第12話 真の契約者。
《星喰い管理者》
《覚醒開始》
《真の契約者――起動》
王宮の地下深く。
誰にも知られていない場所で。
黒い結晶が、まるで生き物の心臓のように脈打っていた。
ドクン。
ドクン。
亀裂の奥で、何かが目を覚ます。
《まだ終わらせない》
低い声が響く。
そして。
結晶の奥。
閉じ込められていた七つの光が、一斉に揺れた。
◇
翌朝。
セシリアは、ほとんど眠れなかった。
ベッドに入っても、頭の中にはエリアの最後の笑顔が浮かぶ。
《またね》
あの言葉。
本当に、また会えるのだろうか。
それとも。
あれが永遠の別れだったのか。
「……だめ」
セシリアは頬を叩いた。
今は考えても仕方がない。
エリア自身が選んだ。
なら、その選択を無駄にしないためにも。
星喰いを終わらせる。
絶対に。
視界には、新しい文字。
《最終条件》
《星喰い契約の核を破壊せよ》
《期限――11日14時間27分》
昨日から、確実に時間は減っている。
ただ。
以前のようなレオン個人の死亡カウントはない。
それだけが救いだった。
「セシリア様」
扉がノックされる。
「入って」
リナだった。
その後ろには。
小さな少年。
痩せた身体。
少し青白い顔。
「弟さん?」
リナが嬉しそうに頷いた。
「はい。エリオットです」
少年が緊張した様子で頭を下げる。
「エ、エリオットです。姉がお世話になっています」
セシリアはしゃがみ、目線を合わせた。
「身体は大丈夫?」
「はい。お医者様に診てもらいました」
「そう」
よかった。
本当に。
その普通の言葉だけで胸が温かくなる。
一度目の人生では。
リナの弟がどうなったのか。
セシリアは知らなかった。
リナが何を抱えていたのかも。
何も。
「セシリア様」
リナが小さく言う。
「本当に、ありがとうございます」
「私は何も」
「いいえ」
リナは首を振った。
「弟が生きています」
その言葉。
セシリアの胸に残る。
生きている。
それだけで。
未来は変わっている。
「リナ」
「はい」
「今度こそ」
セシリアは微笑む。
「誰も死なせないから」
リナは少し驚いたあと。
強く頷いた。
◇
朝食後。
王宮の一室。
セシリア。
レオン。
ルーク。
エドワード公爵。
そして。
カイル。
五人が集まっていた。
カイルの周囲には護衛。
当然。
自由にはしていない。
父はずっと、殺気のこもった目でカイルを見ている。
「私としては」
エドワード公爵が言う。
「この男を先に牢へ放り込みたいのだが」
カイル。
「当然の判断です」
「分かっているなら黙っていろ」
「はい」
ルークが小さく笑う。
「父さん、意外と素直だね」
「今は反抗しても意味がない」
「昔からそうならよかったのに」
カイル。
黙る。
空気が。
少し重くなる。
セシリアは手を叩いた。
「はい。そこまで」
全員。
彼女を見る。
「今は喧嘩してる場合じゃない」
レオンが静かに頷く。
「地下の契約室へ行く」
「そのためには」
カイルが言う。
「三つの血が必要だ」
「王家」
レオン。
「アルフォード」
セシリア。
「ヴァレンタイン」
ルーク。
三人。
視線が交わる。
「僕たちだね」
ルーク。
「そう」
カイルが続ける。
「だが」
「何?」
「契約室へ入ることと」
カイルの表情が曇る。
「核を破壊できることは別だ」
セシリア。
「どういう意味?」
「私は」
カイル。
少し迷ってから言う。
「核を作ったつもりだった」
全員。
止まる。
「つもり?」
ルーク。
眉を寄せる。
「父さんが作ったんじゃないの?」
「契約そのものは私が作った」
「でも?」
「核は」
カイル。
目を伏せる。
「途中から私の制御を離れた」
セシリアの胸に。
嫌な感覚。
「いつから?」
「最初の世界」
「……」
「レオンが星喰いに飲まれたあと」
カイル。
続ける。
「私は世界を巻き戻した」
「それが一回目?」
「そう」
「そのとき」
カイルの声。
少し低くなる。
「本来なら契約は初期状態へ戻るはずだった」
「でも戻らなかった」
レオンが言う。
「そうだ」
「何が残ったの?」
「記憶」
カイル。
「感情」
「魂の欠片」
「過去の世界そのもの」
セシリア。
「七回分」
カイルが頷く。
「核が勝手に保存し始めた」
ルーク。
「そんなこと」
「私にも予想できなかった」
父。
冷たく。
「自分が作ったものを制御できなくなったということか」
カイル。
「その通りです」
「愚かだな」
「否定できません」
セシリア。
ひとつ。
気になる。
「核に意思があるの?」
部屋。
静かになる。
カイルが。
ゆっくり顔を上げる。
「分からない」
「でも」
「……」
「可能性はある」
◇
王宮地下。
入口。
普段使われている地下書庫より。
さらに下。
隠された階段。
壁。
石。
湿った空気。
セシリアは。
小さなランタンを持ちながら。
先頭近くを歩く。
「こんな場所」
レオン。
周囲を見る。
「王宮にあったんだ」
「知らなかった?」
セシリア。
「全然」
「王太子なのに?」
「十三歳だから」
横から。
父。
「それは正しい」
セシリア。
「今日はみんな十三歳に厳しい」
ルークが笑う。
「仕方ないよ」
「あなた十六歳でしょう」
「三歳しか違わないけど」
「大きい」
少し。
普通の会話。
それだけで。
息がしやすくなる。
でも。
カイルだけは。
ずっと。
無言。
何か。
考えている。
「カイル」
セシリア。
呼ぶ。
「何です」
「怖い?」
「……」
「地下に行くの」
しばらく。
答えない。
「怖いです」
意外。
「あなたでも?」
「私だからこそ」
カイル。
「何がいるか」
「……」
「分からない」
◇
長い階段。
何百段。
降りたか。
分からない。
やがて。
大きな扉。
黒い石。
中央。
三つの窪み。
星。
月。
剣。
カイル。
「ここだ」
レオン。
「何するの?」
「三人」
カイル。
指。
「それぞれ手を」
レオン。
星。
セシリア。
月。
ルーク。
剣。
「どうして私が月?」
セシリア。
「アルフォード家の紋章は月だ」
父。
答える。
「そうだった」
「自分の家だろう」
「緊張してるの」
ルーク。
「僕は剣なの?」
カイル。
「ああ」
「ヴァレンタインは剣?」
「本来は」
カイル。
「守護者の家系だった」
ルーク。
皮肉に笑う。
「ずいぶん守れなかったけどね」
カイル。
何も返せない。
三人。
手。
窪みへ。
冷たい。
「いくよ」
セシリア。
「うん」
レオン。
「いつでも」
ルーク。
同時。
触れる。
◇
ドクン。
扉。
脈打つ。
三人の手。
小さな傷。
血。
一滴。
吸い込まれる。
赤。
光。
星。
月。
剣。
三つ。
繋がる。
《三血統認証》
セシリア。
文字を見る。
《王家――確認》
《アルフォード――確認》
《ヴァレンタイン――確認》
《契約室開放》
ゴゴゴゴゴ……。
重い音。
扉。
開く。
中。
暗闇。
そして。
空気。
違う。
冷たい。
いや。
時間が。
止まっているような。
「ここ」
ルーク。
小さく。
「嫌な感じがする」
カイル。
「私も」
レオン。
セシリアの手。
握る。
「何?」
「……なんとなく」
「怖い?」
「少し」
セシリア。
握り返す。
「私も」
二人。
一歩。
入る。
◇
契約室。
巨大。
地下とは。
思えないほど。
広い。
壁。
無数の文字。
床。
魔法陣。
中央。
さらに。
階段。
下。
降りる。
そこで。
セシリアは。
足を止めた。
「……何あれ」
中央。
黒い結晶。
巨大。
人の背丈。
何倍もある。
中。
光。
浮かんでいる。
七つ。
そして。
一つ。
暗い。
人影。
「核」
カイル。
声。
震える。
「こんなに」
ルーク。
「大きかった?」
「違う」
カイル。
首を振る。
「最初は」
「……」
「拳ほどだった」
セシリア。
「七回分」
「……」
「大きくなった?」
「おそらく」
ドクン。
結晶。
脈打つ。
レオン。
胸。
押さえる。
「っ……」
「レオン!」
セシリア。
「大丈夫?」
「胸が」
黒い影。
一瞬。
腕。
走る。
《星喰い進行率》
《12%》
「また出た」
セシリア。
青ざめる。
「下がってたのに」
カイル。
「核に近づいたからだ」
「じゃあ早く壊さないと」
セシリア。
一歩。
前。
その瞬間。
声。
《来た》
全員。
止まる。
誰?
低い。
男の声。
結晶の中。
響く。
《ようやく》
影。
動く。
《八回目》
セシリア。
背筋。
冷える。
「誰?」
《お前たちが》
「……」
《ここまで》
「……」
《来た》
ルーク。
剣。
抜く。
「姿を見せろ!」
笑い声。
《姿?》
黒い結晶。
表面。
波打つ。
そして。
中から。
一人の男。
姿。
浮かぶ。
白い髪。
青い瞳。
レオン。
息。
止まる。
「……父上?」
全員。
固まる。
セシリア。
男を見る。
似ている。
大人のレオン。
ではない。
現国王。
死んだ。
はずの。
アレクシス・アストレア。
「陛下……?」
父。
声。
震える。
結晶の中の男。
微笑む。
《久しいな》
レオン。
前へ。
「父上!」
カイル。
腕。
掴む。
「近づくな!」
「でも!」
「違う」
カイル。
顔。
青い。
「あれは国王じゃない」
男。
笑う。
《さすが》
視線。
カイル。
《作り手は》
「……」
《気づくのが早い》
セシリア。
「じゃあ誰?」
男。
顔。
歪む。
アレクシス。
次。
王妃。
エレノア。
次。
セシリア。
次。
レオン。
次。
ルーク。
次々。
姿。
変わる。
「何これ……」
そして。
最後。
顔。
ない。
真っ黒な。
人影。
《名前はない》
「……」
《私は》
声。
何人もの声。
重なる。
《お前たちが作った》
カイル。
「感情の集合体」
影。
《近い》
「七回分の」
《愛》
「……」
《憎しみ》
「……」
《喪失》
「……」
《後悔》
「……」
《恐怖》
セシリア。
胸。
締めつけられる。
影。
《全部》
結晶。
光。
強くなる。
《私だ》
◇
カイル。
「ありえない」
《なぜ》
「感情は情報だ」
《なら》
「人格を持つはずが」
《七回》
声。
笑う。
《人間が七回》
「……」
《同じ人間を愛し》
「……」
《失い》
「……」
《殺し》
セシリア。
拳。
握る。
《それでも》
「……」
《まだ愛した》
影。
セシリア。
見る。
《それほどの感情が》
「……」
《何も生まないと》
「……」
《本当に思ったか?》
カイル。
言葉。
ない。
「じゃあ」
セシリア。
前。
出る。
「あなたが」
「……」
「真の契約者?」
《違う》
「え?」
《契約者》
「……」
《ではない》
影。
手。
自分の胸。
《私は契約そのもの》
全員。
息。
止まる。
《星喰い》
「あなた自身が?」
《そう》
◇
レオン。
「何が目的?」
星喰い。
《生きること》
「……」
《それだけ》
セシリア。
「生きる?」
《お前たちと同じ》
「私たちは」
《生きたい》
「だからって」
《死にたくない》
声。
少し。
子どものように。
聞こえる。
セシリア。
胸。
一瞬。
痛む。
でも。
「あなたが生きるために」
「……」
「何人死んだ?」
星喰い。
沈黙。
「七回」
セシリア。
「私たちは」
「……」
「何度死んだ?」
「……」
「エリアも」
「……」
「たくさんの人も」
声。
強くなる。
「あなたが生きるためなら!」
「……」
「何をしてもいいの?」
影。
静か。
《お前も》
「何?」
《同じ》
セシリア。
止まる。
《レオンを生かすため》
「……」
《何人犠牲にする?》
「しない」
《本当に?》
「しない!」
《七回》
「……」
《レオンを殺した》
セシリア。
息。
止まる。
《王国を守るため》
「……」
《一人を》
「……」
《犠牲にした》
胸。
痛い。
でも。
セシリア。
首。
振る。
「だから」
「……」
「八回目は」
「……」
「誰も犠牲にしないって決めた」
星喰い。
《理想》
「そうよ」
《不可能》
「やってみないと分からない」
《失敗すれば》
「……」
《全員死ぬ》
「それでも」
セシリア。
一歩。
「選ばされるよりマシ」
◇
星喰い。
《面白い》
結晶。
震える。
《では》
床。
光。
魔法陣。
起動。
「何!」
ルーク。
剣。
構える。
《証明しろ》
「何を?」
《誰も犠牲にせず》
「……」
《未来を変えられると》
セシリア。
嫌な予感。
その瞬間。
七つの光。
結晶。
外へ。
飛び出す。
一つ。
二つ。
三つ。
七つ。
空中。
形。
変わる。
人。
セシリア。
目。
見開く。
一人目。
処刑された。
自分。
二人目。
胸を刺された。
レオン。
三人目。
血まみれの。
セシリア。
四人目。
首を落とされた。
レオン。
五人目。
泣く。
ルーク。
六人目。
エリア。
七人目。
炎の中。
三人。
「これ」
ルーク。
「過去の」
《七つの世界》
星喰い。
《すべて》
「……」
《ここにある》
セシリア。
「世界が?」
《記録だけではない》
「……」
《可能性そのもの》
カイル。
顔。
変わる。
「まさか」
《核を破壊すれば》
全員。
見る。
《七つの世界も》
「……」
《完全に消える》
セシリア。
「もう消えてるでしょう?」
《違う》
星喰い。
《私が保持している限り》
「……」
《存在している》
「じゃあ」
セシリア。
息。
止まる。
「エリアも?」
星喰い。
《いる》
ルーク。
一歩。
「どこ!」
《七つの世界の一つ》
「戻れる?」
《戻れる》
ルーク。
顔。
変わる。
セシリア。
嫌な予感。
「条件は?」
星喰い。
《核を壊さない》
ルーク。
止まる。
《私を生かす》
「……」
《そうすれば》
星喰い。
《一つの世界を》
「……」
《選び》
「……」
《そこへ戻す》
ルーク。
呼吸。
荒くなる。
「エリアが」
「……」
「生きてる世界に?」
《そう》
セシリア。
ルークを見る。
顔。
分かる。
揺れている。
当たり前。
エリア。
生きている。
本当に。
もう一度。
会える。
星喰い。
《レオン》
「……」
《お前も》
レオン。
顔。
上げる。
《最初の世界》
景色。
光。
映る。
大人の。
セシリア。
笑う。
娘。
エリア。
三人。
食卓。
《戻りたいか?》
レオン。
息。
止まる。
知らない。
でも。
幸せ。
自分の。
未来。
《セシリア》
次。
彼女。
《お前は》
光。
処刑台。
ではない。
別の世界。
レオン。
生きている。
子ども。
二人。
笑う。
《七回の中には》
「……」
《幸せだった時間もある》
セシリア。
涙。
浮かぶ。
《全部》
「……」
《取り戻せる》
カイル。
小さく。
「やめろ」
星喰い。
《お前も》
カイル。
止まる。
光。
女性。
黒い髪。
優しい笑顔。
ルークの母。
抱く。
赤ん坊のルーク。
カイル。
若い。
笑っている。
《妻が生きている世界》
カイル。
目。
見開く。
《欲しくないか?》
カイル。
震える。
「……」
星喰い。
《私を壊さなければ》
全員。
誘惑。
それぞれ。
失ったもの。
目の前。
◇
セシリア。
拳。
握る。
これは。
ずるい。
エリア。
家族。
幸せだった未来。
全部。
戻せる。
本当に。
「セシリア」
レオン。
声。
セシリア。
見る。
レオンも。
泣きそう。
「僕」
「……」
「分からない」
正直。
十三歳。
当然。
セシリアも。
分からない。
核を壊す。
過去七回。
完全。
消える。
エリアも。
幸せだった時間も。
全部。
核を残す。
星喰い。
生きる。
また。
いつか。
暴走。
するかもしれない。
《選べ》
星喰い。
《破壊》
《保存》
二つ。
文字。
浮かぶ。
セシリア。
手。
伸ばせない。
「また」
呟く。
「選択」
《そう》
「また」
「……」
「二つから選べって?」
《世界は》
「……」
《選択の連続》
セシリア。
その言葉。
嫌い。
「じゃあ」
顔。
上げる。
「三つ目」
星喰い。
《ない》
「作る」
《不可能》
「またそれ」
セシリア。
少し。
笑う。
星喰い。
《何をする》
「あなたを」
「……」
「殺さない」
全員。
見る。
ルーク。
「セシリア?」
「でも」
核。
見る。
「契約は壊す」
星喰い。
沈黙。
《矛盾》
「あなたは」
セシリア。
「生きたいんでしょう?」
《そう》
「だったら」
一歩。
「契約じゃなくて」
「……」
「別の形で生きればいい」
カイル。
「そんなこと」
「できるかもしれない」
「どうやって」
セシリア。
考える。
星喰い。
感情。
集合。
人格。
なら。
「身体」
ルーク。
「何?」
「星喰いに」
セシリア。
「身体を作る」
全員。
固まる。
レオン。
「人間にするってこと?」
「そう」
カイル。
「馬鹿な」
「魂を身体に入れる方法」
セシリア。
見る。
「あなた」
「……」
「知ってるでしょう?」
カイル。
止まる。
王妃。
器。
ルークの母。
魂。
保存。
「……理論上は」
「できる?」
「不可能では」
セシリア。
「あるじゃない」
ルーク。
「待って」
「何?」
「星喰いを」
ルーク。
黒い影を見る。
「人間にする?」
「うん」
「危険すぎない?」
「契約の中に閉じ込めておく方が危険」
レオン。
少し考える。
「人間になったら」
「……」
「死ぬ?」
星喰い。
初めて。
声。
揺れる。
《死ぬ?》
セシリア。
「いつか」
《嫌だ》
即答。
まるで。
子ども。
《死にたくない》
「でも」
セシリア。
「生きるって」
「……」
「そういうことだと思う」
《理解できない》
「私も」
「……」
「死ぬのは怖い」
レオン。
「僕も」
ルーク。
「僕も」
カイル。
何も。
言わない。
セシリア。
続ける。
「でも」
「……」
「終わりがあるから」
エリア。
思い出す。
十六年。
《十六年も生きました》
「その時間を」
「……」
「大切にできるんじゃないかな」
星喰い。
沈黙。
長い。
そして。
《私は》
声。
小さい。
《何歳になる》
セシリア。
思わず。
笑う。
「知らない」
《名前は》
「それも」
《家族は》
セシリア。
止まる。
家族。
レオン。
ルーク。
見る。
「それは」
少し。
考える。
「これから作ればいい」
星喰い。
影。
揺れる。
《これから》
「そう」
《私にも》
「……」
《これからが》
「ある?」
セシリア。
微笑む。
「契約を捨てられたら」
一拍。
「ある」
◇
その瞬間。
黒い結晶。
大きく。
震えた。
《選択肢再構成》
カイル。
「そんな」
《第三選択》
《星喰い人格分離》
《契約核破壊》
《人格保存》
ルーク。
「本当に出た……」
レオン。
セシリアを見る。
「すごい」
セシリア。
「私もびっくりしてる」
父。
後ろ。
「お前はいつも勢いだけで進むな」
「褒めてる?」
「半分だけ」
でも。
文字。
続く。
《人格分離条件》
《器が必要》
全員。
カイルを見る。
カイル。
「……なぜ私を見る」
セシリア。
「詳しいから」
「技術的には可能だ」
「じゃあ」
「ただし」
カイル。
表情。
暗い。
「普通の身体では耐えられない」
「なら?」
「王家」
「……」
「アルフォード」
「……」
「ヴァレンタイン」
嫌な予感。
「三つの血を」
カイル。
「持つ身体が必要だ」
全員。
沈黙。
そんな人間。
いる?
王家。
アルフォード。
ヴァレンタイン。
三つ。
「エリア」
ルーク。
呟く。
セシリア。
息。
止まる。
レオンと。
セシリア。
子。
王家。
アルフォード。
そして。
もし。
ルークと婚約。
でも。
血は入らない。
違う。
「エリアじゃない」
カイル。
言う。
「血統として三つ必要」
「じゃあ誰?」
カイル。
答えない。
ルーク。
父。
見る。
そして。
何か。
気づく。
「父さん」
「……」
「母さんは王家」
「そうだ」
「父さんはヴァレンタイン」
「……」
「僕には二つ」
「そう」
セシリア。
「あとアルフォード」
その瞬間。
父。
エドワード。
顔。
変わる。
「待て」
全員。
彼を見る。
父。
カイル。
じっと。
見る。
「お前の祖母」
「……」
「名前は?」
カイル。
「なぜ」
「答えろ」
「……リディア」
父。
血の気。
引く。
「リディア・何だ」
カイル。
目。
少し。
揺れる。
「……アルフォード」
セシリア。
息。
止まる。
「え?」
父。
「やはり」
「お父様?」
エドワード公爵。
カイルを見る。
「リディアは」
「……」
「私の父の姉だ」
部屋。
いや。
地下。
完全な。
静寂。
セシリア。
カイル。
ルーク。
順番。
見る。
「じゃあ」
ルーク。
王家。
母。
ヴァレンタイン。
父。
そして。
アルフォード。
祖母。
三つ。
すべて。
「ルークが」
セシリア。
声。
震える。
「器になれる?」
カイル。
顔。
真っ白。
「駄目だ」
ルーク。
「父さん」
「絶対に駄目だ!」
初めて。
カイル。
息子の前へ。
立つ。
守るように。
「そんなものを」
「……」
「ルークに入れるな!」
星喰い。
静かに。
《器》
ルーク。
黒い結晶。
見る。
《適合率》
文字。
浮かぶ。
《ルーク・ヴァレンタイン》
《99.8%》
セシリア。
「高すぎる」
ルーク。
苦笑。
「こういうときだけ優秀なんだ」
「笑ってる場合じゃない!」
《人格分離可能》
《ただし》
セシリア。
嫌な予感。
《器側人格との共存保証》
《なし》
「……」
ルーク。
「つまり?」
カイル。
声。
震える。
「星喰いを入れれば」
「……」
「お前が消える可能性がある」
ルーク。
黙る。
セシリア。
首。
振る。
「ダメ」
「でも」
「ダメ!」
「他に」
「探す!」
「時間は」
《期限――11日11時間03分》
ある。
まだ。
十一日。
「探す」
セシリア。
強く。
「絶対」
星喰い。
その様子を。
見ている。
《ルーク》
「何?」
《お前は》
「……」
《死ぬのが怖いか》
ルーク。
少し。
考える。
「怖いよ」
《それでも》
「……」
《私を入れるか》
セシリア。
「答えなくていい!」
ルーク。
彼女を見る。
そして。
星喰いへ。
「今は」
「……」
「入れない」
セシリア。
少し。
安心。
でも。
ルーク。
続ける。
「でも」
「……」
「他に方法がなかったら」
「ルーク」
「そのとき考える」
カイル。
「駄目だ」
「父さん」
「駄目だ!」
ルーク。
少し。
驚く。
カイル。
息子の肩。
掴む。
「お前は」
「……」
「死ぬな」
ルーク。
目。
見開く。
「……」
カイル。
震える。
「私は」
「……」
「妻を失って」
「……」
「お前まで」
言葉。
詰まる。
「今さら」
ルーク。
目。
赤い。
「今さらそれ言う?」
「……」
「遅いよ」
「分かってる」
「本当に」
「分かってる」
ルーク。
少し。
泣きながら。
笑う。
「馬鹿だな」
カイル。
「そうだな」
◇
その瞬間。
黒い結晶。
突然。
激しく。
鳴る。
ドクン!
全員。
振り向く。
《警告》
《外部干渉》
セシリア。
「何?」
《契約核への侵入》
カイル。
「誰が!」
黒い結晶。
一部。
赤くなる。
《管理権限》
《奪取開始》
星喰い。
初めて。
怯えた声。
《嫌だ》
セシリア。
「どうしたの?」
《来る》
「誰が?」
《あいつ》
「誰!」
影。
震える。
《最初の》
「……」
《王》
父。
「最初の王?」
カイル。
顔。
青ざめる。
「そんな」
「知ってるの?」
「二百年前」
カイル。
「最初の星喰い契約を結んだ」
「……」
「アストレア王」
レオン。
「僕の祖先?」
「そうだ」
「死んでるでしょう?」
カイル。
結晶。
見る。
「肉体は」
「……」
「でも」
「……」
「契約に」
星喰い。
叫ぶ。
《来る!》
黒い結晶。
中央。
大きく。
亀裂。
そして。
中から。
手。
人間の。
手。
出てくる。
レオン。
一歩。
後ずさる。
「何……」
手。
結晶。
掴む。
次。
顔。
男。
ゆっくり。
現れる。
長い。
金色の髪。
赤い瞳。
王冠。
古い。
二百年前の。
アストレア王。
「久しい」
声。
低い。
「我が王国よ」
全員。
動けない。
男。
レオンを見る。
笑う。
「ようやく」
「……」
「器が育った」
レオン。
「僕?」
男。
次。
セシリア。
見る。
「そして」
「……」
「月の血も」
最後。
ルーク。
「剣の血」
三人。
見る。
「三つ揃った」
カイル。
「何をするつもりだ」
男。
初めて。
カイルを見る。
「お前には感謝している」
「……」
「よく育てた」
「何を」
「星喰いを」
カイル。
凍る。
「まさか」
男。
笑う。
「星喰いは」
「……」
「お前が作ったものではない」
セシリア。
息。
止まる。
「どういうこと?」
男。
両手。
広げる。
「二百年前」
「……」
「私が」
胸。
黒い星。
「自らの魂を」
「……」
「契約へ封じた」
カイル。
「では」
「……」
「真の契約者は」
男。
笑う。
「私だ」
セシリアの視界。
文字。
一気に。
変わる。
《真の契約者》
《初代アストレア王》
《アルディオン・アストレア》
そして。
新しい。
死亡表示。
《レオン・アストレア》
《死亡まで――3日》
「……また」
《セシリア・アルフォード》
《死亡まで――3日》
「私も?」
《ルーク・ヴァレンタイン》
《死亡まで――3日》
三人。
同じ。
その下。
《三血統統合まで》
《71時間59分》
セシリア。
拳。
握る。
アルディオン。
微笑む。
「今度こそ」
「……」
「完全な王が」
「……」
「生まれる」
レオン。
「誰が」
アルディオン。
答える。
「三人だ」
全員。
「……?」
「王」
「……」
「月」
「……」
「剣」
男。
楽しそうに。
笑う。
「三人を一つにする」
セシリア。
ぞっとする。
「そんなの」
「そして」
アルディオン。
「私は」
自分の胸。
指す。
「その身体へ入る」
カイル。
「お前が王になるため?」
「王?」
アルディオン。
鼻で笑う。
「違う」
ゆっくり。
手。
上げる。
「神だ」
黒い光。
地下。
すべて。
覆う。
「逃げろ!」
カイル。
叫ぶ。
ルーク。
セシリア。
腕。
掴む。
レオン。
父。
全員。
扉。
走る。
後ろ。
アルディオン。
笑い声。
響く。
「三日後」
「……」
「迎えに行く」
扉。
閉まる。
最後に。
セシリア。
振り返る。
黒い結晶。
中央。
アルディオン。
そして。
その背後。
星喰い。
小さな影。
震えている。
助けて。
そう。
聞こえた。
気がした。
◇
地下を抜け。
誰も。
言葉。
出ない。
三日。
さっきまで。
十一日あった。
一気に。
三日。
「また短くなった」
セシリア。
呟く。
ルーク。
「ごめん」
「何が?」
「僕が器だから」
「違う」
即答。
「あなたのせいじゃない」
「でも」
「違う!」
レオン。
「三人で」
二人。
見る。
「何?」
「三人で狙われてるなら」
レオン。
手。
差し出す。
「三人で倒そう」
ルーク。
少し。
笑う。
「王子らしくなったね」
レオン。
「王子はやめる予定だけど」
セシリア。
思わず。
笑う。
こんなときに。
でも。
それでいい。
怖い。
死にたくない。
でも。
一人じゃない。
セシリア。
レオンの手。
握る。
ルークも。
少し迷い。
その上。
重ねる。
「三日」
セシリア。
言う。
「十分」
ルーク。
「根拠は?」
「ない」
レオン。
笑う。
「やっぱり」
「でも」
セシリア。
二人を見る。
「七回失敗して」
「……」
「八回目で」
「……」
「やっと本当の敵まで来た」
視界。
《71時間42分》
「だったら」
拳。
握る。
「あと一歩」
今度こそ。
終わらせる。
星喰いも。
過去も。
決められた運命も。
全部。
そして。
誰も。
犠牲にしない。
――第12話・完――




