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7/20

第7話 王子を怪物にした呪い。

「最初の世界で、王国を滅ぼしたのは――レオンだ」


ルークの言葉が。


セシリアの頭から離れなかった。


「……嘘」


声が。


かすれる。


「レオンが?」


「ああ」


「そんなはずない」


「僕も、そう思いたかった」


ルークは。


苦しそうに目を伏せる。


「でも事実だ」


セシリアの脳裏に。


断片的な記憶が蘇る。


燃える王宮。


逃げ惑う人々。


空を覆う黒い影。


赤い瞳。


そして。


大人になったレオン。


《殺して》


《俺が俺であるうちに》


あれは。


夢ではない。


最初の世界。


本当に。


起きたこと。


「どうして……」


セシリアは。


震える声で聞いた。


「どうしてレオンが王国を滅ぼすの?」


ルークは。


すぐには答えなかった。


「呪いだ」


「呪い?」


「ああ」


「誰が?」


ルークが。


セシリアを見る。


「それを今まで、僕たちはずっと探してきた」


「分からないの?」


「七回繰り返しても」


「……」


「完全には」


セシリアは。


拳を握った。


七回。


それだけ繰り返して。


まだ。


黒幕が分からない。


それほど。


相手は。


深いところにいる?


「分かっていることは?」


ルークが。


ゆっくり話し始める。


「レオンの呪いは、生まれたときからある」


「生まれたときから?」


「正確には」


少し。


間を置く。


「王家の血にある」


セシリアは。


息を呑んだ。


「王家?」


「ああ」


「じゃあレオンだけじゃない?」


「本来は違う」


「本来?」


「アストレア王家には、代々」


ルークが。


低い声で言う。


「《星喰い》と呼ばれる呪いがある」


聞いたことがない。


王太子妃教育でも。


そんな話。


一度も。


「何、その名前」


「古い記録にしか残ってない」


「どういう呪い?」


ルークは。


窓の外を見る。


「愛する者を失った王が、国そのものを喰らう」


セシリアの。


背中が。


冷たくなる。


「意味が分からない」


「僕も最初はそうだった」


ルークが。


続ける。


「でも最初の世界で」


「……」


「君が死んだ」


セシリアの。


息が止まる。


「私が?」


「ああ」


「どうやって?」


「暗殺」


セシリアは。


無意識に。


胸元を押さえた。


「誰に?」


「分からない」


「そこも?」


「犯人は捕まる前に死んだ」


ルークの声が。


少し低くなる。


「君が死んだ日」


「……」


「レオンの呪いが完成した」


赤い瞳。


黒い影。


あの姿。


「それで」


セシリアは。


小さく言う。


「レオンが壊れた?」


ルークが。


頷いた。


「最初は」


「……」


「君を殺した相手を探していただけだった」


「でも」


「呪いが」


ルークが。


拳を握る。


「レオンの感情を、全部飲み込んだ」


「……」


「悲しみも」


「……」


「怒りも」


「……」


「憎しみも」


「……」


「全部」


そして。


「最後には」


ルークの目が。


遠くなる。


「レオン自身が、何をしているのか分からなくなった」


◇


最初の世界。


セシリアには。


少しだけ。


記憶が戻った。


夜。


寝室。


誰かが。


入ってきた。


冷たい刃。


胸。


息ができない。


遠くから。


レオンの声。


「セシリア!」


抱きしめられる。


温かい。


でも。


自分の血で。


濡れている。


「死ぬな」


泣いている。


レオンが。


泣いている。


「お願いだ」


セシリアは。


手を伸ばす。


レオンの頬。


触れる。


「ごめん……なさい」


そして。


暗闇。


次。


炎。


王国。


壊れていく。


◇


「……私が死んだから」


セシリアの。


声が震えた。


「レオンは」


「呪いに飲まれた」


ルークが答える。


「だから」


「……」


「二回目から」


彼は。


苦しそうに言った。


「君は、自分が死ぬ前にレオンを殺す方法を選んだ」


セシリアは。


目を見開いた。


「私が?」


「そうだ」


「でも私は覚えてない」


「毎回、最後には気づく」


「何に?」


「レオンを生かしたまま君が死ねば」


ルークが。


セシリアを見る。


「最初の世界が繰り返される」


だから。


殺した。


愛する人を。


自分の手で。


世界を守るため。


そして。


レオン自身を。


怪物にしないため。


セシリアは。


胸が。


締めつけられた。


「そんなの……」


嫌だ。


そんな選択。


したくない。


「だから七回」


ルークが言う。


「君は毎回泣きながら」


「……」


「レオンを殺した」


セシリアの。


目から。


涙が落ちる。


「覚えてないのに」


「……」


「どうしてこんなに苦しいの」


ルークは。


何も言わなかった。


◇


《死亡まで、あと7時間31分》


時間は。


まだ減り続けている。


レオン。


呪い。


リナ。


全部。


同時に動いている。


「でも」


セシリアが。


涙を拭く。


「今回は違う」


ルークが。


顔を上げる。


「私は死なない」


「……」


「レオンも殺さない」


「簡単じゃない」


「分かってる」


「それでも?」


「それでも」


セシリアは。


拳を握る。


「八回目なんでしょう?」


ルークが。


少しだけ笑う。


「そうだね」


「七回失敗したなら」


セシリアは。


まっすぐ言う。


「八回目は違うことをする」


◇


まず。


リナを探す。


セシリアは決めた。


失踪。


弟。


短剣。


全部。


つながっている。


「父に言う」


ルークが。


すぐ止めた。


「待って」


「何?」


「公爵家の中に」


「……」


「相手の目がある可能性が高い」


セシリアの。


表情が変わる。


「どういうこと?」


「毒」


ルークが言う。


「君の部屋から消えた」


「……」


「短剣も」


「……」


「屋敷にあるはずの物が、簡単に外へ出ている」


確かに。


内部。


誰か。


協力者。


「使用人の中に?」


「可能性はある」


「でも」


「今は誰も信用しない方がいい」


その言葉。


一度目の人生。


セシリアが。


自分に言い聞かせた言葉。


誰も信じない。


でも。


それで。


何も救えなかった。


「私は」


セシリアが言う。


「お父様は信じる」


ルークが。


少し黙る。


「それは」


「何?」


「正しいと思う」


「意外」


「僕だって何でも疑うわけじゃない」


「十分疑ってるわ」


ルークが。


少し笑った。


◇


父。


エドワード公爵。


セシリアは。


すべてではない。


でも。


今分かっていることを。


話した。


王太子が。


再び命を狙われている。


リナは。


脅されている可能性がある。


公爵家の中に。


敵がいるかもしれない。


父は。


一言も。


馬鹿にしなかった。


「分かった」


それだけ。


「まず屋敷を閉鎖する」


「閉鎖?」


「誰も出入りさせない」


「でも」


「使用人全員の所在を確認する」


父の顔は。


公爵だった。


娘に優しい父ではなく。


アルフォード公爵家を率いる人間の顔。


「リナと弟の捜索は」


「私の私兵を使う」


「王家には?」


「まだ言わない」


セシリアが。


少し驚く。


「どうして?」


「敵が王宮にもいるなら」


父が。


低く言う。


「こちらから情報を渡す必要はない」


さすが。


父。


心強い。


「ただ」


父が。


セシリアを見る。


「お前は家にいろ」


「嫌です」


即答。


父の眉間。


深い皺。


「セシリア」


「嫌です」


「危険だ」


「レオンがあと」


言いかける。


「あと?」


止まれない。


「七時間しかないの」


父が。


静かになる。


「……見えるのか」


セシリアが。


頷く。


「なら」


長い沈黙。


「お前を止めても」


父が。


ため息。


「行くんだろうな」


「はい」


「母親に似たな」


「お母様も?」


「止めると余計に行く」


少し。


笑った。


それだけで。


緊張が。


少し解けた。


◇


リナの部屋。


父。


セシリア。


ルーク。


三人。


いや。


ルークは。


父には。


「王宮側の協力者」


とだけ説明した。


父の目。


完全に。


疑っている。


当然。


セシリアも。


完全には。


信用していない。


部屋。


荒らされていない。


ベッド。


机。


衣装箱。


「何を探す?」


父が聞く。


「手がかり」


セシリア。


机。


引き出し。


何もない。


ルーク。


床を見る。


「ここ」


「何?」


床板。


一枚。


わずかに。


浮いている。


外す。


中。


小さな箱。


リナのもの?


開ける。


中。


薬。


手紙。


そして。


銀貨。


「これは」


父が。


手紙を取る。


読んで。


顔色。


変わる。


「何?」


セシリア。


父から。


受け取る。


《弟を生かしたければ》


《王太子殿下の食事へ毒を入れろ》


《失敗した場合》


《次はセシリア・アルフォードを殺せ》


セシリアの。


手が止まる。


「私?」


次の紙。


《王太子が生きている限り》


《セシリアは死ぬ》


「……」


その文言。


呪い。


レオン。


自分。


相手は。


全部知っている?


ルークが。


紙を奪うように見る。


「これは」


顔色。


変わった。


「知ってるの?」


「筆跡」


「誰?」


ルークは。


答えない。


「ルーク」


「……似てる」


「誰に!」


ルークが。


低い声。


「王宮司祭長」


父が。


目を細める。


「バルディスか?」


その名前。


セシリアも。


知っている。


王家に。


三十年以上仕える。


大司祭。


レオンの。


洗礼を行った人。


王家から。


絶大な信頼。


「でも」


セシリアが。


首を振る。


「そんな人が」


「だからこそ」


父が言う。


「厄介だ」


◇


王宮。


司祭長。


バルディス。


白い髪。


優しい笑顔。


幼い頃。


セシリアも。


何度か。


会った。


誕生日に。


祝福。


くれた。


レオンにとっては。


祖父のような存在。


「まさか……」


ルークは。


紙を見つめる。


「最初の世界でも」


「何?」


「バルディスは」


ルーク。


考える。


「レオンの呪いについて、ずっと調べていた」


「味方だったの?」


「少なくとも」


「……」


「そう思ってた」


怖い。


最も。


信頼していた人物。


もし。


そこが。


敵なら。


七回。


気づけなかった理由も。


分かる。


◇


《死亡まで、あと5時間48分》


時間。


ない。


そのとき。


外。


馬。


音。


兵士が。


入ってくる。


「公爵様!」


「どうした」


「見つけました!」


セシリア。


立つ。


「リナ?」


「はい!」


「どこ!」


「王都北部の旧礼拝堂です!」


旧礼拝堂。


王都の外れ。


今は。


使われていない。


「弟は?」


「一緒です。ただ」


兵士が。


言葉に詰まる。


「何?」


「周囲に」


「……」


「王宮騎士がいます」


父。


ルーク。


セシリア。


三人。


同時に。


顔を変える。


王宮騎士。


なぜ?


「誰の命令?」


父。


「分かりません」


兵士。


「ただ」


一枚。


紋章。


見せる。


王家。


そして。


中央。


小さな。


星。


ルークが。


青ざめる。


「これは」


「知ってる?」


セシリア。


「司祭長直属」


父が答える。


「聖騎士団だ」


◇


旧礼拝堂。


向かう。


馬車。


父。


セシリア。


ルーク。


護衛。


時間。


《死亡まで、あと4時間56分》


セシリア。


落ち着かない。


「レオンは?」


「王宮にいる」


父。


「私の人間に見張らせた」


「刃物は?」


「近づけないよう伝えてある」


でも。


それだけでは。


足りない。


前。


レオン。


呪いに操られた。


「早く……」


◇


旧礼拝堂。


到着。


古い。


石。


聖騎士。


数人。


入口。


父の兵。


囲む。


「アルフォード公爵だ」


父。


前へ。


「中にいる者を引き渡せ」


聖騎士。


一人。


答える。


「できません」


「理由は」


「異端審問対象です」


「誰が?」


「侍女リナ、および弟」


セシリア。


怒り。


「十歳の子どもが?」


騎士。


無表情。


「命令です」


「誰の」


沈黙。


父。


低い。


「バルディス司祭長か」


騎士。


何も言わない。


答え。


同じ。


「どけ」


父。


剣。


少し。


抜く。


「これは公爵命令だ」


「従えません」


空気。


緊張。


そのとき。


礼拝堂の中。


悲鳴。


リナ。


「セシリア様!」


セシリア。


走る。


「待て!」


騎士。


腕。


掴もうとする。


ルーク。


間に。


入る。


「行け!」


セシリア。


扉。


開く。


◇


暗い礼拝堂。


祭壇。


リナ。


縛られている。


弟。


隣。


倒れている。


「リナ!」


「セシリア様!」


走る。


その前。


誰か。


立つ。


白い法衣。


老人。


後ろ姿。


「あなた……」


ゆっくり。


振り向く。


白い髪。


優しい顔。


王宮司祭長。


バルディス。


「お久しぶりです」


柔らかな声。


「セシリア様」


セシリアの。


背筋。


寒くなる。


「リナを放して」


「もちろん」


「え?」


「そのために」


バルディス。


笑う。


「あなたを待っていました」


「私を?」


「はい」


「なぜ?」


老人。


一歩。


近づく。


「確認したかった」


「何を」


「今回は」


笑顔。


変わらない。


「どこまで思い出したのか」


セシリアの。


身体。


固まる。


「あなたも」


「はい?」


「知ってるの?」


バルディス。


目。


細くなる。


「八回目」


その言葉。


セシリアの。


血の気。


引く。


「やっぱり」


「驚く必要はありません」


「あなたが」


「……」


「全部やったの?」


矢。


毒。


リナ。


短剣。


バルディス。


小さく笑う。


「全部?」


「レオンを殺そうと」


「いいえ」


即答。


セシリア。


止まる。


「私は」


バルディス。


祭壇。


手。


置く。


「殿下を殺したいわけではありません」


「じゃあ何」


「救いたいのです」


「嘘」


「本当です」


「毒まで使って?」


「必要でした」


「何が!」


バルディス。


セシリアを見る。


「あなたを」


一拍。


「レオン殿下から引き離すために」


セシリアの。


息。


止まる。


「私?」


「そうです」


「どうして」


「まだ分かりませんか?」


老人。


悲しそうに。


笑う。


「呪いの原因は」


指。


セシリア。


「あなたです」


◇


《死亡まで、あと3時間59分》


文字。


赤い。


「違う」


セシリア。


首。


振る。


「私は」


「殿下を愛している」


バルディス。


「だからです」


「意味が分からない」


「星喰いの呪い」


「……」


「王家の血にあると聞きましたね」


セシリア。


ルークを。


思い出す。


「半分は正しい」


「半分?」


「呪いは」


老人。


静か。


「王家だけでは完成しません」


「……」


「もう一つ」


「何」


「対になる血」


セシリア。


嫌な。


予感。


「まさか」


「アルフォード家」


その瞬間。


頭。


真っ白。


「王家と」


バルディス。


続ける。


「アルフォード家」


「……」


「二つが結ばれ」


「……」


「真実の愛が生まれたとき」


笑顔。


消える。


「呪いは目覚める」


セシリア。


声。


出ない。


「だから」


「……」


「あなたとレオン殿下は」


バルディス。


静かに。


言う。


「出会ってはいけなかった」


◇


背後。


扉。


開く。


ルーク。


入ってくる。


「セシリア!」


そして。


バルディスを見る。


「……お前」


バルディス。


ルーク。


見て。


少しだけ。


表情。


変わる。


「やはり」


「……」


「今回も来ましたか」


ルーク。


剣。


抜く。


「リナを放せ」


「あなたまで」


老人。


ため息。


「何度同じ間違いを繰り返すのです」


セシリア。


二人。


見る。


「知り合い?」


ルーク。


「最初の世界から」


「何?」


バルディス。


微笑む。


「正確には」


一歩。


「彼をこの時間へ送ったのは」


ルークの顔。


青ざめる。


「私です」


セシリア。


息。


止まる。


「……え?」


ルーク。


「黙れ」


「なぜ?」


バルディス。


「セシリア様には」


「黙れ!」


「真実を知る権利がある」


セシリア。


ルーク。


見る。


「どういうこと?」


ルーク。


答えない。


「ルーク」


「……」


「あなたは」


声。


震える。


「何者なの?」


バルディス。


代わりに。


答えた。


「彼は」


一拍。


「最初の世界で」


「……」


「あなたの娘を殺した男です」


空気。


止まる。


セシリア。


何も。


聞こえない。


エリア。


笑顔。


小さな手。


血。


ルーク。


「違う」


「違いません」


バルディス。


「エリア様を手にかけたのは」


「やめろ!」


ルーク。


叫ぶ。


「僕は!」


声。


震える。


「僕は……」


セシリア。


ただ。


見る。


ルーク。


苦しそう。


「……助けられなかった」


「違う」


バルディス。


冷たい。


「あなたが殺した」


ルーク。


拳。


震える。


そして。


セシリアへ。


「ごめん」


その一言。


セシリアの。


胸。


壊れる。


「……本当なの?」


ルーク。


答えない。


その沈黙が。


答え。


だった。


その瞬間。


視界。


赤。


《死亡まで、あと2時間59分》


そして。


新しい文字。


《レオン・アストレア》


《呪い進行率 87%》


「……何?」


次。


《90%到達で自我消失》


セシリア。


血の気。


引く。


「レオン」


あと。


少し。


時間。


ない。


バルディス。


静かに。


言う。


「選んでください」


「何を」


「ここで」


手。


差し出す。


「レオン殿下との縁を切る」


「……」


「二度と会わない」


「……」


「そうすれば」


老人。


穏やかな声。


「殿下は助かります」


セシリア。


拳。


握る。


「本当に?」


「はい」


「私が消えれば?」


「呪いは止まる」


「……」


ルーク。


「信じるな」


「どうして?」


セシリア。


振り向く。


「あなたは」


声。


震える。


「エリアを殺したんでしょう?」


ルーク。


顔。


歪む。


「……」


「誰を信じればいいの?」


答え。


誰も。


言えない。


そのとき。


礼拝堂。


鐘。


一度。


鳴る。


ゴーン。


バルディス。


顔。


上げる。


「始まりました」


「何が?」


「殿下の覚醒です」


セシリア。


視界。


《呪い進行率 89%》


「……レオン!」


外へ。


走ろうとする。


バルディス。


腕。


掴む。


「行けば完成します」


「放して!」


「あなたが近づけば」


「放して!」


「殿下はあなたを失う恐怖で」


「離して!」


「怪物になる!」


セシリア。


止まる。


ほんの。


一秒。


その間に。


《呪い進行率 90%》


文字。


赤から。


黒へ。


変わる。


《自我崩壊開始》


「……嘘」


遠く。


王宮の方角。


空。


黒い雲。


渦。


雷。


そして。


セシリアの耳。


確かに。


聞こえた。


誰かが。


自分の名前を。


叫ぶ声。


「セシリア!」


レオン。


◇


王宮。


レオンの部屋。


床。


黒い影。


壁。


ひび。


衛兵。


倒れている。


中央。


レオン。


一人。


立っている。


瞳。


赤。


手。


血。


でも。


誰の血でもない。


自分の手のひらを。


爪で。


切り裂いている。


「セシリア……」


繰り返す。


「セシリア……」


頭の中。


声。


響く。


《失う前に》


《壊せ》


《奪われる前に》


《奪え》


《愛する者を》


《誰にも渡すな》


レオン。


耳。


塞ぐ。


「黙れ……」


《殺せ》


「黙れ!」


窓。


一斉に。


割れる。


そして。


赤い目。


完全に。


開く。


「セシリアを」


低い声。


「返せ」


――第7話・完――

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