第20話 十年後、私は処刑台に立つ。
《処刑の日まで》
《あと10年》
その文字を。
誰も。
見ることはなかった。
地下深く。
壊れた契約室。
そこで。
ただ静かに。
本来の歴史が。
もう一度。
動き始めていた。
◇
それから。
十年。
世界は。
終わらなかった。
巻き戻らなかった。
レオンも。
死ななかった。
セシリアも。
死ななかった。
ルークも。
生きた。
ただ。
当たり前のように。
時間だけが。
進んだ。
◇
王国暦291年。
春。
セシリア・アルフォード。
二十三歳。
あの日。
処刑された。
年齢。
だった。
「セシリア!」
王宮の廊下。
後ろ。
声。
「待って!」
セシリアは。
振り返らない。
「嫌!」
「話を聞いて!」
「聞かない!」
「五分だけ!」
「昨日も聞いた!」
走ってくる。
金色の髪。
青い瞳。
二十三歳。
レオン・アストレア。
十年前より。
背が。
ずっと高い。
顔立ちも。
大人。
でも。
今。
ものすごく。
焦っている。
「セシリア!」
ようやく。
腕。
掴む。
「離して」
「離したら逃げるでしょう」
「逃げる」
「だから離さない」
「王族の権力乱用」
「僕もう王族としてほとんど権力ないから」
「じゃあ普通の迷惑男」
「ひどい」
廊下の端。
ルーク。
壁。
寄りかかって。
見ている。
二十六歳。
「朝から元気だね」
セシリア。
「助けて」
「嫌だ」
即答。
「何で!」
「夫婦喧嘩に入るほど」
「……」
「僕は愚かじゃない」
レオン。
「まだ夫婦じゃない」
ルーク。
「十年婚約してそれ言う?」
レオン。
「うるさい」
セシリア。
顔。
赤い。
「婚約を十年続けてるのは」
「……」
「誰かさんが結婚式の日を」
「……」
「何度決めても延期するからでしょう!」
レオン。
「だって」
「何!」
「怖い」
セシリア。
止まる。
ルーク。
「そこ真顔で言う?」
レオン。
「だって」
「……」
「結婚したあと」
「……」
「何か起こりそうで」
セシリア。
ため息。
十年前。
未来。
見えなくなった。
赤い文字。
消えた。
それから。
レオンは。
少しだけ。
未来を怖がるようになった。
幸せなことが。
近づけば。
近づくほど。
《また何か起きるんじゃないか》
そう。
考える。
セシリアには。
分かる。
自分も。
同じだから。
でも。
「レオン」
「何?」
「十年だよ」
「うん」
「矢も」
「……」
「毒も」
「……」
「呪いも」
「……」
「世界滅亡も」
「……」
「一回もなかった」
レオン。
「世界滅亡を日常みたいに言わないで」
「だから」
セシリア。
彼の手。
握る。
「そろそろ」
「……」
「幸せになってもいいんじゃない?」
レオン。
黙る。
そして。
小さく。
笑う。
「……うん」
◇
十年。
たくさん。
変わった。
王国。
王制は。
完全には。
なくならなかった。
でも。
大きく。
変わった。
王の権限。
縮小。
議会。
設置。
貴族だけではなく。
商人。
職人。
地方。
代表。
参加。
レオンは。
王には。
ならなかった。
正式な称号。
《王国代表》
本人。
言う。
「王より面倒になった」
らしい。
国王。
レオンの父。
あの日。
死亡表示。
出た。
でも。
実際には。
カイルによって。
仮死状態に。
されていた。
王位継承を。
強制するため。
星喰い契約。
消滅後。
蘇生。
それから。
数年かけ。
王権。
議会へ。
移した。
現在。
隠居。
北の離宮で。
王妃エレノアと。
暮らしている。
「最近」
レオン。
言う。
「父上、釣りしかしてない」
セシリア。
「平和でいいじゃない」
「国王だった人とは思えない」
◇
父。
エドワード。
相変わらず。
過保護。
セシリア。
二十三歳。
なのに。
帰宅。
少し遅いだけで。
護衛。
十人。
出す。
リナ。
今も。
そば。
いる。
弟。
エリオット。
病気。
治った。
今は。
医師。
目指している。
そして。
カイル。
十年間。
生きた。
最初の数年。
罪。
裁かれ。
自由。
ほぼ。
なかった。
でも。
ルーク。
何度も。
会いに行った。
少しずつ。
父と。
息子。
話す。
ようになった。
今では。
王国の時間魔術。
完全に。
封印するための。
研究。
している。
「父さん」
ルーク。
よく。
文句。
言う。
でも。
その声には。
昔みたいな。
憎しみ。
ほとんど。
残っていない。
◇
そして。
ノア。
「セシリア」
肩。
小さな。
光。
《呼んだ?》
「呼んでない」
《呼ばれた気がした》
「気のせい」
十年。
ノアも。
いる。
星喰い。
だった存在。
今は。
小さな。
光。
自由。
人。
近く。
飛ぶ。
話す。
最近。
覚えたこと。
嫌味。
「ルークが教えたでしょう」
ルーク。
「何を?」
《僕、自分で覚えた》
セシリア。
「成長しなくていいところ成長した」
ノア。
《生きるとは成長》
「言うようになったね」
◇
でも。
一つ。
だけ。
セシリアが。
ずっと。
気にしていたこと。
十年前。
最初の。
人生。
処刑。
された日。
今日。
だった。
四月三日。
朝。
目を覚ました瞬間。
胸が。
ざわついた。
でも。
赤い文字。
ない。
何も。
ない。
だから。
気のせい。
そう。
思っていた。
◇
昼。
王宮。
会議。
セシリア。
議会側。
参加。
レオン。
王国代表。
ルーク。
魔術監察局。
代表。
いつもの。
日。
だった。
午後。
三時。
扉。
開く。
兵士。
駆け込む。
「レオン殿下!」
全員。
振り向く。
「どうした」
「毒が!」
セシリアの。
身体。
凍る。
「何?」
兵士。
顔。
青い。
「殿下の飲み物から」
「……」
「毒が発見されました!」
世界。
音。
消える。
十年前。
いや。
七回目。
王太子。
暗殺未遂。
毒。
セシリア。
罪。
処刑。
「……嘘」
レオン。
すぐ。
セシリアを見る。
二人。
同じ。
記憶。
ではない。
でも。
知っている。
今日。
何の日か。
「誰が」
ルーク。
聞く。
兵士。
「現在調査中です」
そして。
もう一人。
兵士。
走る。
「アルフォード公爵令嬢のお部屋から!」
セシリア。
息。
止まる。
「毒物が」
「……」
「発見されました!」
◇
十年前と。
同じ。
いや。
七回目と。
同じ。
商人。
毒。
部屋。
証拠。
次。
何が来るか。
セシリア。
分かる。
「リナ」
扉。
方向。
見る。
リナ。
立っている。
二十五歳。
顔。
青ざめる。
兵士。
彼女を見る。
「侍女リナ」
「……」
「確認したいことがあります」
セシリア。
胸。
痛い。
七回目。
《セシリア様は王太子を殺すと言っていました》
脅されて。
証言。
した。
リナ。
一歩。
前。
兵士。
「公爵令嬢は」
「……」
「レオン殿下に対し」
セシリア。
拳。
握る。
リナ。
「ありません」
兵士。
止まる。
「何?」
「セシリア様が」
リナ。
強く。
「レオン様を殺したいなど」
「……」
「一度も」
「……」
「聞いたことはありません」
セシリア。
目。
熱くなる。
未来。
違う。
◇
でも。
証拠。
出る。
毒。
セシリアの部屋。
商人。
証言。
《アルフォード家の人間に売った》
さらに。
手紙。
セシリアの筆跡。
《レオンを消す》
完全。
同じ。
「誰が」
セシリア。
呟く。
星喰い。
終わった。
アルディオン。
解放。
カイル。
今さら。
しない。
バルディス。
死んだ。
なら。
誰?
その瞬間。
十年間。
一度も。
見なかった。
赤い文字。
視界。
現れる。
《本来の歴史との再接続》
セシリア。
息。
止まる。
「……」
レオン。
「セシリア?」
《歴史修正開始》
《本来の出来事》
《王太子暗殺未遂》
《セシリア・アルフォード逮捕》
「嫌」
《三日後》
《処刑》
「嫌!」
会議室。
全員。
見る。
レオン。
すぐ。
近づく。
「見えてる?」
セシリア。
頷く。
「戻った」
「何が」
「文字」
ルーク。
顔。
変わる。
「何て?」
セシリア。
声。
震える。
「三日後」
「……」
「私」
「……」
「処刑される」
◇
静寂。
でも。
十年前。
違う。
今。
セシリア。
一人。
ではない。
レオン。
即座。
言う。
「却下」
全員。
「……?」
セシリア。
「何が」
「処刑」
「未来表示に却下って」
「知らない」
レオン。
真剣。
「でも却下」
ルーク。
「雑」
レオン。
「じゃあ丁寧に」
セシリア。
「そういう問題じゃない」
でも。
少し。
笑えた。
「調べる」
ルーク。
「証拠全部」
父。
会議室。
入ってくる。
誰か。
連絡。
したらしい。
顔。
怖い。
「娘に」
「……」
「何の用だ」
兵士。
全員。
一歩。
下がる。
セシリア。
「お父様、怖い」
「今からもっと怖くなる」
◇
調査。
始まる。
まず。
毒。
セシリアの部屋。
見つかった。
でも。
リナ。
証言。
「昨日までありませんでした」
誰が。
入れた。
王宮。
記録。
確認。
一人。
侍女。
見知らぬ。
女。
部屋。
近く。
通る。
映像。
魔術記録。
残っている。
追跡。
する。
女。
存在しない。
戸籍。
ない。
次。
商人。
尋問。
「私は」
震える。
「覚えていない」
「何を」
「誰に売ったのか」
記憶。
抜けている。
でも。
帳簿。
ある。
十年前。
いや。
七回目と。
同じ。
日付。
同じ。
金額。
「おかしい」
ルーク。
「何が?」
「この紙」
触る。
「十年前のものだ」
全員。
止まる。
「今日の取引なのに?」
「紙そのものは」
ルーク。
「十年以上前」
セシリア。
赤い文字。
見る。
《歴史修正率――21%》
「歴史が」
「……」
「昔の出来事を」
ルーク。
理解。
「今に重ねてる」
◇
ノア。
光。
震える。
《異常》
セシリア。
「分かる?」
《旧時間記録》
「……」
《現世界へ流入》
レオン。
「止められる?」
《原因検索》
少し。
《原因――八回目世界》
「私たちの世界?」
《はい》
《旧契約消滅後》
《本来の歴史が》
「……」
《空白を修正しようとしている》
セシリア。
「意味分からない」
カイル。
部屋。
入る。
「私には分かる」
ルーク。
「父さん」
カイル。
十年。
老けた。
でも。
穏やか。
「時間は」
「……」
「大きく変えれば」
「……」
「元へ戻ろうとする」
セシリア。
「じゃあ」
「七回目の歴史が」
「……」
「本来?」
「違う」
カイル。
「“最も強く刻まれた歴史”だ」
処刑。
セシリア。
死。
レオン。
絶望。
世界。
巻き戻る。
七回目。
強い。
感情。
だから。
時間。
それを。
正解。
だと。
誤認。
している。
「じゃあ」
レオン。
「また」
「……」
「セシリアを処刑すれば」
「歴史修正は」
カイル。
顔。
暗い。
「完了する」
「絶対にしない」
即答。
◇
《歴史修正率――34%》
文字。
上がる。
「止める方法」
セシリア。
カイル。
「一つ」
全員。
見る。
「また一つ?」
セシリア。
「その言い方嫌い」
カイル。
「すまない」
「何?」
「本来の歴史より」
「……」
「強い現実を」
「……」
「作る」
レオン。
「どうやって?」
「歴史は」
カイル。
「記録と」
「……」
「人の認識で固定される」
「つまり」
ルーク。
「セシリアが犯人じゃないことを」
「……」
「全員が知る?」
「それだけでは弱い」
「じゃあ」
「本来」
カイル。
レオンと。
セシリアを見る。
「この日に起こらなかった」
「……」
「強い出来事を」
「……」
「上書きする」
セシリア。
「強い出来事?」
カイル。
「人々が」
「……」
「長く覚えるような」
ルーク。
少し。
笑う。
「結婚式とか?」
セシリア。
「は?」
レオン。
固まる。
カイル。
「……有効だ」
セシリア。
「ちょっと待って」
父。
「賛成だ」
セシリア。
「お父様!?」
父。
「十年待たされた」
レオン。
「僕が怒られてる?」
父。
「お前以外に誰がいる」
◇
セシリア。
「いやいやいや!」
顔。
真っ赤。
「処刑される日に」
「……」
「結婚式!?」
ルーク。
「歴史的には強い」
「そういう問題じゃない!」
レオン。
「僕は」
「……」
「賛成」
セシリア。
「早い!」
レオン。
少し。
笑う。
でも。
目。
真剣。
「セシリア」
「何」
「十年前」
「……」
「幸せになっていいって」
「……」
「君が言った」
「うん」
「僕」
「……」
「まだ怖い」
「……」
「結婚したあと」
「……」
「君を失うかもしれない」
「……」
「子どもができたら」
「……」
「エリアのこと思い出すかもしれない」
「……」
「また」
「……」
「何か壊れるかもしれない」
セシリア。
黙る。
レオン。
続ける。
「でも」
手。
取る。
「怖いまま」
「……」
「進みたい」
セシリア。
涙。
出る。
「それ」
「……」
「プロポーズ?」
レオン。
「たぶん」
ルーク。
「下手」
レオン。
「うるさい」
セシリア。
笑う。
「じゃあ」
「……」
「ちゃんと言って」
「今?」
「今」
「人いっぱいいる」
「今さら」
レオン。
深く。
息。
吸う。
十年前。
十三歳。
好きだと。
言った。
今。
二十三歳。
「セシリア・アルフォード」
「はい」
「僕は」
「……」
「君と」
「……」
「未来を生きたい」
涙。
「死ぬ日まで」
一瞬。
二人。
笑う。
「今度は」
レオン。
「ちゃんと」
「……」
「一回だけの人生を」
「……」
「君と生きたい」
「……」
「結婚してください」
セシリア。
泣きながら。
「はい」
◇
三日後。
本来。
処刑の日。
王都中央広場。
十年前の。
記憶。
同じ場所。
でも。
処刑台。
ない。
代わり。
花。
白。
銀。
青。
人々。
大勢。
集まる。
セシリア。
白い。
ドレス。
あの日。
処刑された。
白い服。
とは。
違う。
今日は。
花嫁。
「緊張してる?」
リナ。
後ろ。
「死にそう」
「縁起でもないこと言わないでください」
セシリア。
笑う。
父。
扉。
前。
待つ。
娘。
見る。
「綺麗だ」
「お父様」
「何だ」
「泣いてる?」
「泣いてない」
「泣いてる」
「風だ」
「室内」
「うるさい」
◇
広場。
レオン。
待つ。
正装。
王冠。
ない。
それでいい。
ルーク。
隣。
立つ。
「逃げるなら今」
レオン。
「逃げない」
「十年前なら?」
「逃げたかも」
「成長」
「君は?」
ルーク。
「何が」
「エリア」
一瞬。
ルーク。
空。
見る。
「忘れてない」
「うん」
「たぶん」
「……」
「一生」
「……」
「忘れない」
「それで」
「うん」
ルーク。
笑う。
「生きる」
◇
音楽。
始まる。
セシリア。
父と。
歩く。
一歩。
一歩。
処刑台へ。
歩いた。
記憶。
重なる。
群衆。
罵声。
《悪役令嬢》
《人殺し》
《処刑しろ》
でも。
今。
拍手。
笑顔。
「おめでとう!」
声。
聞こえる。
セシリア。
涙。
出る。
視界。
赤い文字。
突然。
《歴史修正率――91%》
まだ。
高い。
「セシリア?」
レオン。
小声。
「見えてる」
「何%」
「91」
「高いね」
「うん」
でも。
進む。
◇
誓い。
司祭。
読む。
バルディスではない。
若い。
司祭。
「レオン・アストレア」
「はい」
「セシリア・アルフォード」
「はい」
「互いの人生を」
「……」
「支配するのではなく」
「……」
「尊重し」
セシリア。
胸。
鳴る。
新契約。
同じ。
言葉。
「喜びも」
「……」
「喪失も」
「……」
「共に受け止め」
「……」
「それぞれの未来を」
「……」
「共に選ぶことを」
「……」
「誓いますか」
二人。
見る。
「誓います」
同時。
答える。
《歴史修正率――74%》
下がる。
指輪。
交換。
《52%》
レオン。
手。
震える。
「震えてる」
セシリア。
「君も」
「私はドレス重いだけ」
「嘘」
《31%》
そして。
最後。
司祭。
「それでは」
「……」
「誓いの口づけを」
レオン。
固まる。
セシリア。
「今さら?」
「人多い」
「王国中見てる」
「言わないで!」
セシリア。
笑う。
そして。
自分から。
少し。
近づく。
「レオン」
「何?」
「未来」
「うん」
「見えないね」
「うん」
「怖い?」
「すごく」
「私も」
二人。
笑う。
「じゃあ」
セシリア。
小さく。
「一緒に怖がろう」
レオン。
「うん」
そして。
唇。
重なる。
◇
鐘。
鳴る。
一回。
二回。
三回。
王都。
全部。
祝福。
拍手。
花。
空。
舞う。
《歴史修正率――12%》
《7%》
《3%》
《1%》
そして。
《歴史修正――》
文字。
止まる。
セシリア。
息。
飲む。
《失敗》
次。
新しい。
文字。
《新歴史》
《確定》
そして。
《本来の処刑日》
文字。
消える。
《削除》
セシリア。
涙。
溢れる。
「消えた」
レオン。
「何が」
「処刑の日」
「……」
「なくなった」
レオン。
目。
閉じる。
安心。
息。
吐く。
「よかった」
◇
その瞬間。
世界。
一瞬。
白くなる。
セシリア。
目。
開く。
そこ。
誰も。
いない。
真っ白。
場所。
「……?」
遠く。
人影。
一人。
七回目の。
セシリア。
その隣。
七回目の。
レオン。
第四世界の。
ルーク。
セレナ。
ガルド。
アルディオン。
そして。
エリア。
第11話で。
別れた。
エリア。
「お母様」
セシリア。
泣く。
「エリア」
駆ける。
今度。
触れる。
抱きしめる。
温かい。
「結婚」
エリア。
笑う。
「おめでとうございます」
「見てた?」
「ずっと」
「恥ずかしい」
「お父様」
「何?」
「キス下手でした?」
セシリア。
吹き出す。
「たぶん」
遠く。
レオンの声。
聞こえそう。
◇
「エリア」
セシリア。
抱いたまま。
「あなた」
「……」
「これから」
「……」
「どこへ」
エリア。
少し。
考える。
「分かりません」
「怖い?」
「少し」
「私も」
「でも」
エリア。
笑う。
「未来って」
「……」
「分からないから」
「……」
「いいんでしょう?」
セシリア。
涙。
笑う。
「そうだね」
エリア。
離れる。
「お母様」
「何?」
「今度」
「……」
「もし」
「……」
「また」
声。
少し。
震える。
「あなたの娘に」
「……」
「生まれられたら」
セシリア。
泣く。
「絶対」
「……」
「分かる?」
「分かる」
即答。
「どうして?」
「母親だから」
エリア。
笑う。
「根拠ない」
「いいの」
「じゃあ」
「うん」
「またね」
セシリア。
同じ。
言葉。
「またね」
◇
光。
消える。
気づく。
広場。
レオン。
目の前。
「セシリア?」
「……」
「泣いてる」
「うん」
「どうした?」
「エリアに」
声。
詰まる。
「会った」
レオン。
目。
見開く。
「本当に?」
「うん」
「何て?」
セシリア。
少し。
笑う。
「キス下手だったって」
レオン。
「絶対そんなこと言ってない!」
「言った」
「嘘!」
ルーク。
遠く。
「何の話?」
二人。
同時。
「何でもない!」
◇
それから。
三年。
王国。
少しずつ。
変わった。
王。
いる。
でも。
一人で。
国を。
決めない。
議会。
民。
地方。
王家。
貴族。
みんな。
ぶつかる。
時間。
かかる。
失敗。
する。
でも。
それでいい。
未来は。
一人が。
決めるものじゃない。
◇
セシリア。
二十六歳。
ある朝。
窓。
光。
カーテン。
揺れる。
隣。
レオン。
眠る。
顔。
昔より。
少し。
大人。
でも。
寝相。
悪い。
「重い」
腕。
セシリア。
上。
乗っている。
「レオン」
反応。
ない。
「レオン」
「……あと五分」
「子どもみたい」
「……五分」
そのとき。
隣室。
赤ちゃん。
泣く。
「ほら」
レオン。
目。
開く。
「僕?」
「私、昨日夜中三回起きた」
「行きます」
即座。
起きる。
セシリア。
笑う。
◇
寝台。
小さな。
赤ちゃん。
銀色。
髪。
まだ。
ほんの少し。
瞳。
青。
レオン。
抱く。
「泣かないで」
さらに。
泣く。
「何で」
セシリア。
「抱き方下手」
「練習してる」
「三か月経ってる」
「難しい」
赤ちゃん。
小さな手。
レオンの。
髪。
掴む。
「痛い痛い!」
セシリア。
笑う。
そして。
赤ちゃん。
セシリア。
見る。
一瞬。
笑った。
その笑顔。
胸。
懐かしい。
「……」
レオン。
気づく。
「どうした?」
セシリア。
赤ちゃん。
抱く。
「何でもない」
「泣いてる」
「嬉しいの」
「名前」
レオン。
聞く。
「やっぱり」
「……」
「これでいい?」
セシリア。
頷く。
二人。
赤ちゃん。
見る。
「エリア」
名前。
呼ぶ。
赤ちゃん。
また。
笑う。
偶然。
かもしれない。
生まれ変わり。
なんて。
本当は。
分からない。
未来。
見えない。
だから。
確かめることも。
できない。
でも。
それでいい。
「おはよう」
セシリア。
小さな。
額。
口づけ。
「エリア」
赤ちゃん。
手。
伸ばす。
セシリアの。
指。
握る。
温かい。
生きている。
それだけで。
十分。
◇
十年前。
私は。
処刑台で。
こう思った。
次の人生では。
あなたに。
会いたくない。
でも。
今なら。
違う。
何度。
人生が。
あったとしても。
きっと。
私は。
また。
あなたに会う。
ただし。
次は。
運命だから。
じゃない。
呪いだから。
でもない。
自分で。
選ぶ。
あなたを。
そして。
あなたが。
別の未来を。
選ぶなら。
それも。
受け入れる。
だって。
愛することは。
相手の未来を。
自分のものにすることじゃない。
一緒に。
未来を。
作ることだから。
「セシリア」
レオン。
「何?」
「幸せ?」
セシリア。
少し。
考える。
昔なら。
すぐ。
答えたかもしれない。
今は。
ちゃんと。
考える。
昨日。
リナと。
喧嘩。
した。
父。
また。
過保護。
ルーク。
相変わらず。
嫌味。
ノア。
朝から。
うるさい。
レオン。
寝相。
最悪。
子育て。
大変。
国。
問題。
山ほど。
未来。
分からない。
でも。
セシリア。
笑う。
「うん」
「……」
「今は」
レオン。
「今は?」
「明日は」
「……」
「明日決める」
レオン。
少し。
笑う。
「それでいいね」
「うん」
未来は。
未確定。
だから。
今日を。
選ぶ。
生きる。
愛する。
失うことを。
怖がりながら。
それでも。
進む。
◇
セシリアの視界には。
もう。
赤い文字は。
浮かばない。
《死亡まであと何日》
そんなもの。
知らなくていい。
最後の日が。
いつなのか。
知らないから。
今日。
伝える。
「レオン」
「何?」
「愛してる」
レオン。
少し。
驚いて。
そして。
笑う。
「僕も」
窓。
外。
朝。
始まる。
新しい。
一日。
誰にも。
決められていない。
八回目の。
その先。
初めての。
未来。
――完――




