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「あんたもちゃんとわかってるじゃん。あいつが始めのころみたいに、ただちゃらちゃらしてるわけじゃないってことが」
照れくさいが、その部分だけは認めないわけにはいかなかった。
そんなものは、毎日ミツオを見ていれば、いちいちシホにいわれなくてもわかる。なんというか、今のミツオの巨大な目には、以前のようににごりがない。毎日の学校生活では、へらへらしたりキレることもあるけれど、芯に一本、揺れない決意を持っているって感じがする。ただ、その揺れない決意の意味にあたしは気づかない振りをしているし、気づいたところでそんなものはどうしようもない。別れたあとのヒトシとの関係もあいまいにしたまま、ミツオの想いにもまともにこたえず、あたしはただ逃げてばかりいるだけだ。
どんな方向にしろ真剣に生きるまぶしいふたりと、ひとつもはっきりさせないあたし。
どちらかといえば、今のあたしのほうが、ずっとふらふらしてると自分でも思う。
「ミツオはまじめにボクシングで決着をつけたくて、階級を変えたくなかったんだよ。初心者が身体をしぼったり、筋肉量を増やしたりすると、体重ってすぐに変わっちゃうんでしょ。それなのに身体を鍛えながら五十四キロから五十七キロのフェザー級をキープしてきた。口ではへらへらしたり、ちゃらちゃらしたこともいうけれど、なみたいていの努力じゃなかったはずだよ。あのヤンキーモンキー」
シホの言葉で、マックでのミツオとの会話を思い出す。ミツオはあのとき、なにかをいいかけていた。始めからヒトシとの練習試合を想定していたのかもしれない。
「どっちにしても、あとはあんたしだい。そういうところまできてるんだよ。ミツオもヒトシもさ。あのヤンキーモンキーは不純な動機でボクシングを始めたけれど、今はそんなことまるっきり忘れてると思う。脳みそがバカっていうのもあるけど、ボクシングをする目的がほんの少し変わってきてるのかな。きっとあいつ、ヒトシに勝ってあんたにただ認められたいんだと思う。ヒトシにしても、たぶん同じようなことだよ。あんたのまわりをちょろちょろするミツオに勝って、胸を張ってあんたのまえにまた立ちたい。ふたりとも、恋する資格がほしいっていうかさ」
恋に資格か。
あたしはなにも答えられずに黙っていた。
いいたいことだけいうと、シホは体育館から離れるように歩き出す。
「まあ。そんな話を急にしたって、頭の方は理解できても、心の方がひとつも納得できないでしょ。いつまでも練習のぞいてミツオの気を散らしちゃっても悪いし、さっさと帰るよ」
あたしもシホのうしろに続き体育館をあとにした。
青い空に蒸れたにおい。どこかの樹木のどこかの枝では、気の早いセミたちが、季節がすでに変わったことを告げていた。
そしてあっさり、二週間が経過した。




