第18話 真実だけでは止められない
『おむすび姫 ―時をむすぶ、ひとつのおむすび―』
第18話 真実だけでは止められない
その日の午後。
藤代の斥候が、ひとつの包みを持ち帰った。
食料輸送が止められた山道。
茂みの奥に捨てられていた小袋。
景綱たちが集まる。
「何だ、これは」
「荷を検めた者どもが落としたものと思われます」
宗兵衛が袋の匂いを嗅ぐ。
「姫様は近づかれぬよう」
むすびはすぐに一歩下がった。
「分かってる」
中身そのものを細かく調べる術は、この時代には限られている。
けれど。
荷駄隊の証言。
不審な者たち。
捨てられた袋。
輸送された俵の一部だけが問題になったこと。
藤代側で同じ蔵の米を食べても何も起きていないこと。
証拠は少しずつ揃っている。
「これ持って玄蕃さんに説明しよう!」
むすびが言う。
「まだ早い」
景綱が答える。
「なんで!」
「相手が聞く耳を持たぬ」
「持ってるよ! 玄蕃さんは藤代を信じたいんでしょ?」
「玄蕃だけならな」
景綱の目が白瀬川の向こうを見る。
「向こうにも家臣がおる。民がおる。倒れた者の家族がおる」
宗兵衛も頷く。
「そしてこちらにも、すでに傷ついた者がおります」
むすびは唇を噛んだ。
「真犯人、見つければいいじゃん」
「それまで待てぬ者もいる」
「でも……」
「姫様」
宗兵衛が静かに言った。
「戦とは、一度始まれば真実だけでは止まりませぬ」
以前より、その言葉が重く分かる。
むすびは悔しかった。
真実がある。
悪いのは藤代でも久瀬でもない。
なのに。
それでも戦う。
「そんなのおかしいよ……」
――私も、そう思います。
結の声。
むすびは胸を押さえる。
その時。
一人の捕虜が連れてこられた。
藤代領内で見つかった男。
久瀬の者ではない。
荷駄隊を襲った一団と同じ印を持っていた。
問い詰めると。
男は、山間を行き来する商人の一団に雇われていた。
その商人たちは近隣の小領主の家臣とも結びつき、藤代と久瀬が争えば、街道と塩や米の商いを自分たちで握れると考えていたという。
両家の往来が途絶えれば、品の値もつり上げられる。
そのために、昔から続いてきた藤代と久瀬の信頼を壊そうと、輸送の途中で食料へ細工をした。
誰が最後に命じたのかまでは、まだ分からない。
だが少なくとも。
藤代でも、久瀬でもなかった。
「ほら!」
むすびが叫ぶ。
「やっぱり!」
そこへ、別の知らせ。
「殿!」
兵が駆け込む。
「久瀬方の鬼塚弥九郎が、こちらへ決闘を求めております!」
「何?」
「藤代が卑怯な毒を使ったと!」
むすびの顔が曇る。
「証拠あるのに……」
宗兵衛が眉を寄せる。
「捕らえた男の話では、輸送路に別の者がいたという報せは、久瀬方にも届いていたようにございます」
「じゃあ弥九郎は……知ってたの?」
「少なくとも、藤代だけを疑うべきではないと気づく機会はあったのでしょう。それでも戦を煽った」
「なんで……」
「戦になれば得をする者は、外だけとは限りませぬ」
むすびの拳が震えた。
「最低」
――でも、全員ではありません。
結の声。
むすびはハッとする。
そうだ。
弥九郎だけを見て、久瀬全部を悪いと思ってはいけない。
玄蕃も。
朔太郎も。
飢えた人たちも。
「真犯人を捕まえてからじゃ……間に合わない」
むすびが呟く。
宗兵衛が見る。
「何と?」
「まず、死なせちゃだめなんだ」
まだ方法は分からない。
でも。
何を優先するかは分かった。
犯人探しより先に。
戦を止める。
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『おむすび姫 ―時をむすぶ、ひとつのおむすび―』




