第13話 三つの血の意味。
《三血統統合まで》
《71時間41分》
《レオン・アストレア》
《死亡まで――3日》
《セシリア・アルフォード》
《死亡まで――3日》
《ルーク・ヴァレンタイン》
《死亡まで――3日》
三人。
同じ時間。
同じ死。
同じ運命。
セシリアは、その文字を見つめながら王宮へ戻っていた。
「三日……」
馬車の中。
誰も。
しばらく口を開かなかった。
レオン。
ルーク。
カイル。
エドワード公爵。
そして。
セシリア。
全員。
同じことを考えている。
どうやって。
二百年前から契約の中に潜んでいた初代王を倒すのか。
「アルディオン」
レオンが呟く。
「初代アストレア王」
「知ってる?」
セシリア。
聞く。
「名前だけ」
レオンは頷いた。
「建国王の一人として、歴史書に載ってる」
「一人?」
「この国は」
レオン。
少し考える。
「三人の始祖によって作られたって習った」
セシリア。
眉。
動く。
「三人?」
「王家のアルディオン」
「……」
「アルフォード家の始祖、セレナ」
「……」
「ヴァレンタイン家の始祖、ガルド」
ルーク。
顔。
上げる。
「待って」
「何?」
「三人?」
ルーク。
自分。
セシリア。
レオン。
順番に見る。
「今と同じじゃない?」
空気。
止まる。
王。
月。
剣。
三つの血。
二百年前。
国を作った。
三人。
今。
狙われている。
三人。
「偶然じゃない」
カイル。
低く言う。
「たぶん」
「知ってた?」
セシリア。
「いや」
カイル。
首を振る。
「ヴァレンタイン家が建国に関わっていたことは知っていた」
「でも?」
「三家が」
カイル。
「最初から一組だったとは知らなかった」
父。
「記録が消されている」
全員。
父を見る。
「何が?」
「アルフォード家に残る最古の家系図」
父。
眉。
寄せる。
「以前から不自然だった」
「不自然?」
セシリア。
「初代当主セレナの前後だけ」
「……」
「情報が欠落している」
ルーク。
「誰かが消した?」
父。
「おそらく」
レオン。
「じゃあ」
「……」
「三家の始祖に」
「何かあった」
セシリア。
そう。
そこに。
アルディオンを倒す鍵がある。
◇
王宮。
地下書庫。
今回は。
第三封印室ではなく。
さらに奥。
王家の建国記録。
普段。
誰も。
入れない場所。
レオン。
「僕が開ける」
「今度は王子らしい」
セシリア。
「王子やめる予定だけど」
ルーク。
「それ便利だね」
レオン。
「何が?」
「都合のいいときだけ王子」
セシリア。
少し。
笑う。
でも。
手。
震えている。
三日。
笑っている時間も。
惜しい。
なのに。
こういう会話が。
必要だった。
普通でいること。
人間でいること。
アルディオンが。
一番。
奪おうとしているものだから。
◇
巨大な本棚。
埃。
古い羊皮紙。
記録。
何百年分。
カイル。
「建国から二百年前までの資料を探す」
父。
「分担する」
レオン。
「僕は王家」
セシリア。
「私がアルフォード」
ルーク。
「じゃあ僕はヴァレンタイン」
カイル。
「私は魔術契約」
父。
「私は改竄記録を見る」
セシリア。
父を見る。
「そんなの分かるの?」
「公爵を何年やっていると思う」
「私まだ十三だから知らない」
父。
ため息。
「便利だな、その言葉」
◇
一時間。
二時間。
紙。
本。
記録。
どれも。
決定的なものはない。
セシリア。
目。
痛い。
「何もない……」
そのとき。
レオン。
「これ」
全員。
見る。
古い本。
革。
表紙。
王家の紋章。
でも。
その中央。
星。
だけではない。
月。
剣。
三つ。
重なっている。
「同じ」
セシリア。
契約室の扉。
星。
月。
剣。
まったく。
同じ。
レオン。
本。
開く。
最初のページ。
《建国記》
でも。
途中。
何ページも。
切り取られている。
「最悪」
ルーク。
「肝心なところないじゃん」
父。
「待て」
切り口。
見る。
「新しい」
「新しい?」
「二百年前に切られた紙ではない」
「じゃあ」
セシリア。
「誰かが最近?」
カイル。
「バルディス」
「え?」
「王宮の古文書へ自由に入れる」
カイル。
「しかも」
「……」
「七回分」
「……」
「何度も調べている」
セシリア。
胸。
ざわつく。
バルディス。
敵。
でも。
完全な敵ではなかった。
セシリアを殺そうとした。
でも。
王国を。
レオンを。
救おうとしていた。
「バルディスを探す」
◇
旧礼拝堂。
もう。
誰もいない。
聖騎士も。
撤退。
バルディス。
姿。
消えている。
「逃げた?」
ルーク。
「違う」
セシリア。
礼拝堂。
見る。
祭壇。
以前。
老人が。
立っていた場所。
その下。
何か。
ある。
「ここ」
石。
一枚。
浮いている。
持ち上げる。
箱。
「また隠し箱」
ルーク。
「みんな床に隠すの好きだね」
セシリア。
「今そこ?」
箱。
開く。
中。
手紙。
そして。
切り取られた。
古い紙。
「建国記!」
レオン。
取る。
間違いない。
さっき。
欠けていた部分。
「何でバルディスが」
父。
手紙。
開く。
《八回目のセシリア様へ》
セシリア。
息。
止まる。
「私宛て」
読む。
◇
《八回目のセシリア様へ》
《もしあなたがこれを読んでいるなら》
《私はもう、あなたの前には現れないでしょう》
セシリア。
「……何それ」
続き。
《私は七回、間違えました》
《王国を守るため》
《レオン殿下を守るため》
《あなた一人を犠牲にすることが正しいと信じた》
《しかし》
《八回目のあなたを見て》
《ようやく理解しました》
《人間を一人犠牲にして守る国など》
《最初から救う価値のある形ではなかった》
セシリア。
胸。
詰まる。
バルディス。
あの人も。
変わった?
《ですから》
《最後に一つだけ》
《私が七回かけて見つけた真実を残します》
レオン。
隣。
無言。
読む。
《アルディオン・アストレアは》
《一人で契約を作ったのではありません》
全員。
止まる。
《星》
《月》
《剣》
《三人が》
《一つの契約を結んだ》
「やっぱり」
ルーク。
セレナ。
ガルド。
アルディオン。
三人。
《しかし》
《後世の記録から》
《セレナ・アルフォードとガルド・ヴァレンタインの名は》
《意図的に消された》
セシリア。
「アルディオンが?」
続き。
《そして》
《最も重要な事実》
《最初に星喰いへ封じられたのは》
《アルディオンの魂ではありません》
全員。
「……え?」
セシリア。
声。
出る。
アルディオン。
さっき。
自分で。
魂を契約へ封じたと言った。
嘘?
《最初に封じられたのは》
《セレナ・アルフォード》
セシリア。
手。
止まる。
「私の」
「始祖」
父。
顔。
硬い。
続く。
《二人目》
《ガルド・ヴァレンタイン》
ルーク。
「……」
《最後に》
《アルディオン》
三人。
全員。
星喰いに?
《星喰いとは》
《三人の魂から生まれたもの》
《しかし》
《二百年の間に》
《アルディオンだけが》
《他の二人を喰らった》
空気。
冷える。
「じゃあ」
セシリア。
「星喰いの人格って」
「アルディオン?」
レオン。
「違う」
カイル。
紙。
見つめる。
「完全には」
「何が?」
「星喰いは」
カイル。
「三人の感情から生まれた」
「……」
「だから」
「……」
「今も」
ルーク。
気づく。
「セレナとガルドが」
「中にいる?」
カイル。
頷く。
◇
切り取られた建国記。
レオン。
読む。
《我ら三人》
《星の王アルディオン》
《月の巫女セレナ》
《剣の守護者ガルド》
《この地を守るため》
《魂を結ぶ》
セシリア。
「最初は」
「……」
「国を守るため」
レオン。
続ける。
《星が暴走すれば月が鎮め》
《月が堕ちれば剣が守り》
《剣が折れれば星が支える》
ルーク。
「互いに」
「支える契約」
「そう」
セシリア。
それなら。
星喰いなんて。
怪物ではない。
「でも」
次。
文章。
筆跡。
違う。
赤い。
《永遠の国に死は不要》
「……」
レオン。
顔。
曇る。
《弱き王も》
《死する民も》
《去る愛も》
《すべて不要》
カイル。
「アルディオン」
《ならば》
《三つを一つとし》
《我が意思のみを永遠とする》
ルーク。
「他の二人を」
「……」
「裏切った」
セシリア。
◇
記録。
さらに。
続く。
セレナ。
気づいた。
アルディオン。
契約。
変えた。
三人。
支える。
はず。
なのに。
アルディオン。
一人。
支配。
しようとした。
ガルド。
止める。
戦い。
そして。
最後。
セレナ。
自分。
魂。
契約の奥へ。
封じ。
未来へ。
残した。
言葉。
《星と月と剣》
《再び三つが揃う日》
《我らの過ちを終わらせよ》
セシリア。
息。
止まる。
「私たち」
レオン。
「三つが」
ルーク。
「揃った日」
今。
◇
手紙。
最後。
《セシリア様》
《あなたたち三人は》
《アルディオンが待っていた器ではありません》
《アルディオンを終わらせるため》
《セレナとガルドが待っていた》
セシリア。
目。
見開く。
ずっと。
アルディオンが。
三人を。
集めた。
そう思っていた。
でも。
違う。
最初から。
二百年前の。
セレナと。
ガルドも。
待っていた。
「だから」
レオン。
「僕たち三人に」
「同じ死の時間」
セシリア。
「契約が」
「……」
「近づけてる?」
カイル。
「可能性はある」
ルーク。
「じゃあ」
「……」
「星喰いの中にいる二人と」
「会えるかもしれない」
◇
その瞬間。
手紙。
最後。
小さな。
文字。
《ただし》
嫌な。
言葉。
《アルディオンを倒すには》
《三人のうち一人が》
セシリア。
止まる。
「また?」
続き。
《星喰いの内側へ入り》
《セレナとガルドを解放しなければならない》
ルーク。
「内側?」
カイル。
顔。
変わる。
「それは」
「何?」
「魂だけで」
「……」
「核へ入るということだ」
セシリア。
「戻れる?」
カイル。
沈黙。
「戻れるの?」
「分からない」
父。
「駄目だ」
即答。
「誰も行かせない」
セシリア。
「でも」
「別の方法を探す」
「あと三日」
「探す!」
父。
強い。
「一人を犠牲にしないと決めたんだろう!」
セシリア。
止まる。
そう。
その通り。
誰か。
一人。
核へ。
入る。
戻れない。
かもしれない。
それでは。
また。
同じ。
◇
《70時間12分》
時間。
減る。
セシリア。
紙。
握る。
「別の方法」
レオン。
「探そう」
ルーク。
「でも」
三人。
顔。
見る。
全員。
分かっている。
時間は。
少ない。
◇
その日の午後。
王宮。
北の離宮から。
知らせ。
王妃エレノア。
容体。
回復。
セシリア。
すぐ。
会いに行った。
◇
「セシリア」
王妃。
ベッド。
まだ。
弱い。
でも。
前より。
顔色。
いい。
「ご無事で」
セシリア。
涙。
出そう。
「あなたのおかげではないわ」
王妃。
笑う。
「エリアのおかげ」
セシリア。
「覚えてるんですね」
「全部」
「七回も?」
「ええ」
「どうして?」
王妃。
少し。
天井。
見る。
「私は器だったから」
「……」
「契約と繋がっていた」
「だから」
「世界が巻き戻るたび」
「……」
「記憶が少しずつ残った」
セシリア。
「なら」
椅子。
近づける。
「セレナとガルドについて」
王妃。
顔。
変わる。
「知ったのね」
「はい」
「バルディスね」
「……はい」
エレノア。
目。
閉じる。
「彼は」
「……」
「最後に正しいことをした」
セシリア。
「今どこにいるか」
王妃。
しばらく。
黙る。
「たぶん」
「……」
「もう」
セシリア。
嫌な。
予感。
「何?」
「彼は」
エレノア。
「自分の命を使った」
「……」
「何に」
「私の器契約を壊すため」
セシリア。
息。
止まる。
だから。
王妃。
助かった。
「バルディスが?」
「ええ」
「死んだ?」
王妃。
目。
伏せる。
「おそらく」
セシリア。
何も。
言えない。
あの人。
自分を。
処刑した。
人生。
壊した。
でも。
最後。
王妃を。
救った。
「嫌い」
セシリア。
呟く。
王妃。
少し。
笑う。
「それでいいのよ」
「でも」
「許す必要はない」
「……」
「人は」
王妃。
「最後に正しいことをしても」
「……」
「過去の罪が消えるわけではない」
セシリア。
胸。
少し。
軽くなる。
許さなくていい。
でも。
最後の行動は。
認められる。
それで。
いい。
◇
「王妃様」
「何?」
「星喰いの内側へ」
「……」
「誰か一人が入らないといけない」
エレノア。
目。
鋭くなる。
「誰が言った」
「建国記」
「……」
「セレナとガルドを解放するため」
王妃。
考える。
そして。
「一人?」
「はい」
「それ」
「……」
「本当に一人と書いてあった?」
セシリア。
止まる。
思い出す。
《三人のうち一人が》
確かに。
「はい」
王妃。
「なら」
「……」
「なぜ三つの血が必要なの?」
セシリア。
「え?」
「契約室へ入るのに」
「……」
「三人必要だった」
「はい」
「アルディオンは」
「……」
「三人を一つにすると言った」
「はい」
「セレナたちは」
王妃。
ゆっくり。
「三人が揃う日を待っていた」
セシリア。
胸。
鳴る。
「つまり」
王妃。
笑う。
「最初から」
「……」
「一人で戦う仕組みではないのでは?」
セシリア。
立ち上がる。
「三人で」
王妃。
「入れるかもしれない」
◇
王宮。
戻る。
セシリア。
走る。
「レオン!」
「何!」
「ルーク!」
「ここ!」
二人。
中庭。
訓練。
している。
「三人で入る!」
レオン。
「どこに?」
「星喰い!」
ルーク。
剣。
落としそう。
「説明短すぎ!」
セシリア。
息。
切れながら。
「一人じゃなく」
「……」
「三人で!」
「できるの?」
「分からない!」
ルーク。
「またそれ!」
「でも」
セシリア。
「絶対その方が正しい」
レオン。
少し。
考える。
「三人で入ったら」
「うん」
「三人とも戻れない可能性は?」
セシリア。
止まる。
「……ある」
ルーク。
「そこ大事」
「でも」
セシリア。
二人を見る。
「一人で行くより」
「……」
「三人で行った方が」
「……」
「一人を置いていかなくて済む」
レオン。
少し。
笑う。
「僕は行く」
ルーク。
「早い」
レオン。
「だって」
「……」
「一人だけ外に残る方が嫌だ」
ルーク。
「……」
セシリア。
彼を見る。
「ルークは?」
長い。
沈黙。
ルーク。
ため息。
「僕も」
「本当?」
「エリアに」
少し。
笑う。
「生きろって言われた」
「うん」
「だから」
「……」
「戻ってくるつもりで行く」
セシリア。
笑う。
「決まり」
◇
その夜。
三人。
再び。
契約室。
カイル。
父。
一緒。
黒い扉。
開く。
核。
前。
アルディオン。
姿。
ない。
でも。
星喰い。
小さな影。
結晶。
中。
震える。
セシリア。
「聞こえる?」
《……》
「私たち」
「……」
「中に入る」
《危険》
「知ってる」
《死ぬ》
「死なない」
《保証》
「ない」
《なぜ》
セシリア。
レオン。
ルーク。
見る。
「三人だから」
星喰い。
沈黙。
《理解不能》
ルーク。
「そのうち分かる」
レオン。
「僕たちもよく分かってない」
セシリア。
「それ言わなくていい!」
少し。
笑う。
緊張。
ほんの少し。
和らぐ。
カイル。
「方法は」
「何?」
「三人」
核。
前。
立つ。
「血を」
「……」
「同時に核へ」
セシリア。
「また血」
ルーク。
「この物語血好きだね」
レオン。
「仕方ない」
カイル。
「真面目にやれ」
ルーク。
「父さんに言われたくない」
◇
三人。
手。
切る。
小さく。
血。
一滴。
核。
触れる。
《王》
《月》
《剣》
文字。
浮かぶ。
《三血統接続》
《魂経路開放》
その瞬間。
身体。
軽くなる。
足。
床。
ない。
視界。
白。
「セシリア!」
レオン。
手。
掴む。
「ルーク!」
セシリア。
もう一方。
ルーク。
掴む。
三人。
手。
繋ぐ。
そして。
落ちる。
◇
目。
開く。
空。
ない。
地面。
ない。
真っ白。
「ここ」
セシリア。
声。
響く。
レオン。
横。
「星喰いの中?」
ルーク。
「たぶん」
遠く。
何か。
見える。
城。
燃えている。
別。
場所。
処刑台。
別。
血。
七つの世界。
浮かんでいる。
「全部」
セシリア。
「過去」
そのとき。
声。
《来たか》
全員。
振り向く。
アルディオン。
金色の髪。
赤い瞳。
「愚かな子どもたち」
レオン。
前。
出る。
「子どもで悪かったね」
アルディオン。
笑う。
「王位を捨てた王子」
「うん」
「国を捨てた」
「違う」
レオン。
「王冠を捨てただけ」
アルディオン。
顔。
少し。
歪む。
「王冠なき国など」
「これから考える」
セシリア。
「時間あるし」
アルディオン。
「あと三日だ」
ルーク。
「十分らしいよ」
セシリア。
「私のセリフ!」
◇
アルディオン。
手。
上げる。
世界。
揺れる。
「なら」
「……」
「見せてやろう」
景色。
変わる。
二百年前。
若い。
アルディオン。
セレナ。
ガルド。
三人。
笑っている。
セシリア。
息。
止まる。
セレナ。
自分に。
似ている。
銀髪。
月色の瞳。
ガルド。
ルークに。
似ている。
灰色。
そして。
若いアルディオン。
レオン。
そっくり。
「私たち」
レオン。
呟く。
「同じ」
アルディオン。
「そうだ」
三人。
国。
作る。
戦争。
終わらせる。
人々。
救う。
最初。
幸せ。
でも。
ある日。
セレナ。
傷。
血。
戦争。
敵。
刺される。
アルディオン。
抱く。
泣く。
「死ぬな」
セシリア。
胸。
痛む。
最初の世界の。
レオン。
同じ。
「まさか」
アルディオン。
「私は」
「……」
「彼女を失うのが怖かった」
セレナ。
まだ。
生きている。
でも。
重傷。
「だから」
アルディオン。
契約。
変える。
永遠。
死なない。
国。
愛する者。
失わない。
セレナ。
止める。
ガルド。
止める。
でも。
アルディオン。
聞かない。
「あなたも」
セシリア。
言う。
「同じだったんだ」
アルディオン。
「何が」
「カイルと」
カイル。
愛する人。
失う。
怖い。
時間。
戻す。
アルディオン。
セレナ。
失う。
怖い。
永遠。
求める。
そして。
レオン。
最初の世界。
セシリア。
失う。
王国。
壊す。
全部。
同じ。
「愛してるから」
セシリア。
「怖くなった」
アルディオン。
「黙れ」
「失いたくなくて」
「黙れ」
「相手の気持ちを」
「黙れ!」
世界。
黒。
揺れる。
◇
その瞬間。
遠く。
声。
《セシリア》
女性。
セシリア。
振り向く。
銀髪。
セレナ。
立っている。
「……セレナ?」
隣。
男。
灰色。
ガルド。
ルーク。
息。
止まる。
「始祖」
アルディオン。
顔。
怒り。
「出てくるな!」
セレナ。
彼を見る。
悲しそう。
「まだ」
「……」
「終われないのね」
アルディオン。
「お前は」
声。
震える。
「私を裏切った」
セレナ。
首。
振る。
「違う」
「ガルドを選んだ!」
「違う!」
初めて。
セレナ。
声。
強い。
「私は」
「……」
「あなたを愛していた」
アルディオン。
止まる。
「だから」
セレナ。
涙。
「止めたかった」
「嘘だ」
「嘘じゃない」
「なら」
「……」
「なぜ私を封じた!」
セレナ。
「あなたが」
「……」
「あなたじゃなくなったから」
アルディオン。
赤い目。
揺れる。
ガルド。
一歩。
「アルディオン」
「黙れ」
「二百年だ」
「黙れ」
「もう」
「黙れ!」
「十分だ」
世界。
大きく。
揺れる。
◇
セシリア。
突然。
理解。
この戦い。
剣。
魔法。
ではない。
アルディオン。
二百年。
感情。
執着。
悲しみ。
それが。
星喰いを。
育てた。
なら。
倒す方法。
「アルディオン」
男。
睨む。
「何だ」
「セレナに」
「……」
「最後まで」
「……」
「何を言いたかったの?」
アルディオン。
止まる。
「何を」
「二百年間」
セシリア。
「ずっと」
「……」
「本当に言いたかったこと」
赤い目。
揺れる。
「永遠にしたかった」
「それじゃない」
「国を」
「違う」
「彼女を」
「違う!」
アルディオン。
「何が違う!」
セシリア。
静か。
「怖かったんでしょう?」
「……」
「死なれるのが」
「……」
「置いていかれるのが」
アルディオン。
拳。
震える。
「私は」
「……」
「王だ」
「王でも」
レオン。
横。
言う。
「怖いよ」
アルディオン。
彼を見る。
レオン。
「僕も」
「……」
「セシリアが死ぬの怖い」
「……」
「でも」
レオン。
セシリア。
手。
握る。
「だからって」
「……」
「セシリアを自分のものにするのは違う」
アルディオン。
「子どもが」
「子どもだから」
レオン。
「まだ間違えていい」
セシリア。
思わず。
レオン。
見る。
レオン。
「何?」
「ちょっと格好よかった」
「ちょっと?」
ルーク。
「今そこ?」
◇
セレナ。
ゆっくり。
アルディオンへ。
近づく。
「アルディオン」
「来るな」
「もう」
「来るな!」
「私は」
手。
伸ばす。
「死んだの」
アルディオン。
顔。
崩れる。
「言うな」
「二百年前に」
「言うな」
「あなたより先に」
「言うな!」
「死んだ」
アルディオン。
子どものように。
首。
振る。
「違う」
「本当」
「戻せる」
「戻さなくていい」
「嫌だ!」
セレナ。
笑う。
「私」
「……」
「幸せだった」
アルディオン。
止まる。
エリアと。
同じ。
《十六年も生きました》
セレナ。
「あなたに愛されて」
「……」
「ガルドに守られて」
「……」
「国ができて」
「……」
「短かったけど」
微笑む。
「幸せだった」
アルディオン。
涙。
一滴。
落ちる。
「私は」
声。
小さく。
「幸せじゃない」
セレナ。
「知ってる」
「お前がいない」
「うん」
「ずっと」
「うん」
「苦しかった」
「うん」
「寂しかった」
セレナ。
手。
彼の頬。
触れる。
今度は。
すり抜けない。
「ごめんね」
アルディオン。
泣く。
二百年。
最初の王。
初めて。
ただの。
一人の男。
みたいに。
泣く。
◇
その瞬間。
黒い世界。
亀裂。
《真の契約者》
《支配率低下》
セシリア。
文字。
見る。
《92%》
《81%》
《68%》
「下がってる!」
ルーク。
「続ければ」
ガルド。
「アルディオンを」
「……」
「星喰いから切り離せる」
セシリア。
「どうやって?」
セレナ。
彼女を見る。
「三人で」
「……」
「選んで」
「何を?」
「同じことを」
セシリア。
「同じ?」
セレナ。
レオン。
ルーク。
順番。
見る。
「王」
「……」
「月」
「……」
「剣」
「……」
「最初の契約を」
微笑む。
「もう一度結び直す」
セシリア。
「でも」
「今度は」
セレナ。
「永遠のためじゃない」
ガルド。
続ける。
「互いを支配しない」
レオン。
「じゃあ」
セレナ。
「支え合うため」
ルーク。
「それが」
ガルド。
「星喰いを終わらせる」
◇
セシリア。
視界。
文字。
《契約再構築》
《条件》
《王・月・剣》
《三者の自発的同意》
また。
自発的。
でも。
今度は。
違う。
誰かに。
選ばされるんじゃない。
自分たちで。
選ぶ。
「レオン」
「うん」
「ルーク」
「うん」
セシリア。
二人。
手。
差し出す。
「やる?」
レオン。
即答。
「やる」
ルーク。
少し。
笑う。
「やる」
三人。
手。
重ねる。
《新契約内容を定義せよ》
「内容?」
セシリア。
「何て言えば」
セレナ。
「あなたたちの言葉で」
レオン。
考える。
「誰も」
「……」
「誰かの所有物にならない」
文字。
《登録》
ルーク。
「誰か一人のために」
「……」
「他の誰かを犠牲にしない」
《登録》
セシリア。
最後。
「失うことを」
「……」
「怖がってもいい」
レオン。
ルーク。
彼女を見る。
セシリア。
続ける。
「でも」
「……」
「怖いからって」
「……」
「相手の未来を奪わない」
《登録》
《新契約》
《受理》
アルディオン。
顔。
上げる。
「やめろ」
セレナ。
「大丈夫」
「私は」
「大丈夫」
「消える」
「消えない」
「何?」
セレナ。
笑う。
「契約からは消える」
「……」
「でも」
胸。
指す。
「私の中には」
「……」
「あなたと過ごした時間がある」
アルディオン。
涙。
止まらない。
「それだけで?」
「十分」
◇
光。
広がる。
アルディオン。
身体。
崩れ始める。
「セレナ」
「うん」
「私は」
最後。
言葉。
詰まる。
「何?」
アルディオン。
二百年。
言えなかった。
言葉。
「死なないでほしかった」
セレナ。
泣きながら。
笑う。
「知ってた」
「一人に」
「……」
「しないでほしかった」
「ごめん」
「ずっと」
「うん」
「愛してた」
セレナ。
「私も」
アルディオン。
目。
閉じる。
光。
ほどける。
《真の契約者》
《分離完了》
《アルディオン・アストレア》
《解放》
その瞬間。
黒い世界。
白く。
染まる。
セレナ。
ガルド。
姿。
薄くなる。
「待って!」
セシリア。
「あなたたちも?」
セレナ。
「私たちは」
「……」
「もう十分」
また。
その言葉。
「でも」
「セシリア」
始祖。
微笑む。
「今度は」
「……」
「あなたたちの番」
「何が?」
「生きるの」
セシリア。
涙。
出る。
ガルド。
ルーク。
見る。
「剣は」
「……」
「誰かを殺すためだけにあるんじゃない」
ルーク。
「分かってる」
「守れ」
「うん」
レオン。
セレナ。
見る。
「王は?」
セレナ。
笑う。
「王は」
レオン。
少し。
緊張。
「いらないんでしょう?」
セシリア。
吹き出す。
レオン。
「確かに」
セレナ。
笑う。
「なら」
「……」
「自分で新しい形を作りなさい」
最後。
セレナ。
セシリア。
見る。
「月は」
「……」
「夜を照らすもの」
「……」
「でも」
「……」
「自分まで消えないで」
胸。
痛い。
七回。
自分。
いつも。
誰かを。
助けようとして。
自分を。
消した。
「はい」
セレナ。
微笑む。
「いい子」
そして。
二人。
光。
消える。
◇
三人。
目。
開く。
現実。
契約室。
戻っている。
床。
倒れている。
セシリア。
「レオン!」
「いる」
「ルーク!」
「生きてる」
三人。
身体。
ある。
戻った。
父。
走ってくる。
「セシリア!」
抱きしめられる。
「お父様!」
「馬鹿!」
「痛い!」
「死んだかと思った!」
「生きてる!」
カイル。
ルーク。
肩。
掴む。
「ルーク」
「父さん」
「……よかった」
「うん」
でも。
核。
まだ。
ある。
黒い結晶。
ただ。
色。
薄い。
中央。
小さな影。
星喰い。
いる。
《契約再構築》
《完了率――74%》
セシリア。
「まだ終わってない」
カイル。
「アルディオンは分離した」
「でも」
《星喰い人格分離》
《未完了》
「この子」
星喰い。
助ける。
約束。
した。
《器》
《必要》
ルーク。
「僕」
「ダメ」
セシリア。
即答。
「でも」
「別の方法探す」
そのとき。
星喰い。
声。
《不要》
全員。
「……え?」
《器》
「いらない?」
《新契約》
「……」
《生存形式》
文字。
変わる。
《選択可能》
セシリア。
「何を?」
黒い結晶。
小さく。
ひび。
その中。
光。
外へ。
出る。
手のひら。
サイズ。
丸い。
星。
みたいな。
光。
《肉体不要》
《存在可能》
ルーク。
「つまり?」
カイル。
驚く。
「契約そのものが変わった」
「だから?」
「星喰いは」
カイル。
光。
見る。
「人格だけで存在できる」
セシリア。
手。
差し出す。
光。
乗る。
温かい。
「じゃあ」
「……」
「生きられる?」
《はい》
セシリア。
笑う。
「よかった」
星喰い。
《名前》
「名前?」
《必要》
レオン。
「人間っぽい」
ルーク。
「何にする?」
セシリア。
考える。
星。
月。
剣。
全部。
終わった。
新しい。
始まり。
「ノア」
レオン。
「ノア?」
「なんとなく」
ルーク。
「また勢い」
セシリア。
「嫌?」
光。
《ノア》
一拍。
《好き》
セシリア。
笑う。
「決まり」
◇
でも。
その瞬間。
視界。
赤い。
《警告》
セシリア。
笑顔。
消える。
《契約再構築》
《完了率――74%》
《停止》
「何で」
カイル。
核。
見る。
「まだ何か残ってる」
「アルディオンじゃないの?」
「違う」
カイル。
「別の抵抗」
黒い結晶。
奥。
さらに。
深い。
何か。
ある。
ノア。
震える。
《七回分》
「何?」
《過去》
「……」
《拒否》
ルーク。
「過去が?」
ノア。
《七つの世界》
《消えたくない》
セシリア。
胸。
痛む。
過去七回。
記録。
可能性。
エリア。
人々。
幸せ。
悲しみ。
全部。
核。
中。
存在。
している。
契約を。
完全に。
作り変えれば。
それらは。
消える。
だから。
抵抗。
している。
「どうする」
レオン。
セシリア。
答えられない。
七つの世界。
消す?
残す?
また。
選択。
でも。
今回は。
誰かに。
押しつけられたものじゃない。
「会いに行く」
セシリア。
二人。
見る。
「七つの世界に」
ルーク。
「全部?」
「全部」
レオン。
「三日しか」
セシリア。
視界。
見る。
《三血統統合まで》
表示。
変化。
《停止》
アルディオン。
いなくなった。
死亡カウントも。
《保留》
「時間」
セシリア。
笑う。
「止まってる」
ルーク。
「マジで?」
レオン。
「じゃあ」
「……」
「少しだけ余裕ある」
セシリア。
核。
見る。
過去七回。
そこに。
生きた人たち。
消えたくない。
なら。
無理やり。
消さない。
「一つずつ」
「……」
「話を聞く」
父。
「過去と?」
「うん」
父。
頭。
押さえる。
「もう驚かん」
セシリア。
「諦めた?」
「半分」
◇
そのとき。
核。
七つの光。
一つ。
強く。
輝く。
ノア。
《呼んでいる》
「誰が?」
光。
形。
人。
作る。
女性。
二十三歳。
銀髪。
首。
傷。
処刑された。
セシリア。
一度目の人生。
いや。
八回目のセシリアが。
一度目だと思っていた。
あの人生の。
自分。
セシリア。
息。
止まる。
「私……」
過去のセシリア。
目。
開く。
こちらを見る。
そして。
最初の言葉。
「やっと」
「……」
「来たのね」
セシリア。
「私を知ってる?」
過去の自分。
少し。
笑う。
「もちろん」
「だって」
一歩。
近づく。
「私は」
「……」
「あなたが忘れた」
目。
悲しい。
「七回目のあなたなんだから」
――第13話・完――




