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順当なヒトシの勝利で試合が終わった。
気絶したミツオはボクシング部の顧問に抱きかかえられ、保健室に運ばれた。
集まった観客たちは、試合が終わるといっせいに体育館を出ていく。無責任なもので、興味がなくなるとさっさと家に帰るのだ。
あたしはシホと一緒にミツオを追いかけ、保健室にいった。
あたしたちが保健室に到着すると、ボクシング部の顧問は、保健の先生を呼んでくるといって、ミツオの看病をまかせてきた。
土曜日のしずかな保健室。気をうしなったままベッドで横たわるミツオ。そのまわりには、なにもできることがなく、ただただ立っているあたしとシホ。誰もしゃべらない無口な三人だけの保健室は、夏の音と静寂だけが響いていた。
それからどれくらいの時間がたっただろうか。
ふいに保健室のドアが開いた。
保健の先生がきたのかな――そう思い、ドアの方を振り向いた。
しかし。
保健室に入ってきたのは、保健の先生でもボクシング部の顧問でもなかった。
その場にひとりやってきたのは。
「ヒトシ」
思わずあたしとシホの声が、はずかしいほどハモってしまった。
ミツオとの試合を終えたヒトシは、帰りじたくをすませてジャージ姿になっていた。もうヘッドギアも10オンスのグローブもつけていない。
わざとらしくシホがいう。
「保健の先生遅いなあ。あたし、ちょっと見てくる」
ヒトシと入れ代わりにそそくさと保健室を出ていく。
「ふっ……」
ヒトシはそんなシホのうしろ姿を見て鼻で笑った。
「おつかれ」
あたしはほかにどうすることもできず、試合を終えたモトカレに声をかけた。
「ああ」
ヒトシもほかにどうすることもできず、ただ短く返事をする。しずかな保健室で向かいあう、あたしとヒトシ。そして横ではベッドのうえで眠ったままのミツオ。先ほどの三人よりもよほど気まずい。
ふいにヒトシが口を開いた。
「メッセージ見てくれたか」
ひどくたどたどしい台詞に、あたしは黙って、こくりとうなずく。
「それでな……」
ヒトシはおだやかに口を開く。
「おれ、今日の試合が終わったら、ふたばにもう一度ちゃんと告白して、答えをきこうと思っていたんだ。振られた理由もちゃんと聞きたかったしな」
「うん」
あたしはそれだけしかいえない。
「けど……」
ヒトシは視線をあたしからベッドのうえのミツオにうつした。
「ふたばの気持ちは、もうおれにはないんだな。理由とか、そういうんじゃなくてさ」
あたしのなかではっきりとした答えなんて出ていない。たしかにミツオを応援している自分もいたが、それがいったいどんな気持ちでの応援だったのか、じつはよくわかっていない。昨日ひと晩考えた結論だって、やはりどうどうめぐりで、ひとつもかたちになんてなってはいなかった。
ヒトシは続ける。
「試合中に声がきこえたよ。第三ラウンドのダウンをとる直前。おまえはおれじゃなくて、こいつのことを応援していた。シホからは、おまえはこいつのことを好きなわけじゃないって聞いていたけど、そんなことないじゃん」
あたしはナチュラルにおどろいていた。
「あの大歓声のなかで、あたしの声がリングまで聞こえていたんだ」
「バーカ」
ヒトシは鼻で笑う。
「ボクサーっていうのはな。好きなやつの声は、どんなにうるさくても、どんなに集中していても、リングに届くんだよ」
ヒトシの言葉はひどくおだやかだ。




