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 立ちあがってからもミツオはさらに突進する。

 ヒトシはなおも冷静に足をつかう試合運び。

 スタイルこそ正反対で違うが、ふたりともすさまじい集中力をしている。遠くから見ているだけでも、ふたりの気迫がびしびし伝わってくる。

「すごいね……」

 いつのまにか近くにきていたシホが声をかけてきた。

 あたしは返事もできずに、ふたりの試合をただただ見ていた。

 二分間のうち、すでに半分が経過している。

 0‐9のスコアはどう考えたってひっくり返らない。

 ミツオが勝つには奇跡のナックアウトしか残っていない。

 きっとそのことは、ミツオ自身もよくわかっているのだろう。わかっているが、どうしようもない。そんな雰囲気。身体がまるでついていっていない。全身汗だくでふらふらになりながら、大振りのパンチをくり返すしかもうできない。

 瞬間、ヒトシのストレートがヘッドギアごしにミツオのこめかみにクリーンヒットした。

「わあああああっ!」

 体育館からは大歓声。

 脳を揺らされ、ミツオのひざが笑って揺れる。

 倒れれば10カウントで起きあがれないだろうということは、火を見るよりも明らかだった。それほどにミツオは消耗している。奇跡のナックアウト勝ちもふらふらのミツオが相手では、奇跡でもなんでもなく必然だ。あたしは胸が高鳴った。このままミツオに負けてほしくない。そんな複雑な心のなかの想いよりも先に、あたしは大声を出していた。

「ミツオーっ」

 あたしの精いっぱいの大声は、大歓声のなかでは野次のひとつぶんより、ずっと小さなものだったかもしれない。まわりの騒音にほとんどかき消されてしまう。

 だが、あたしは叫ばずにはいられなかった。

「あんたヒトシに勝って、あたしとつきあうんでしょ」

 そのときだ。

 倒れかけたミツオがぐっと足を踏んばった。

 うしろに大きくかたむいたまま、その場に強く踏みとどまる。

 そして。

「おおおおおおっ……」

 ミツオは叫んだ。

 叫んじゃいけないのに叫んだ。

 かたむいた身体のまま、右腕をおもいきりうしろに引く。

 動きのとまっているヒトシのあごに向け、力を振りしぼり、渾身のストレートを放つ。

 体育館からすべてのノイズが消えた。

 観客たちが息を飲む。

 そして。

 決まった。

 ミツオのストレートではなく、ヒトシのカウンターが。

 冷静に対処したヒトシはミツオの大振りストレートに対し、ぴたりとあわせたカウンターを入れた。

 ふたたび激しく乾いた音。

 ミツオの口からマウスピースが飛び出して、宙にきれいな弧を描く。

 ミツオの身体がリングに崩れ、その場で小さくバウンドする。

 二度目のミツオのダウンだ。

 レフェリーが10カウントをかぞえる。

 あっけない十秒間。

 おそらくすでに気をうしなっているのだろう。カウントのさいちゅう、ミツオは起きあがる気配も見せなかった。

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