第11話 エリアの願い。
《第八分岐》
《未観測領域へ移行》
《物語の結末》
《変更可能》
その文字を見た瞬間。
セシリアは。
胸の奥に。
ほんの少しだけ。
希望が灯るのを感じた。
変更可能。
つまり。
まだ。
終わっていない。
《期限――12日》
《選択対象》
《セシリア・アルフォード》
《レオン・アストレア》
《ルーク・ヴァレンタイン》
《三人のうち》
《生き残れるのは一人》
そんな未来。
認めない。
そして。
目の前。
青白い光の中に。
少女がいる。
銀色の髪。
青い瞳。
十六歳ほど。
最初の世界。
自分とレオンの娘。
エリア。
「……エリア」
セシリアが。
名前を呼ぶ。
少女の瞼が。
ゆっくり。
開く。
青い瞳。
レオンと。
同じ色。
でも。
目元は。
どこか。
自分に似ている。
セシリアの胸が。
強く痛んだ。
記憶には。
ほとんど残っていない。
なのに。
分かる。
この子を。
愛していた。
心が。
覚えている。
「お母……様?」
弱い声。
その一言で。
涙が。
溢れた。
「エリア……!」
セシリアは。
駆け寄ろうとする。
しかし。
手を伸ばした瞬間。
指。
光。
すり抜ける。
触れられない。
「……どうして」
カイルが。
静かに言う。
「魂だけだからだ」
セシリアが。
振り向く。
「黙って」
「事実だ」
「黙って!」
カイル。
それ以上。
言わない。
ルークは。
エリアから。
目を離せない。
「エリア」
声。
震えている。
少女が。
ゆっくり。
彼を見る。
「……ルーク」
その瞬間。
ルークの。
目から。
涙が落ちた。
「本当に」
「……」
「本当にエリアなのか?」
少女。
少し。
笑う。
「相変わらず」
「……」
「泣き虫ね」
ルーク。
顔。
歪む。
「誰のせいだよ」
「ごめんなさい」
「謝るな」
「でも」
「謝るな!」
ルーク。
叫ぶ。
「僕が」
「……」
「僕が殺したんだ」
エリア。
静かに。
首を振る。
「違う」
「違わない!」
「違うわ」
「僕が剣を!」
「私が頼んだの」
ルーク。
言葉。
止まる。
「私が」
エリア。
自分の胸元に。
手を置く。
「あなたに殺してって言った」
「……」
「だから」
「でも」
「あなたは」
少女。
悲しそうに。
笑う。
「最後まで嫌がってた」
ルーク。
拳。
震える。
「もっと方法を探せばよかった」
「なかった」
「あるかもしれなかった!」
「その時間がなかった」
「それでも!」
「ルーク」
優しい。
声。
「もう」
「……」
「自分を罰しないで」
ルーク。
顔。
伏せる。
◇
レオン。
少し離れた場所。
何も言えず。
立っていた。
自分の娘。
でも。
自分には。
記憶がない。
「……僕が」
声。
小さい。
「父親?」
エリアが。
レオンを見る。
一瞬。
顔。
歪む。
今にも。
泣きそう。
「お父様」
レオン。
息。
止まる。
「本当に?」
「はい」
エリア。
笑う。
「少し若すぎますけど」
レオン。
思わず。
自分の手を見る。
十三歳。
娘は十六歳。
どう考えても。
おかしい。
「何か」
レオン。
困ったように。
「変な感じだ」
エリア。
「私もです」
「ごめん」
「どうして謝るんです?」
「覚えてない」
レオン。
目。
伏せる。
「君のこと」
エリア。
静かに。
「いいんです」
「でも」
「私が覚えてます」
レオン。
顔。
上げる。
エリア。
笑う。
「お父様は」
「……」
「毎朝必ず私の髪をぐちゃぐちゃにしました」
「何それ」
セシリア。
思わず。
「本当?」
エリア。
「はい」
レオン。
「そんなことしない」
ルーク。
「してた」
「君まで?」
「毎朝」
「何で?」
エリア。
少し。
笑う。
「可愛いって言いながら」
レオン。
顔。
赤くなる。
セシリア。
笑ってしまう。
ほんの。
数秒。
今の状況を。
忘れた。
家族。
そんな。
温かいもの。
でも。
次の瞬間。
エリアの身体。
光。
揺らぐ。
「エリア?」
セシリア。
「大丈夫?」
エリア。
胸。
押さえる。
カイルが。
冷静に言う。
「長くは保たない」
セシリア。
睨む。
「何とかして」
「だから」
カイル。
「言っている」
「……」
「二人を代価にすれば」
「嫌」
「なら」
「嫌!」
セシリア。
「別の方法を探す!」
カイル。
ため息。
「十二日しかない」
「十分」
「何の根拠で」
「八回目だから」
カイル。
少し。
笑う。
「便利な言葉だ」
「あなたよりはマシ」
◇
エリア。
突然。
「お母様」
「何?」
「私」
少し。
声。
弱くなる。
「戻らなくていいです」
全員。
止まる。
セシリア。
「何言ってるの?」
「そのままの意味です」
「嫌」
「でも」
「嫌!」
セシリア。
近づく。
触れられない。
それでも。
手。
伸ばす。
「せっかく」
声。
震える。
「会えたのに」
エリア。
目。
潤む。
「私も」
「……」
「会いたかった」
「だったら」
「でも」
エリア。
ルークを見る。
次。
レオン。
そして。
セシリア。
「私のために」
「……」
「誰かが死ぬのは嫌」
「死なない」
「お母様」
「死なせない!」
エリア。
少し。
困ったように。
笑う。
「そういうところ」
「……」
「変わってない」
セシリア。
「何が」
「昔も」
「……」
「全部一人で助けようとしてた」
「……」
「お父様も」
「……」
「私も」
「……」
「国も」
胸。
痛い。
「でも」
エリア。
「それで」
「……」
「最後は」
目。
伏せる。
「全部失った」
セシリア。
何も。
言えない。
最初の世界。
そして。
その後。
七回。
ずっと。
同じ。
全部。
助けようとした。
でも。
誰かを。
選ばされ。
殺した。
「だから」
エリア。
「今回は」
「……」
「私を選ばないで」
ルーク。
「エリア」
「あなたも」
エリア。
彼を見る。
「私を助けようとしないで」
ルーク。
首。
振る。
「無理だ」
「ルーク」
「無理」
「お願い」
「嫌だ」
「私は」
ルーク。
声。
震える。
「何のために」
「……」
「ここまで来たと思ってる」
エリア。
「私のため?」
「そうだよ!」
「だったら」
「……」
「私の願いを聞いて」
ルーク。
止まる。
エリア。
笑う。
「生きて」
◇
その言葉。
ルーク。
何も。
返せない。
セシリアも。
胸。
締めつけられる。
エリア。
続ける。
「お父様も」
レオン。
見る。
「生きて」
「……うん」
「お母様も」
「嫌」
「まだ言ってない」
「分かる」
エリア。
少し笑う。
「生きて」
セシリア。
唇。
噛む。
「あなたも」
「私は」
「生きて」
「だから!」
声。
荒くなる。
「四人で!」
エリア。
静かに。
首。
振る。
「それが」
「……」
「できないなら」
「できる」
「できないかもしれない」
「できる!」
「お母様」
強い。
声。
「聞いて」
セシリア。
止まる。
「私は」
エリア。
胸。
手。
「もう一度生まれなくても」
「……」
「幸せだった」
「そんな」
「本当です」
「だって」
セシリア。
泣く。
「あなたは」
「十六年」
「……」
「十六年しか」
エリア。
笑う。
「十六年も」
「……」
「生きました」
言葉。
変わる。
意味。
変わる。
「お父様に愛されて」
「……」
「お母様に愛されて」
「……」
「ルークに愛されて」
ルーク。
涙。
落ちる。
「十分」
エリア。
言う。
「幸せでした」
◇
カイル。
黙って。
見ていた。
表情。
読めない。
セシリア。
その顔。
見て。
突然。
思う。
「あなた」
カイル。
「何だ」
「エリアが」
「……」
「戻らなくてもいいって言ったの」
「聞こえている」
「どう思う?」
カイル。
一瞬。
眉。
動く。
「どうでもいい」
「嘘」
「何が」
「あなたは」
セシリア。
一歩。
近づく。
「同じこと言われたことがあるんじゃない?」
ルーク。
顔。
上げる。
カイル。
目。
冷たくなる。
「何の話だ」
「ルークのお母さん」
空気。
変わる。
「あなたが取り戻したい人」
「……」
「その人も」
セシリア。
ゆっくり。
「戻りたいって言ったの?」
カイル。
答えない。
「聞いたことある?」
「黙れ」
「本当に」
「黙れ」
「その人は」
「黙れ!」
カイルの。
声。
玉座の間。
響く。
全員。
止まる。
カイル。
肩。
上下。
初めて。
感情。
剥き出し。
「お前に」
「……」
「何が分かる」
「分からない」
セシリア。
「だから聞いてる」
「……」
「ルークのお母さんは」
「……」
「あなたに」
一拍。
「生きてって言わなかった?」
カイル。
拳。
強く。
握る。
◇
ルーク。
静かに。
「父さん」
カイル。
「……」
「母さんは」
「……」
「何て言ったの」
「関係ない」
「ある」
「黙れ」
「言って」
「ルーク」
「言えよ!」
ルーク。
叫ぶ。
「僕の母さんだ!」
カイル。
顔。
歪む。
「最後に」
ルーク。
「何て言った?」
沈黙。
長い。
長い。
やがて。
カイル。
小さく。
「生きて」
全員。
止まる。
「……」
カイル。
目。
閉じる。
「私に」
声。
掠れる。
「生きてと言った」
ルーク。
息。
止まる。
「それで」
「……」
「死んだ」
カイル。
「笑って」
「……」
「私に」
「……」
「あなたは生きてって」
ルーク。
涙。
出る。
「じゃあ」
「……」
「何で」
カイル。
「できなかった」
「え?」
「できなかった!」
声。
震える。
「彼女のいない世界で」
「……」
「生きるなんて」
「……」
「できなかった!」
セシリア。
胸。
痛い。
一瞬。
分かってしまう。
愛する人を。
失う。
悲しみ。
自分だって。
七回。
レオンを。
失った。
でも。
「だからって」
セシリア。
「世界を巻き込んでいい理由にはならない」
カイル。
「分かっている」
「分かってない」
「分かっている!」
「じゃあ!」
「だから!」
カイル。
叫ぶ。
「取り戻せば全部元に戻る!」
「戻らない!」
セシリア。
同じくらい。
強く。
「死んだ人を戻したって!」
「……」
「あなたがしたことは消えない!」
カイル。
止まる。
「ルークのお母さんが戻ってきて」
セシリア。
「七回の人生で死んだ人たちを見たら」
「……」
「喜ぶと思う?」
カイル。
何も。
言えない。
◇
そのとき。
エリア。
「お祖父様」
カイル。
顔。
上げる。
エリア。
血筋で言えば。
カイルは。
祖父ではない。
でも。
ルークの父。
彼女にとって。
結婚すれば。
義父。
家族になるはずだった人。
「……その呼び方はやめろ」
エリア。
「嫌です」
カイル。
一瞬。
困る。
「あなた」
エリア。
優しく。
「ルークに似てますね」
「似ていない」
ルーク。
即答。
「そこ否定するの?」
セシリア。
思わず。
言う。
ほんの少し。
空気。
緩む。
エリア。
笑う。
そして。
カイルへ。
「私は」
「……」
「戻らなくていいです」
カイル。
「お前に決める権利はない」
「私の命です」
「魂だ」
「同じです」
「違う」
「じゃあ」
エリア。
真っ直ぐ。
「誰のものですか?」
カイル。
答えられない。
「私の魂は」
「……」
「私のものです」
セシリア。
胸。
大きく。
鳴る。
そうだ。
何度も。
カイルは。
選択肢を作った。
誰が生きる。
誰が死ぬ。
誰を戻す。
誰を犠牲にする。
全部。
他人が。
決めていた。
「エリア」
セシリア。
「ありがとう」
エリア。
微笑む。
「どういたしまして」
セシリア。
カイルを見る。
「この契約」
「……」
「本人の意思を無視してる」
「何?」
「エリアは戻りたくない」
「それが何だ」
「だったら」
セシリア。
視界。
文字。
思い出す。
《双方による自発的選択》
「契約には」
「……」
「自発的な意思が必要なんでしょう?」
カイル。
顔。
変わる。
「セシリア」
「図星?」
「黙れ」
「エリアが拒否したら」
「……」
「蘇生契約は成立しない?」
カイル。
答えない。
でも。
それが。
答え。
「ルーク!」
「何」
「エリアを戻す契約」
「……」
「破れるかもしれない」
「どうやって?」
「エリア本人が」
セシリア。
少女を見る。
「拒否する」
エリア。
目。
見開く。
カイル。
初めて。
本気で。
焦る。
「やめろ!」
◇
カイル。
手。
上げる。
青い光。
エリア。
揺れる。
「エリア!」
ルーク。
前へ。
「父さんやめろ!」
「黙れ!」
カイル。
「この魂がなければ!」
「……」
「私の計画は!」
その言葉。
全員。
止まる。
セシリア。
ゆっくり。
「やっぱり」
カイル。
気づく。
「……」
「エリアを戻したいんじゃない」
「違う!」
「利用したいだけ」
「違う!」
「ルークのお母さんを戻すために」
「黙れ!」
「エリアの魂まで!」
黒い光。
カイル。
身体。
包む。
「私は!」
叫ぶ。
「家族を取り戻したいだけだ!」
ルーク。
「家族?」
父。
見る。
「僕を見ろよ」
カイル。
止まる。
ルーク。
涙。
流れている。
「僕は」
「……」
「ここにいる」
カイル。
「……」
「母さんはいない」
「……」
「でも」
「……」
「僕は生きてる」
声。
震える。
「なのに」
「……」
「父さんは」
ルーク。
胸。
叩く。
「一度でも!」
「……」
「僕を見たか?」
カイル。
言葉。
出ない。
「母さんを戻すことばっかりで」
「……」
「僕が何をして」
「……」
「何を失って」
「……」
「どうやって生きてきたか」
ルーク。
「一度でも考えた?」
カイル。
唇。
震える。
「ルーク」
「僕は」
一歩。
「母さんじゃない」
「……」
「母さんの代わりにもならない」
「……」
「でも」
ルーク。
涙。
拭う。
「あなたの息子だ」
その瞬間。
カイルの。
黒い光。
揺れる。
◇
《契約安定率 74%》
セシリア。
新しい文字。
「何これ」
《契約安定率 69%》
下がる。
エリア。
「お母様?」
《63%》
セシリア。
カイルを見る。
「感情」
「……」
「契約は」
「……」
「感情でできてる」
ルーク。
「だから」
「カイルの心が」
セシリア。
「揺れれば」
《55%》
「契約も揺れる」
カイル。
「やめろ」
「ルーク!」
セシリア。
「もっと言って!」
「何を!」
「思ってること全部!」
「今!?」
「今!」
ルーク。
父。
見る。
「父さん!」
カイル。
「……」
「僕は!」
「……」
「ずっと!」
声。
震える。
「あなたに」
「……」
「一回でいいから!」
「……」
「よく生きたって!」
涙。
「言ってほしかった!」
カイル。
顔。
崩れる。
《契約安定率 42%》
「母さんを助けられなかった僕を」
「……」
「責めるんじゃなくて!」
「……」
「エリアを殺した僕を」
「……」
「化け物みたいに見るんじゃなくて!」
「……」
「一回でいいから!」
ルーク。
泣く。
「息子として見てほしかった!」
《契約安定率 31%》
カイル。
完全に。
動けない。
「ルーク……」
「遅いよ」
「……」
「今さら」
ルーク。
笑う。
泣きながら。
「遅すぎる」
◇
青い光。
エリアの身体。
強く。
明滅。
《蘇生契約》
《同意確認》
セシリア。
文字。
見る。
「出た」
エリア。
「何が?」
「あなたに」
セシリア。
「選択が来てる」
エリア。
目。
閉じる。
その瞬間。
少女の前。
二つ。
光。
《蘇生する》
《契約を拒否する》
カイル。
「エリア!」
「……」
「待て!」
エリア。
彼を見る。
「ごめんなさい」
「やめろ!」
「私は」
少女。
笑う。
「もう」
「……」
「十分生きました」
ルーク。
顔。
歪む。
「エリア」
「ルーク」
「……」
「泣かないで」
「無理」
「じゃあ」
エリア。
少し。
笑う。
「最後だけ」
「……」
「笑って」
ルーク。
必死に。
口元。
上げようとする。
無理。
顔。
ぐしゃぐしゃ。
エリア。
笑う。
「下手」
「うるさい」
セシリア。
涙。
止まらない。
レオンも。
黙って。
泣いている。
エリア。
セシリアを見る。
「お母様」
「……うん」
「次に」
「……」
「もし」
声。
少し。
震える。
「また私が生まれたら」
セシリア。
胸。
押さえる。
「絶対」
「……」
「見つける」
「はい」
「絶対に」
「……」
「抱きしめる」
「はい」
エリア。
レオンを見る。
「お父様」
「うん」
「今度は」
「……」
「髪ぐちゃぐちゃにしないでください」
レオン。
泣きながら。
笑う。
「約束する」
「嘘」
「何で!」
「絶対します」
セシリア。
笑ってしまう。
泣きながら。
エリア。
最後。
ルーク。
見る。
長い。
長い。
時間。
「ルーク」
「……うん」
「愛してる」
ルーク。
息。
止まる。
「僕も」
「……」
「ずっと」
「うん」
「何回世界が変わっても」
「……」
「君を」
声。
震える。
「愛してる」
エリア。
目。
閉じる。
そして。
選ぶ。
《契約を拒否する》
青い光。
爆発。
「エリア!」
ルーク。
手。
伸ばす。
少女。
光。
ほどける。
でも。
消える直前。
エリア。
笑った。
「またね」
そして。
消えた。
◇
静寂。
誰も。
動けない。
ルーク。
その場。
膝。
つく。
「……またね」
小さく。
繰り返す。
セシリア。
肩。
震える。
でも。
泣き崩れない。
エリアが。
自分で。
選んだ。
だから。
その選択を。
尊重する。
《蘇生契約――破棄》
《代価条件――消滅》
そして。
《三人生存条件》
文字。
変わる。
《再設定中》
《再設定中》
《再設定完了》
セシリア。
息。
止める。
《セシリア・アルフォード》
《生存可能》
《レオン・アストレア》
《生存可能》
《ルーク・ヴァレンタイン》
《生存可能》
「……」
セシリア。
口。
手。
当てる。
「みんな」
レオン。
「何?」
「生きられる」
ルーク。
ゆっくり。
顔。
上げる。
「本当に?」
「うん」
涙。
また。
出る。
「三人とも」
でも。
続き。
《最終条件》
「……まだある」
ルーク。
「何」
文字。
浮かぶ。
《星喰い契約の核を破壊せよ》
《期限――11日23時間》
セシリア。
「核?」
カイル。
その言葉。
聞いた瞬間。
顔色。
変わる。
「駄目だ」
セシリア。
見る。
「知ってるの?」
「……」
「核はどこ」
カイル。
何も。
答えない。
「言って」
「それを壊せば」
カイル。
震える。
「全部消える」
「何が」
「巻き戻し」
「……」
「魂の保存」
「……」
「過去七回の記録」
セシリア。
「それだけ?」
カイル。
目。
閉じる。
「私の妻も」
ルーク。
止まる。
カイル。
小さく。
「今度こそ」
声。
掠れる。
「本当に消える」
◇
ルーク。
父を見る。
長い。
沈黙。
「父さん」
「……」
「母さんは」
「……」
「もう」
ルーク。
苦しそう。
「死んだんだよ」
カイル。
拳。
震える。
「分かっている」
「分かってない」
「分かっている!」
「だったら!」
ルーク。
「終わらせよう」
カイル。
息。
止まる。
「母さんを」
「……」
「やっと」
ルーク。
涙。
拭う。
「休ませてあげよう」
カイル。
目。
赤くなる。
「私は」
「……」
「できない」
ルーク。
「じゃあ」
剣。
拾う。
「僕がやる」
「ルーク」
「父さんができないなら」
「……」
「僕が終わらせる」
カイル。
息子を見る。
初めて。
本当に。
見ているようだった。
「……強くなったな」
ルーク。
止まる。
その言葉。
ずっと。
欲しかったもの。
でも。
今。
聞く。
ルーク。
泣きそうに。
笑う。
「遅いよ」
カイル。
「そうだな」
◇
セシリア。
「核はどこ?」
カイル。
長い。
沈黙。
そして。
床。
王冠。
見る。
「この王宮の下」
「地下?」
「もっと下だ」
「何があるの?」
カイル。
「最初の契約室」
父。
「そんな場所」
「王族にも」
カイル。
「ほとんど知られていない」
セシリア。
「どうやって入る?」
カイル。
「鍵が三つ必要だ」
レオン。
「三つ?」
「王家」
カイル。
レオンを見る。
「アルフォード」
セシリア。
そして。
カイル。
ルーク。
見る。
「ヴァレンタイン」
三つの血。
「つまり」
セシリア。
「私たち三人?」
カイル。
頷く。
「だから」
少し。
苦く笑う。
「三人とも生きていなければ」
「……」
「核には辿り着けない」
セシリア。
視界。
《最終条件》
《三つの血を揃えよ》
《王家》
《アルフォード》
《ヴァレンタイン》
「一致した」
ルーク。
「じゃあ」
「行こう」
セシリア。
即答。
父。
「待て」
「何?」
「今すぐ行く気か」
「もちろん」
「少しは休め」
「でも」
「十二日ある」
「十一日と二十三時間」
「ほぼ十二日だ!」
セシリア。
「一時間違う」
父。
頭。
押さえる。
「お前は本当に」
レオン。
小さく。
笑う。
「セシリアらしい」
セシリア。
「何で知ってるの」
レオン。
「分からない」
少し。
照れる。
「でも」
「……」
「そう思った」
胸。
少し。
温かい。
過去七回。
記憶。
なくても。
何か。
残っている。
◇
その夜。
王宮。
久しぶりに。
静かだった。
レオン。
別室。
休む。
父。
兵。
配置。
ルーク。
一人。
バルコニー。
セシリア。
後ろから。
近づく。
「眠れない?」
「うん」
「エリア?」
「うん」
しばらく。
二人。
夜空。
見る。
「怒ってる?」
ルーク。
聞く。
「何に?」
「僕が」
「……」
「エリアを殺したこと」
セシリア。
すぐには。
答えない。
「分からない」
正直。
「許せるかも」
「……」
「まだ分からない」
「そっか」
「でも」
ルークを見る。
「エリアは」
「……」
「あなたを恨んでなかった」
「うん」
「愛してた」
ルーク。
涙。
少し。
目。
滲む。
「うん」
「だから」
セシリア。
「今は」
「……」
「それでいいと思う」
ルーク。
小さく。
「ありがとう」
◇
その頃。
北の離宮。
王妃エレノア。
ベッド。
身体。
弱っている。
しかし。
死亡カウント。
《残り43分》
医師。
何人も。
手を尽くす。
そのとき。
王妃。
目。
開く。
胸。
器の印。
突然。
光。
消える。
《器契約――破棄》
エリア。
契約拒否。
星喰い。
揺らいだ。
その影響。
王妃の。
身体。
刻まれていた契約も。
壊れる。
死亡カウント。
《43分》
《――》
数字。
消える。
王妃。
ゆっくり。
息。
吸う。
医師。
驚く。
「王妃様?」
エレノア。
小さく。
笑う。
「やっと」
「……」
「終わりが」
窓。
外。
見る。
「始まったのね」
◇
王宮地下。
誰も知らない。
さらに。
深い場所。
巨大な。
黒い扉。
その奥。
何か。
脈打つ。
ドクン。
ドクン。
人間の。
心臓のように。
中央。
黒い結晶。
その中。
無数の。
光。
浮かぶ。
一つ。
二つ。
三つ。
七つ。
過去七回。
消えた世界。
そこで。
生き。
死んだ。
記憶。
感情。
魂の欠片。
そして。
黒い結晶。
表面。
ゆっくり。
亀裂。
入る。
カイルの契約。
弱まり。
エリアの魂。
解放されたことで。
核が。
不安定になっている。
その中。
一つの。
小さな光。
目覚める。
少女ではない。
男。
低い声。
響く。
《まだ》
結晶。
震える。
《終わらせない》
そして。
誰も。
知らない。
新しい文字が。
地下深く。
浮かぶ。
《星喰い管理者》
《覚醒開始》
《真の契約者――起動》
――第11話・完――




