19
開始と同時にミツオは対戦相手に突進していく。
まずはようす見が基本なのに、そんなことはおかいまいなしだ。
ミツオのでたらめなボクシングスタイルに、対戦相手の一年生はおどろいたようす。
もっともむりはない。こいつのは、ボクシングというよりも、ほとんどケンカのスタイルに近い。あわてて左のジャブを伸ばすが、そんなものはミツオの腕のガードがはじく。
「あああああっ!」
ミツオは吠えた。
吠えちゃいかんのに、吠えた。
レフェリーの注意が入りそうになる。
が。
それよりもはやくミツオは行動に出た。
対戦相手の股のあいだに足が入るほど、おもいきり踏みこんだ。
そして大振りぎみの右ストレートを放つ。
おそらく相手はよほどの初心者だったんだろう。びびりまくってフリーズしている。
ミツオのストレートが顔面にきれいに決まる。
ぴんぽーん。
ひじょうにまの抜けた電子音が体育館に響く。
ミツオに1ポイントが加算された。
同時に。
対戦相手の一年生は、そのままうしろに倒れた。
レフェリーには、ミツオへの注意より先にカウントをとる義務が生じた。
「1……2……3……」
一年生は起きあがらない。
意識ははっきりしているようだが、おそらく気持ちを折られてしまったのだろう。初心者の初試合にはありがちなことだ。
「……8……9……10」
あっさりと10カウントが終わり試合は終了。
とんでもない。
競技ボクシングの試合でのナックアウト勝ち。
あっけなく、そしてなんともでたらめな試合だった。
「あーあ。勝っちゃったねえ、ふたば」
集中して試合を見ていたあたしにシホがいう。
「ほえ?」
わけがわからず、あたしはまぬけな声を出す。
「あんた忘れたの? あのヤンキーモンキーが勝ったら、デートするって約束」
「あ……」
そうだ。
なまじボクシングを知っているぶん、試合に入りこみすぎて、肝心なことを忘れていた。
そういえばあたし、そんな約束をしていたんだ。




