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第15話 あのおじさんを探せ

『おむすび姫 ―時をむすぶ、ひとつのおむすび―』

第15話 あのおじさんを探せ


店の前。


いない。


むすびは辺りを見回した。


自動販売機。

壁際。

ベンチ。


昨日、男が座っていた場所。


何もない。


「おじさん……」


店の中から百合が顔を出した。


「むすび? 何してるの」


「ゆりちゃん、昨日のおじさん見なかった?」


「昨日のおじさん?」


「店の前にいた人!」


百合が眉を寄せる。


「ホームレスっぽい人?」


「そう!」


「今日は見てないけど」


むすびの肩が落ちる。


「どこ行ったんだろ……」


「何かあったの?」


「ちょっと……探さないといけなくて」


「なんで?」


むすびは答えられない。


言っても信じてもらえない。


『戦国時代で戦争が始まりそうだから、タイムスリップするためにホームレスのおじさんを探してる』


自分で言っても頭がおかしい。


「ごめん、ちょっと行ってくる!」


「むすび!」


百合の声を背に、むすびは走った。


商店街。


駅前。


公園。


河川敷。


コンビニの裏。


見つからない。


スマートフォンで時間を見る。


十七時四十二分。


「お願い……」


足が痛い。


息が切れる。


でも止まれない。


「どこにいるの!」


河川敷のベンチ。


誰もいない。


空が赤くなる。


過去の夕方も、同じくらい進んでいるのだろうか。


結はどうしている?


怖がっている?


「ごめん……」


むすびは泣きそうになる。


「戻るって言ったわけじゃないけど……でも、ごめん」


また走る。


*


夜。


店へ戻ると、百合が腕を組んで待っていた。


「遅い」


「ごめんなさい」


「連絡くらいして」


「ほんとにごめん」


むすびが素直すぎるせいで、百合の怒りが少し弱まった。


一代が心配そうに覗く。


「誰探しとるん?」


「昨日のおじさん」


「何で?」


むすびは口を開きかけた。


そして。


「……大事なもの、返してもらわないといけないの」


嘘。


でも全部嘘でもない。


時間。


結のところへ戻るためのもの。


「明日も探すの?」


百合が聞く。


「うん」


「学校は?」


「行く」


「ちゃんと?」


「行く」


百合はむすびをじっと見た。


「危ないことしないで」


「……うん」


その夜。


かんざしを枕元へ置く。


何度触っても冷たい。


「力、なくなっちゃったのかな」


目を閉じる。


過去の結。


宗兵衛。


景綱。


志乃。


朔太郎。


みんなの顔が浮かぶ。


眠れない。


*


翌日。


学校が終わるとすぐに探した。


またいない。


三日目。


まだいない。


むすびの焦りは限界に近づいていた。


もし過去でも三日経っていたら。


戦は。


誰かは。


「嫌だ……」


その日は雨が少し降った。


現代では、ただの小雨。


むすびは傘もささずに歩いた。


「おじさん!」


公園。


いない。


駅の高架下。


いない。


古い商店街の裏道。


「おじさん!」


返事なし。


足元の水たまりを踏む。


制服の靴下まで濡れている。


「お願いだから……!」


角を曲がる。


その時。


古い建物の軒下。


誰かが座っていた。


ボロボロの上着。


伸びた髪。


むすびの心臓が跳ねた。


「……おじさん?」


男が顔を上げる。


あの人。


「嬢ちゃん?」


むすびは駆け出した。


「おじさん!」


「何だよ、びしょ濡れじゃねえか」


「探した!」


「俺を?」


「ずっと!」


男が目を丸くする。


むすびは鞄からかんざしを取り出した。


「これ!」


男の表情が変わる。


「このかんざしのこと教えて!」


「……何で」


「お願い!」


むすびは泣いていた。


「戻らなきゃいけないの!」


男は理解できない顔をする。


「どこへだ」


むすびは答えた。


「昔!」


「……は?」


当然の反応。


でも、もう構っていられない。


「信じなくていい! でも触って!」


「何を」


「かんざし!」


むすびは男の手を取る。


「お願い! 一回だけ!」


男は困惑した。


「嬢ちゃん、ほんとにどうした」


「人が死んじゃう!」


声が裏返った。


「私が戻らないと……戦が始まっちゃうの!」


雨音。


二人の間に沈黙。


男はしばらくむすびを見ていた。


そして。


「……変な嬢ちゃんだな」


ゆっくり手を伸ばす。


「俺が触りゃいいのか」


むすびが何度もうなずく。


男の指が。


古びたかんざしへ触れた。


その瞬間。


かんざしが。


熱を持った。


むすびの目が大きく開く。


「……これだ」


結び目の模様が。


光った。


---


『おむすび姫 ―時をむすぶ、ひとつのおむすび―』


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