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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第十章「呪いの目覚め」

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第六話「呪いの核」

夜。



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亀の瀬。



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山の奥から立ち上る黒い光は、空を裂くように伸びていた。



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真之介たちは急いで第一記録庫へ向かう。



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しかし。



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地下へ続く石段は、以前とは姿を変えていた。



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壁一面に、黒い文字が浮かんでいる。



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『立入禁止』



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『記録改変中』



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『第九層 開放』



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真琴が息をのむ。



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「第九層……?」



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「記録庫は八層までしか存在しないはずだ。」



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零が静かに首を振る。



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「違う。」



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「存在しないことにしていただけだ。」



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全員が零を見る。



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「一番下には。」



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「誰にも知られてはならない場所がある。」



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「呪いの核だ。」



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神崎が札を握る。



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「急ぐぞ。」



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石段を降りる。



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一段。



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また一段。



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空気が重くなる。



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呼吸が苦しい。



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咲は耳を押さえ、苦しそうに膝をつく。



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「聞こえる……。」



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「みんな泣いてる……。」



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真之介が支える。



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「無理するな。」



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咲は首を振る。



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「違う。」



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「泣いてるのは人じゃない。」



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「呪いそのもの……。」



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その言葉と同時に。



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最後の石段へたどり着く。



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巨大な扉。



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黒い岩でできたその扉には、ただ一文字だけ刻まれていた。



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『核』



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零がゆっくりと手を伸ばす。



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「この扉は。」



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「藤富家当主しか開けられない。」



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血を一滴、扉へ落とす。



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ゴゴゴゴ……



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重い音とともに扉が開く。



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その先は。



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部屋ではなかった。



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果ての見えない闇。



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そして中央には。



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一本の巨大な黒い樹が立っていた。



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幹には無数の名前。



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枝には木札。



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根は地中深くへ伸びている。



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その一本一本が。



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誰かの人生だった。



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真琴は震える声で呟く。



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「これが……。」



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「呪いの核。」



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その瞬間。



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樹が脈打った。



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ドクン。



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ドクン。



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鼓動のような音。



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真之介の脳裏に、知らない景色が流れ込む。



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炎。



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泣き叫ぶ人々。



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倒れる村。



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そして。



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一人の青年。



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青年は黒い帳面を抱きしめながら叫んでいた。



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「誰も忘れるな!」



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「誰も消えるな!」



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映像はそこで途切れる。



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真之介が膝をつく。



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「今のは……。」



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零は目を閉じた。



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「最初の記録者だ。」



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「呪いは悪意から生まれたのではない。」



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「失いたくないという願いから始まった。」



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その時。



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黒い樹の奥から足音が響く。



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一歩。



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また一歩。



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黒川だった。



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しかし、その表情には余裕がない。



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彼は誰かに命じられるように歩いている。



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「私は……。」



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「ここまで導いただけだ。」



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黒川の後ろ。



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闇が揺れる。



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そこから、ゆっくりと一つの手が伸びた。



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人の手ではない。



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真っ黒な腕。



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指先から黒い文字が滴り落ちる。



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その腕が、黒川の肩へ置かれる。



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「よくやった。」



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低い声が響く。



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黒川は深く頭を下げる。



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「お待たせしました。」



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真之介が刀を構える。



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「姿を見せろ!」



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闇の中の存在は笑った。



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「まだ早い。」



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「お前たちは、私の名前すら知らない。」



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その瞬間。



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黒い樹が激しく脈打つ。



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無数の木札が宙へ舞い上がる。



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そのすべてに。



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同じ文字が浮かび上がった。



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『開花』



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地面が大きく揺れる。



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亀の瀬全体に地鳴りが響き渡る。



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零の顔から血の気が引いた。



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「まずい……。」



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「核が目覚め始めた。」



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「もう封印だけでは止められない。」



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その瞬間。



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黒い樹の幹に、大きな亀裂が走った。



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中から、ゆっくりと何かが動き始める。



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第十章 第六話「呪いの核」 終



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次回「第九の慟哭」


核の中から現れる存在。 それは「第九」の真の姿なのか、それとも黒幕が待ち望んでいた別の存在なのか。第十章はここから、一気にクライマックスへ向かいます。

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