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「毒にも薬にもならない女」と追放された伯爵令嬢は、王宮の毒殺事件を解き明かして、私を捨てた婚約者と義妹に薬指を突きつける  作者: kaka


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第16話 王子を殺させる毒を私はもう一度飲ませる

「――第四段階、開始」


その声が消えた瞬間。


私は目を開けた。


「……っ」


冷たい床。


礼拝堂の石畳。


頭が痛い。


けれど。


それ以上に。


嫌な予感がした。


「リディア」


「ええ」


彼女はすぐそばにいた。


「どうしましたの?」


「ジェラルド殿下」


私は立ち上がった。


「血を吐いた」


「……!」


セバスも顔を上げる。


「まさか」


「私が見た記憶が本当なら、あれは七年前と同じです」


「同じ?」


「身体の中で毒を作る薬」


私は息を整えた。


「そして、今のジェラルド殿下には、それが入っている」


「では――」


「急がないと死ぬ」


リディアが私を見る。


「王宮へ戻るのですか?」


私は一瞬だけ迷った。


王宮に戻れば捕まる。


私はすでに追放された身。


父殺しの疑い。


王子暗殺未遂の疑い。


そして。


七年前の記憶。


全部が私を犯人に仕立てる材料になる。


それでも。


「行く」


私は答えた。


「私は薬師だから」


リディアが微笑む。


「そう言うと思いましたわ」


「……怖くないの?」


「怖いですわ」


彼女は剣を抜いた。


「でも、あなた一人で行かせるほうが怖い」


セバスが地図を畳む。


「では、王宮地下から侵入します」


「待って」


私は首を振った。


「正面から行きましょう」


「正面?」


「ええ」


私は王宮を見た。


「今の私は、追放された毒婦」


「……」


「だからこそ」


私は笑った。


「堂々と行けば、向こうが困る」


王宮正門。


そこには、すでに兵士が並んでいた。


私たちが近づくと。


剣が一斉に向けられる。


「止まれ!」


「私は――」


「アーシェラ・ヴィント!」


兵士の声が響く。


「王子暗殺未遂の容疑で――」


「違います」


私は遮った。


「ジェラルド殿下の治療に来ました」


兵士たちがざわめく。


「治療?」


「殿下は今、毒に侵されています」


「なぜ知っている!」


「さっき血を吐いたでしょう?」


兵士が固まった。


図星だった。


私は一歩進む。


「時間がありません」


「しかし、お前は――」


「私が犯人なら」


私は兵士を見つめた。


「なぜ、殿下を治しに来るの?」


誰も答えない。


その隙に。


リディアが一歩前へ出た。


「通しなさい」


「オルスタッド公爵令嬢……」


「私は次期王妃です」


その言葉に。


兵士たちが顔を見合わせる。


「未来の王妃をここで止めるつもり?」


「……」


「それとも」


リディアは微笑んだ。


「殿下が死んだほうが都合のよい方でもいらっしゃいますの?」


空気が変わった。


兵士たちが道を開ける。


私たちは王宮へ入った。


廊下を走る。


侍女。


文官。


騎士。


誰もが私を見る。


「追放された令嬢……」


「毒殺犯じゃなかったの?」


「王子を治療するって……」


聞こえてくる声。


けれど。


今はどうでもいい。


私は治療室へ飛び込んだ。


「ジェラルド殿下!」


ベッドの上。


ジェラルドが苦しそうに息をしていた。


唇が紫色。


指先が震えている。


床には。


大量の血。


私はすぐに《組成視》を使った。


「……やっぱり」


「何が分かりました?」


リディアが聞く。


「七年前と同じ薬」


「では、同じ方法で?」


「違う」


私は首を振った。


「今回は量が多すぎる」


ジェラルドの身体の中。


血液に混ざった成分が。


急速に変化している。


黒い粒子。


それが。


肺。


肝臓。


心臓へ広がっている。


「このままだと、心臓が止まる」


宮廷薬師が駆け寄ってきた。


「ならば解毒剤を!」


「あなたたちの解毒剤では無理です」


「なぜだ!」


「毒の種類が違うから」


「何を言って――」


「毒じゃない」


私は薬師を睨んだ。


「これは、毒を作る薬です」


部屋が静かになった。


「……毒を、作る?」


「ええ」


私は薬瓶を並べる。


「この薬自体には致死量の毒は入っていない」


「では、なぜ?」


「殿下の身体の中にある別の成分と反応して、毒になる」


私は一つの瓶を取った。


「だから、普通の解毒剤では間に合わない」


「では、どうする?」


私はジェラルドを見る。


「七年前と同じ方法を使います」


その瞬間。


ジェラルドの目が開いた。


「……アー……シェラ……?」


私は息を呑んだ。


「殿下」


「……逃げろ」


掠れた声。


「何?」


「ここから……逃げろ」


「何を言っているの?」


「君が……殺される」


私はベッドのそばに近づいた。


「私が?」


「七年前も……そうだった」


「七年前?」


ジェラルドの瞳が揺れる。


「僕は……君に……」


「薬を作ってもらった」


「……」


「そうでしょう?」


ジェラルドは目を閉じた。


そして。


小さく頷いた。


「僕は……君に助けてもらった」


胸が痛んだ。


「なのに、どうして私はそれを忘れているの?」


「……」


「殿下」


「僕が……忘れさせた」


「え?」


ジェラルドは苦しそうに笑った。


「いや」


「……」


「僕じゃない」


その瞬間。


ジェラルドの指が、私の手を掴んだ。


「父上だ」


「……父上?」


「君の父親が……君の記憶を消した」


私は言葉を失った。


「なぜ?」


「君が……見てしまったから」


「何を?」


ジェラルドの呼吸が乱れる。


「僕の中に入っていた薬を」


「それだけ?」


「違う」


彼は私を見る。


「その薬を……僕に飲ませた人間を」


私は息を呑んだ。


「誰?」


ジェラルドの口が動く。


「……僕の父だ」


部屋の空気が凍った。


「国王陛下……?」


ジェラルドは頷いた。


「父上が……僕に薬を飲ませた」


「なぜ?」


「僕を……王にするため」


理解が追いつかない。


「どういうこと?」


「兄上が死んだ」


「……」


「僕だけが残れば……次の王は僕になる」


第一王子レオンハルト。


第二王子ジェラルド。


そして。


王位継承。


「でも、国王陛下が自分の息子に毒を?」


「毒じゃない」


ジェラルドが苦しそうに笑った。


「僕は……あの薬がないと、生きられない身体にされた」


私は目を見開いた。


「依存……」


「そう」


だから。


彼は薬を飲み続けていた。


だから。


私が第13話で見た黒い蛇の痣も。


あの青い薬も。


全部。


「では、殿下を操っていたのは……」


ジェラルドは答えなかった。


ただ。


「アーシェラ」


私を見る。


「僕を殺してくれ」


「……何を?」


「この薬を……全部消してくれ」


私は首を振った。


「殺す必要なんてない」


「でも――」


「七年前もそうしたでしょう」


私は薬瓶を持ち上げた。


「私は、あなたを救った」


「……」


「だったら今回も救う」


私は薬を調合し始めた。


一つ。


二つ。


三つ。


薬師たちが息を呑む。


「何をしている?」


「解毒剤を作っています」


「そんな短時間で――」


「できます」


私は答えた。


《組成視》を使う。


ジェラルドの血液。


薬の成分。


毒に変わる前の物質。


一つずつ見ていく。


七年前。


私は子供だった。


それでも。


できた。


なら。


今の私にできないはずがない。


「……これ」


私は一本の薬草を取った。


「ヴィント家の秘薬」


「それは、失われた処方では?」


「父上が残してくれた」


私は薬を煎じる。


そして。


最後に。


自分の血を一滴だけ落とした。


「アーシェラ様!」


リディアが叫ぶ。


「大丈夫です」


「でも!」


「この薬は、私の《組成視》がないと完成しない」


私はジェラルドに瓶を差し出す。


「飲んで」


ジェラルドは私を見る。


「……怖くないの?」


「怖いわ」


「僕は、君を追放した」


「知ってる」


「君を毒婦と呼んだ」


「知ってる」


「君を殺そうとした」


「それも知ってる」


私は少しだけ笑った。


「でも」


瓶を彼の口元へ運ぶ。


「それでも私は薬師だから」


ジェラルドが薬を飲んだ。


数秒。


何も起きない。


十秒。


二十秒。


そして。


黒い痣が。


ゆっくり薄くなった。


「……!」


宮廷薬師が息を呑む。


「消えている……」


ジェラルドの呼吸が落ち着いていく。


血も止まった。


私はようやく息を吐いた。


「……成功」


その瞬間。


ジェラルドが私の手を握った。


「ありがとう」


私は驚いた。


「殿下?」


「七年前も……君は、そう言った」


「何を?」


ジェラルドは微笑んだ。


「『大丈夫。私が治します』って」


胸の奥が痛んだ。


忘れていた。


でも。


確かに。


私はこの人を救った。


その時。


治療室の扉が開いた。


全員が振り返る。


立っていたのは。


国王だった。


「……ジェラルド」


「父上」


国王の視線が。


私へ移る。


そして。


私が持っている薬瓶を見る。


顔色が変わった。


「その薬を……どこで手に入れた」


私は答えた。


「父が残した処方です」


国王の顔から。


血の気が引いた。


「そうか」


低い声。


「ハンスは……最後まで、私に逆らったか」


私は目を細めた。


「陛下」


「何だ」


「一つ、教えてください」


私は国王を見据えた。


「なぜ、七年前から私の記憶を消したのですか?」


国王は黙った。


そして。


ゆっくりと。


私に近づいた。


「それは――」


その時。


窓ガラスが砕けた。


一本の矢が飛び込んでくる。


国王の胸へ。


「陛下!」


ジェラルドが叫ぶ。


私は反射的に手を伸ばした。


矢が。


国王の胸に突き刺さる。


倒れる国王。


床に広がる血。


そして。


矢に結びつけられた一枚の紙。


私は拾い上げた。


そこには。


たった一行。


『王子を救った薬師へ』


『次は、あなたの番です』


私は紙を握り潰した。


けれど。


その裏側を見た瞬間。


息が止まった。


そこには。


私自身の筆跡で。


こう書かれていた。


『七年前の事件の犯人は、私』


――私は、自分自身から告発されていた。

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