第17話 むすび、戻ってきてくれたの?
『おむすび姫 ―時をむすぶ、ひとつのおむすび―』
第17話 むすび、戻ってきてくれたの?
小競り合いはいったん収まっていた。
両軍は白瀬川を挟み、互いに睨み合っている。
藤代側の簡素な陣。
むすびは宗兵衛に連れられ、景綱のもとへ向かった。
「父上!」
景綱が振り返る。
「結!」
むすびが戻ってきたことに驚いたのか。
それとも、また性格が変わったことに気づいたのか。
景綱の顔が複雑に歪む。
「おぬし……」
「話はあと! どうなってるの!」
「やはり戻ったか」
「何が」
「騒がしい方が」
「ひどい!」
宗兵衛が小さく笑う。
この状況でも。
ほんの少しだけ空気が和らいだ。
だが。
地面に寝かされた負傷兵を見た瞬間、笑いは消えた。
肩に矢。
腕を斬られた者。
まだ死者は多くない。
でも。
このままなら。
「止めなきゃ」
むすびが呟く。
胸の中で結が答える。
――はい。
二人がはっきり会話できる。
それ自体が不思議なのに。
今は驚いている暇がない。
「結ちゃん」
――はい。
「私が喋ってる時、結ちゃんは見えてるの?」
――見えています。聞こえています。
「身体は?」
――今は、むすびが動かしています。
「じゃあ……結ちゃんが動かすこともできる?」
少し間。
――分かりません。
「そっか」
「結?」
景綱が怪訝な顔をする。
「さっきから誰と話しておる」
「……友達」
「どこにいる」
「私の中」
景綱の顔が凍る。
「医師を呼べ」
「だから違うって!」
「今度こそ呼ぶ!」
「今それどころじゃない!」
宗兵衛が景綱を止める。
「殿。姫様の様子については後ほど」
景綱が渋々うなずいた。
「久瀬は?」
むすびが聞く。
「川向こうに陣を置いた」
「玄蕃さんは?」
「来ている」
「話せる?」
「使者は送った」
景綱が苦い顔をする。
「こちらが毒を盛っていない証も、一部見つかった」
「じゃあ!」
「だが向こうの若い者が斬られた。こちらにも怪我人が出た」
むすびの言葉が止まる。
「一度血が流れると、話は変わる」
景綱の声。
宗兵衛が以前言っていたことと同じ。
真実だけでは止まらない。
むすびは拳を握る。
――むすび。
結の声。
――私、玄蕃様を知っています。
「え?」
――幼い頃、父上と一緒に深守谷へ何度も。
記憶が流れ込む。
夏祭り。
笑う玄蕃。
若い景綱。
小さな結へ木の実をくれる男。
『結姫、大きゅうなったな』
優しい顔。
むすびの目から涙が落ちる。
「敵じゃない……」
景綱が見る。
「何?」
「玄蕃さん、結ちゃんに優しかったんでしょ?」
景綱の顔が変わる。
「……覚えておるのか」
「結ちゃんが覚えてる」
「またその名を」
「説明はあと!」
むすびは立ち上がる。
「本当に仲良かった人なら、絶対まだ止められる」
胸の中で結が答える。
――止めたいです。
「うん」
――怖いけど。
「私も」
むすびは白瀬川の向こうを見る。
久瀬の旗。
飢えた兵たち。
「絶対、何かある」
まだ答えは分からない。
でも。
二人で探す。
それだけは決めた。
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『おむすび姫 ―時をむすぶ、ひとつのおむすび―』




