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「なんだ、てめー」

 ミツオはほぼ同身長のヒトシにすごんでみせる。例の二重人格の怖い方は、すぐに顔をつきあわせる。

 お得意の超至近距離での会話だ。

 どうでもいいけど、男どうしでくちづけるのかと思うほどの近距離で、あたしはちょっとだけ引いた。

「ふたば……」

 超至近距離の目のまえにいるミツオを無視して、ヒトシがあたしに話しかける。

 ミツオの顔をはさんでいたんじゃ、しゃべりづらくないか?

 あたしは返事のしようがなく、どんな顔をしてヒトシに会えばいいのかもわからなかった。視線をそらし、ただただ黙りこんでしまう。

「おい、こら、てめー。なに無視してんだよ」

 ミツオがさらにすごんでみせる。

 が、ヒトシはまるでミツオのことなど眼中にない。

 無視をされたことに腹を立てたらしいミツオがこぶしをにぎった。

 おもいきり腕をうしろに引く。

 殴る体勢。

 身体が大きく外に開いた。

「ふたば。あのさ……」

 ヒトシはあたしをまっすぐ見つめて、ミツオの身体が開いたことによって生まれたスペースに自分の身体をねじこんだ。一歩足をまえに進める。

 こぶしを振りあげたミツオが、ヒトシの肩ではじかれる。よろけて数度たたらを踏む。

「ああん?」

 それでもなんとか足を踏んばりミツオが吠える。

 ヒトシはミツオをまるで無視してあたしのことをまっすぐ見つめる。なにかいいたそうにしているが、あたしはただただ黙りこくる。

 そんなムードを打破したのはシホだった。

「ヒトシ、ひさしぶり」

 シホはたのしげにヒトシに近づく。あたしたち三人のあいだに割って入った。

「お、おう……」

 とつぜんシホから声をかけられて、ヒトシはなんともまぬけな返答をした。どうにもこうにも、すかしきれないっていう感じ。

 あたしは雰囲気にいたたまれなくなり、なにもいわずにみんなの方に背を向ける。うしろをむいて、黙ってその場を去っていく。

「ちょっ……あれ? ふたば」

 わけがわからないといったようすで、シホが背中で呼びかける。

 あたしはうしろを振り向かず、歩き出した足もとめない。黙ってすたすた歩いていく。

 はるか後方からシホのあわてる声がきこえる。

「ごめん、ヒトシ。また今度。連絡する。じゃあね」

 どうやらヒトシにわかれをつげて、あたしを追ってくるらしい。

「待ってよお。ふたばちゃーん」

 さらに続けて、まぬけ男の声もきこえる。こっちはミツオ。

 おいおい、なんで。

 なんの理由で、こいつまで追ってくるのだ。

 ふたつの違う足音があたしを追って近づいてくる。そんな音があたしの耳にわずかに届いた。

 ヒトシはひとことも発せず、あたしのことを追ってこないようだった。あの日のようにその場にぽつんとたたずんでいるのだろう。そんな雰囲気がありありと伝わった。

 あたしはやはりふり返らずに、すたすた黙って歩き続けた。

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