第五話「零の罪」
白い閃光が消える。
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集落を包んでいた黒い霧は、ゆっくりと薄れていった。
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集合呪霊は跡形もなく消えている。
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残ったのは。
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無数の木札だけだった。
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一枚一枚に。
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名前が刻まれている。
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真之介は震える手で、一枚を拾った。
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> 「山田 千代 享年十六」
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その木札に触れた瞬間。
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少女の笑い声が聞こえた。
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「ありがとう……」
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木札は風に乗り、静かに空へ舞い上がる。
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咲は涙を流した。
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「成仏したんだ……。」
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しかし。
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神崎颯真だけは、零を睨んでいた。
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「お前は何者だ。」
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零は黒い刀を鞘へ納める。
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「私は。」
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「罪人だ。」
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真之介が前へ出る。
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「教えてくれ。」
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「お前は何を隠している。」
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長い沈黙。
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風だけが吹き抜ける。
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やがて零は、ゆっくりと口を開いた。
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「百年前。」
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「私は、人を救おうとした。」
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「だが。」
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「結果は逆だった。」
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場面が変わる。
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回想――1820年。
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若き日の零。
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疫病が村を襲っていた。
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家族を失い。
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恋人を失い。
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親友を失った。
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村中に響く泣き声。
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その時。
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一冊の黒い帳面が、零の前に現れた。
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表紙には何も書かれていない。
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ただ一つ。
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開かれたページに文字が浮かぶ。
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> 「忘れたくないか。」
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零は答えた。
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「忘れたくない。」
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ページは勝手にめくられる。
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> 「ならば、記録せよ。」
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零は震える手で。
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恋人の名前を書いた。
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その夜。
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恋人は帰ってきた。
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笑っていた。
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話していた。
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以前と何も変わらなかった。
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零は涙を流した。
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「ありがとう……。」
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しかし。
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三日後。
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恋人は家族を襲った。
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村人を襲った。
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そして。
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自ら崩れ落ちた。
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零はその時、知った。
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「あれは。」
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「恋人ではなかった。」
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「記録が作った偽物だった。」
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場面は現在へ戻る。
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真之介たちは誰も言葉を発せない。
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零は空を見上げる。
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「私は。」
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「二度と同じ悲劇を繰り返さないため。」
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「黒帳を封じた。」
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「第九を封じた。」
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「記録庫を造った。」
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「……だが。」
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「完全には封じ切れなかった。」
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その時だった。
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桐生真琴が青ざめた顔で走ってくる。
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「まずい!」
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「第一記録庫が!」
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「誰かに開かれている!」
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全員が振り向く。
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山の奥。
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黒い光の柱が立ち上る。
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その中心に。
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黒川が立っていた。
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しかし。
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黒川は誰かに向かって膝をついている。
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「準備は整いました。」
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その言葉に応える声。
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「ご苦労。」
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だが。
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姿は見えない。
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霧の中。
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二つの赤い瞳だけが浮かんでいた。
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零の顔色が変わる。
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「まさか……。」
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「封印が……。」
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「本当に破られたのか……。」
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真之介が問いかける。
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「知っているのか!」
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零は小さく呟いた。
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「黒川ではない。」
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「本当の黒幕が。」
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「目を覚ました。」
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遠くで。
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鐘の音が鳴る。
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ゴォォォン……
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それは。
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百年前。
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封印の日に鳴った鐘と。
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全く同じ音だった。
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第十章 第五話
「零の罪」
終
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次回 第六話「呪いの核」
第一記録庫の最深部へ突入
黒幕が初めて姿の一部を現す
黒川が黒幕の駒にすぎなかったことが判明
「呪いの核」との初遭遇




