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 それからさらに数日たって、違う雨の金曜日。

 授業のあいまの休み時間にミツオがあたしの席にきた。

「あのねえ、ふたばあ……」

 またいつもの、よた話か。あたしはひとまず無視をする。こいつの声は、ざわざわうるさい教室のノイズのひとつだ。ミツオはめげずにしゃべり続ける。

「おれ、初試合決まったんだよ。練習試合だけど」

「はあ?」

 おどろきすぎて思わず返事をしてしまう。

「だってあんた、まだボクシングはじめてひと月足らずでしょ」

「それがねえ」

 ミツオは終始にこにこ顔だ。

「なんか筋がいいんだって、おれ。今までケンカで鍛えてきたのがよかったみたい」

 こいつはあいかわらず、うれしそうに血なまぐさいことをいう。あきれていった。

「っていうか、そもそもなんで、そんなことをいちいちあたしに報告する?」

 ミツオはなおもにこにこ顔であたしにいう。

「試合見にきて」

「はあ?」

 あたしが悲鳴の声をあげるころ、シホも近くに到着していた。

「なんで?」

 あたしの代わりにシホがつっこむ。

「いや、いちおう始めての試合だから」

 なんの理由にもなっていないが、ミツオはキレずにふつうに答えた。公園での口ゲンカの日から、ミツオはシホにもあまりキレない。

「なるほどね」

 シホもまともに応対する。

「あんたも、まじめに練習してきたからね。好きな子にはその成果を見せたいってわけか」

「うん。そう」

 なんともまあ、はずかしいことをいうふたりだ。

「で、どうするの? ふたば」

 シホまであたしを追いつめる。

「いや、その……」

 あたしがいいよどんでいると、ミツオは急にまじになる。きりっとした大声ではっきりという。

「それで、おれが勝ったらデートしてくれ」

 その声はクラス中に響きわたり、教室のざわつきが一瞬でしずまる。みんなこちらに興味しんしん。

「えーと……」

 あたしはなんと答えればいいのだろうか。流れ的にはイエスかノーかどちらが正解だろう。

「な? いいだろ」

 ミツオはさらにはっきりという。

「おれが勝ったらデートしてくれ」

 こんなはずかしい台詞を大勢の人まえでいわれたときのリアクションの困りようは、いわれた人間にしかわからないと思う。だいいち、そんなうっとうしい台詞を吐くやつじたい、きわめてまれだ。

「たのむ。ふたば」

 ミツオはまっすぐあたしを見つめる。

 ……っていうか、あんた。

 その人格はいったいなんだ?

 甘ったれた声でも、どすのきいたしゃべり方でもない。ひどくまじめな口調である。

 うーんと。

 これは……

 ボクシング効果か?

「あのな、ふたば」

 ミツオはさらにまじめなようすで言葉を続ける。

「おれ、ふたばのことが本気で好……」

 うわあっと。

 待った。

 ちょっとストップ。

 これ以上あたしを追いつめないでくれ。

 ひどくまっすぐあたしを見つめるミツオの口を顔ごと両手でふさいだ。はっきりいって、クラスメートの興味の対象になることにはこれ以上は耐えられない。声をひそめてあわてていった。

「わかった。デートでもなんでもする。だからもう黙りなさい。いい?」

「ふたばあ」

 ミツオはすぐに甘えたみたいな顔になる。しぶしぶだが、あたしはデートをオーケーしてしまったかたちになる。

 なんだかむしょうに泣きたくなった。

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