第六話「呪いの核」
夜。
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亀の瀬。
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山の奥から立ち上る黒い光は、空を裂くように伸びていた。
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真之介たちは急いで第一記録庫へ向かう。
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しかし。
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地下へ続く石段は、以前とは姿を変えていた。
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壁一面に、黒い文字が浮かんでいる。
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『立入禁止』
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『記録改変中』
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『第九層 開放』
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真琴が息をのむ。
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「第九層……?」
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「記録庫は八層までしか存在しないはずだ。」
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零が静かに首を振る。
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「違う。」
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「存在しないことにしていただけだ。」
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全員が零を見る。
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「一番下には。」
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「誰にも知られてはならない場所がある。」
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「呪いの核だ。」
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神崎が札を握る。
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「急ぐぞ。」
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石段を降りる。
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一段。
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また一段。
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空気が重くなる。
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呼吸が苦しい。
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咲は耳を押さえ、苦しそうに膝をつく。
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「聞こえる……。」
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「みんな泣いてる……。」
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真之介が支える。
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「無理するな。」
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咲は首を振る。
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「違う。」
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「泣いてるのは人じゃない。」
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「呪いそのもの……。」
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その言葉と同時に。
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最後の石段へたどり着く。
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巨大な扉。
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黒い岩でできたその扉には、ただ一文字だけ刻まれていた。
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『核』
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零がゆっくりと手を伸ばす。
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「この扉は。」
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「藤富家当主しか開けられない。」
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血を一滴、扉へ落とす。
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ゴゴゴゴ……
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重い音とともに扉が開く。
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その先は。
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部屋ではなかった。
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果ての見えない闇。
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そして中央には。
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一本の巨大な黒い樹が立っていた。
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幹には無数の名前。
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枝には木札。
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根は地中深くへ伸びている。
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その一本一本が。
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誰かの人生だった。
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真琴は震える声で呟く。
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「これが……。」
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「呪いの核。」
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その瞬間。
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樹が脈打った。
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ドクン。
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ドクン。
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鼓動のような音。
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真之介の脳裏に、知らない景色が流れ込む。
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炎。
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泣き叫ぶ人々。
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倒れる村。
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そして。
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一人の青年。
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青年は黒い帳面を抱きしめながら叫んでいた。
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「誰も忘れるな!」
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「誰も消えるな!」
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映像はそこで途切れる。
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真之介が膝をつく。
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「今のは……。」
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零は目を閉じた。
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「最初の記録者だ。」
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「呪いは悪意から生まれたのではない。」
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「失いたくないという願いから始まった。」
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その時。
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黒い樹の奥から足音が響く。
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一歩。
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また一歩。
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黒川だった。
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しかし、その表情には余裕がない。
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彼は誰かに命じられるように歩いている。
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「私は……。」
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「ここまで導いただけだ。」
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黒川の後ろ。
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闇が揺れる。
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そこから、ゆっくりと一つの手が伸びた。
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人の手ではない。
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真っ黒な腕。
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指先から黒い文字が滴り落ちる。
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その腕が、黒川の肩へ置かれる。
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「よくやった。」
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低い声が響く。
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黒川は深く頭を下げる。
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「お待たせしました。」
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真之介が刀を構える。
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「姿を見せろ!」
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闇の中の存在は笑った。
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「まだ早い。」
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「お前たちは、私の名前すら知らない。」
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その瞬間。
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黒い樹が激しく脈打つ。
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無数の木札が宙へ舞い上がる。
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そのすべてに。
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同じ文字が浮かび上がった。
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『開花』
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地面が大きく揺れる。
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亀の瀬全体に地鳴りが響き渡る。
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零の顔から血の気が引いた。
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「まずい……。」
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「核が目覚め始めた。」
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「もう封印だけでは止められない。」
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その瞬間。
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黒い樹の幹に、大きな亀裂が走った。
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中から、ゆっくりと何かが動き始める。
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第十章 第六話「呪いの核」 終
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次回「第九の慟哭」
核の中から現れる存在。 それは「第九」の真の姿なのか、それとも黒幕が待ち望んでいた別の存在なのか。第十章はここから、一気にクライマックスへ向かいます。




