「あなたはエリア様を!」


「分かってる!」


ルーク。


叫ぶ。


初めて。


「僕が殺した!」


セシリア。


身体。


固まる。


リナ。


息。


止まる。


ルーク。


肩。


震えている。


「僕が」


「……」


「エリアを殺した」


セシリア。


胸。


痛い。


聞きたくない。


でも。


聞かなければ。


「どうして」


声。


かすれる。


「私の娘を」


ルーク。


セシリアを。


見られない。


「エリアも」


「……」


「呪われた」


セシリア。


「え?」


「レオンの血を継いでいた」


「……」


「そして」


ルーク。


声。


震える。


「君の血も」


セシリア。


理解する。


「両方……」


「そう」


「星喰いが」


「レオンより強く」


ルーク。


目。


閉じる。


「エリアの中で目覚めた」


頭。


断片。


戻る。


小さな少女。


泣いている。


金と銀の髪。


赤い瞳。


「いや……」


セシリア。


頭。


押さえる。


記憶。


◇


十六歳。


エリア。


泣いている。


「ルーク」


「大丈夫だ」


「怖い」


「俺がいる」


手を握る。


黒い影。


少女の腕。


這う。


「お母様を殺したくない」


「殺させない」


「お父様みたいになりたくない」


「ならない」


「でも」


赤い目。


涙。


「もう声がするの」


《殺せ》


《奪え》


《全部》


「ルーク」


少女。


笑う。


「約束して」


「何を」


「私が私じゃなくなったら」


「……」


「止めて」


「嫌だ」


「お願い」


「嫌だ!」


「ルーク」


笑う。


泣きながら。


「愛してる」


剣。


◇


「……やめて」


セシリア。


膝。


崩れる。


ルークが。


近づこうとする。


「来ないで!」


止まる。


「ごめん」


ルーク。


それだけ。


「エリアが」


セシリア。


涙。


止まらない。


「頼んだの?」


「……うん」


「あなたに?」


「うん」


「だから」


「……」


「殺した?」


ルーク。


唇。


噛む。


「そう」


憎い。


そう思うべき。


でも。


記憶の中。


エリア。


自分から。


頼んでいる。


愛する人に。


自分を。


殺してくれと。


「……最低」


セシリア。


言う。


ルーク。


「うん」


「馬鹿」


「うん」


「どうして助けなかったの」


「助けたかった」


「だったら!」


「できなかった!」


ルーク。


涙。


初めて。


頬を伝う。


「僕だって!」


声。


壊れる。


「何百回でも代わりに死にたかった!」


セシリア。


止まる。


ルーク。


拳。


胸。


叩く。


「でも」


「……」


「エリアは僕を殺さなかった」


「……」


「最後まで」


ルーク。


泣く。


「僕を傷つけるくらいなら、自分を殺してくれって」


「……」


「そう言ったんだ」


セシリア。


何も。


言えない。


◇


《呪い進行率 94%》


文字。


跳ねる。


「レオン!」


時間。


ない。


感情。


全部。


あと。


「私、行く」


セシリア。


立つ。


バルディス。


「いけません」


「行く」


「あなたが近づけば!」


「離れてても進む!」


「でも」


「バルディス」


初めて。


名前だけで。


呼ぶ。


「七回」


「……」


「あなたの方法で失敗した」


老人。


止まる。


「なら」


セシリア。


まっすぐ。


「八回目は私のやり方でやる」


「あなたのやり方?」


「逃げない」


「……」


「誰も殺さない」


「そんな方法は」


「今から探す!」


セシリア。


リナ。


見る。


「リナ」


「はい!」


「弟さん連れて逃げて」


「でもセシリア様」


「大丈夫」


「大丈夫じゃありません!」


セシリア。


少し笑う。


「じゃあ」


手。


握る。


「信じて」


リナ。


泣く。


「……はい」


父。


外。


叫び。


「セシリア!」


礼拝堂へ。


入ってくる。


「無事か!」


「お父様」


父。


状況。


見る。


バルディス。


ルーク。


リナ。


「説明はあと!」


セシリア。


父へ。


「レオンのところへ行きます!」


「分かった」


即答。


バルディス。


驚く。


「公爵閣下!」


父。


振り向く。


「黙れ」


低い。


「娘を殺そうとした男の話を聞く気はない」


バルディス。


「王国が!」


「王国より」


父。


剣。


抜く。


「私は娘を選ぶ」


セシリア。


胸。


熱くなる。


「お父様」


「行け」


「はい!」


◇


馬。


セシリア。


王宮へ。


ルークも。


ついてくる。


「どうして来るの!」


「僕も行く」


「エリアのこと」


「あとで全部話す」


「信用してない」


「分かってる」


「でも」


セシリア。


前。


見る。


「今はレオンが先」


「同意見」


馬。


速度。


上げる。


◇


王宮。


異常。


空。


黒。


雷。


庭。


植物。


枯れている。


兵士。


倒れている。


でも。


死んではいない。


「レオンは」


「玉座の間!」


兵士。


叫ぶ。


「殿下が!」


セシリア。


走る。


《呪い進行率 96%》


「待って!」


ルーク。


「何!」


「97%を越えたら」


「……」


「言葉が届きにくくなる」


「じゃあ急ぐ!」


◇


玉座の間。


扉。


閉じている。


内側。


黒い光。


漏れる。


「レオン!」


叩く。


「開けて!」


反応なし。


「下がって」


ルーク。


剣。


扉。


切る。


一度。


二度。


三度。


扉。


崩れる。


中。


広い。


玉座。


窓。


全部。


黒い影。


中央。


レオン。


立っている。


十三歳。


小さな身体。


でも。


周囲。


圧力。


息。


苦しい。


「レオン」


セシリア。


一歩。


レオン。


顔。


上げる。


赤い瞳。


《呪い進行率 97%》


「来るな」


声。


低い。


「レオン」


「来るな!」


影。


床。


走る。


ルーク。


「セシリア!」


避ける。


影。


壁。


砕く。


「帰れ」


レオン。


震えている。


「僕から離れろ」


セシリア。


止まらない。


「嫌」


「来るな!」


「嫌!」


「僕は!」


レオン。


頭。


抱える。


「君を殺す!」


「殺さない」


「分からないだろ!」


「分かる!」


「分かるわけない!」


「分かる!」


セシリア。


叫ぶ。


「七回もあなたを殺した私が言ってるの!」


レオン。


止まる。


ルーク。


目。


見開く。


レオン。


「……何?」


しまった。


でも。


もう。


隠さない。


「私は」


セシリア。


涙。


流れながら。


「あなたと何度も出会った」


一歩。


「何度も好きになった」


一歩。


「何度も失った」


レオン。


動かない。


「そして」


「……」


「何度もあなたを殺した」


レオン。


顔。


苦しそう。


「嘘だ」


「嘘じゃない」


「僕は君に会ったのは」


「今回が初めて」


「……」


「あなたにとっては」


一歩。


《呪い進行率 97%》


止まった。


「でも」


セシリア。


続ける。


「私の心は覚えてる」


胸。


押さえる。


「頭は忘れてても」


「……」


「あなたを失う痛みを」


レオンの。


赤い目。


揺れる。


「だから」


セシリア。


手。


伸ばす。


「帰ってきて」


「……」


「私はここにいる」


レオン。


「近づくな」


「嫌」


「死ぬぞ」


「死なない」


「僕が殺す!」


「殺させない」


「どうやって!」


セシリア。


一瞬。


笑う。


「知らない」


レオン。


「……」


「でも」


もう一歩。


あと。


数歩。


「今度は」


「……」


「一緒に考える」


黒い影。


震える。


《呪い進行率 96%》


ルーク。


息。


呑む。


下がった。


「セシリア」


「何?」


「続けろ」


◇


レオン。


両手。


耳。


塞ぐ。


「声が」


「何て言ってる?」


「殺せって」


「誰を」


「君を」


「他には?」


「全部」


涙。


赤い瞳。


「全部奪えって」


「だったら」


セシリア。


もう一歩。


「私の声だけ聞いて」


「無理だ」


「できる」


「無理!」


「できる!」


声。


重ねる。


「レオン!」


名前。


呼ぶ。


「私を見て!」


赤い目。


セシリアへ。


「私は生きてる!」


「……」


「ここにいる!」


「……」


「誰にも奪われてない!」


黒い影。


少し。


薄くなる。


《呪い進行率 93%》


「だから」


手。


伸ばす。


「私を守ろうとして」


「……」


「世界を壊さないで」


その言葉。


レオン。


身体。


震える。


最初の世界。


愛する者を失った王。


国を滅ぼした。


でも。


今。


セシリアは。


生きている。


「僕は」


レオン。


声。


少年。


戻る。


「怖い」


「うん」


「君が死ぬのが」


「うん」


「誰かに取られるのが」


「うん」


「怖い」


「私も」


セシリア。


言う。


「あなたが死ぬのが怖い」


レオン。


「……」


「だから」


セシリア。


一歩。


目の前。


「一人で決めないで」


「……」


「死ぬとか」


「……」


「殺すとか」


「……」


「全部」


手。


差し出す。


「二人で決める」


レオン。


その手。


見る。


《呪い進行率 89%》


下がる。


レオン。


ゆっくり。


手。


伸ばす。


指。


触れる。


瞬間。


黒い影。


爆発するように。


広がった。


「セシリア!」


ルーク。


叫ぶ。


でも。


セシリア。


手。


離さない。


「レオン!」


光。


黒。


白。


入り混じる。


そして。


◇


景色。


変わる。


王宮。


でも。


違う。


大人のレオン。


玉座。


セシリア。


王妃。


エリア。


走る。


笑う。


その奥。


バルディス。


若い。


そして。


もう一人。


知らない男。


黒い髪。


顔。


見えない。


手。


レオンの肩。


何か。


刻む。


黒い印。


「……誰?」


景色。


揺れる。


男が。


振り返る。


顔。


見える。


セシリア。


息。


止まる。


知らない。


でも。


どこか。


見たことがある。


灰色の瞳。


ルークに。


似ている。


「……ルーク?」


違う。


年上。


男。


笑う。


そして。


声。


《星喰いは呪いではない》


《契約だ》


景色。


砕ける。


◇


「……!」


セシリア。


玉座の間。


戻る。


床。


座り込んでいる。


レオン。


腕の中。


眠っている。


瞳。


青。


黒い影。


消えた。


《呪い進行率 41%》


「……下がった」


ルーク。


近づく。


「何が見えた?」


セシリア。


顔。


上げる。


「人」


「誰?」


「知らない」


「特徴は?」


セシリア。


ルークを見る。


言うか。


一瞬。


迷う。


「灰色の目」


ルークの。


表情。


固まる。


「あなたと」


「……」


「同じ目だった」


ルーク。


声。


出ない。


「誰?」


セシリア。


聞く。


「知ってるでしょう?」


ルーク。


唇。


震える。


「……父さん」


「え?」


「たぶん」


顔。


青い。


「僕の父だ」


「あなたのお父さんが」


「……」


「レオンに何かした?」


ルーク。


首。


振る。


「そんな」


その瞬間。


視界。


新しい文字。


《死亡予定更新》


セシリア。


見る。


《次回死亡予定》


《12日後》


初めて。


伸びた。


《死因――不明》


そして。


もう一つ。


《星喰い》


《契約者――不明》


「契約者……」


呪い。


ではない。


契約。


なら。


誰かが。


意図的に。


作った?


レオン。


弱い声。


「……セシリア」


「レオン!」


目。


開く。


青。


「僕」


「大丈夫」


「何か」


「もういい」


セシリア。


手。


握る。


「今は休んで」


レオン。


その手。


握り返す。


「行かない?」


胸。


痛む。


バルディス。


離れろと言った。


近づけば。


呪い。


強まる。


でも。


今。


自分が来たことで。


下がった。


なら。


答えは。


まだ。


決まっていない。


「行かない」


セシリア。


言う。


「少なくとも」


少し笑う。


「勝手には」


レオン。


目。


閉じる。


安心したように。


眠る。


◇


その頃。


旧礼拝堂。


バルディス。


一人。


祭壇。


前。


立っていた。


外。


聖騎士。


撤退。


リナと弟。


公爵家。


保護。


老人。


手。


震える。


「……下がった」


小さく。


呟く。


目の前。


古い水晶。


数字。


《41%》


「ありえない」


七回。


一度も。


こんなこと。


なかった。


セシリアが。


レオンへ近づけば。


必ず。


呪いは。


増えた。


なのに。


今回は。


下がった。


「何が違う……」


そのとき。


礼拝堂の奥。


暗闇。


声。


「ようやく」


バルディス。


振り向く。


誰も。


見えない。


「誰だ」


声。


笑う。


「八回目にして」


ゆっくり。


人影。


現れる。


黒い外套。


灰色の瞳。


「正しい道へ入った」


バルディス。


顔。


青ざめる。


「……あなたは」


男。


笑う。


「久しぶりだな」


「そんな」


「七回」


一歩。


「よく頑張った」


バルディス。


震える。


「死んだはず……」


男。


笑み。


深くなる。


「死んだ?」


首。


傾げる。


「誰が?」


そして。


手。


胸。


当てる。


そこには。


黒い星形の印。


「契約を作った者が」


低い声。


「契約に殺されると思うか?」


バルディス。


一歩。


後ずさる。


「あなたが」


「……」


「星喰いを」


男。


答えない。


ただ。


楽しそうに。


笑う。


「レオンとセシリアを」


「……」


「今度こそ離せ」


「なぜ」


「二人が完全に結ばれれば」


「……」


「今度は」


灰色の瞳。


冷たく光る。


「世界が巻き戻らない」


バルディス。


息。


止まる。


「そして」


男。


静かに。


「私が負ける」


◇


王宮。


眠るレオン。


その隣。


セシリア。


そして。


窓辺。


ルーク。


彼は。


何も言わず。


自分の手を見ていた。


震えている。


父。


死んだはずの父。


最初の世界。


星喰い。


契約。


エリア。


全部。


つながっている。


「ルーク」


セシリア。


呼ぶ。


「何?」


「次は」


真っ直ぐ。


見る。


「全部話して」


ルーク。


苦笑。


「全部って」


「あなたの父親のこと」


「……」


「エリアのこと」


「……」


「最初の世界のこと」


「……」


「もう隠し事はなし」


ルーク。


しばらく。


黙る。


そして。


小さく。


頷いた。


「分かった」


セシリア。


レオンの手。


握ったまま。


窓。


外。


見る。


十二日。


また。


時間を。


手に入れた。


でも。


今度は。


分かる。


戦っている相手は。


ただの暗殺者じゃない。


未来でも。


呪いでもない。


誰かが。


意図的に。


この運命を。


作っている。


「見つける」


小さく。


呟く。


「絶対に」


レオンも。


自分も。


リナも。


エリアも。


七回の人生で。


失ったもの。


全部の。


始まりを。


「星喰いを作った人間を」


そして。


終わらせる。


今度こそ。


誰も。


殺さずに。


そのとき。


レオンの頭上。


赤い文字。


静かに。


変わった。


《死亡まで、あと11日23時間59分》


さらに。


その下。


今までなかった。


新しい文字。


《運命分岐開始》


《生存可能性――》


セシリア。


息。


止める。


文字。


ゆっくり。


浮かぶ。


《あり》


「……」


初めて。


だった。


七回。


何をしても。


死ぬ未来しかなかった。


でも。


八回目。


初めて。


未来が。


彼らに。


言った。


生きられる。


可能性がある。


セシリアは。


眠るレオンの手を。


少しだけ。


強く握った。


「絶対に」


今度は。


涙ではなく。


笑った。


「生きるから」


――第8話・完――

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