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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第十章「呪いの目覚め」

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第四話「第二の黒帳」

集落の広場。



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巨大な集合呪霊が、ゆっくりと立ち上がる。



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無数の顔が重なり合い。



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男の声。



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女の声。



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子どもの声。



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老人の声。



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すべてが一つになって響いた。



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「返せ……。」



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「私たちの名前を……。」



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地面が揺れる。



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古びた家々の壁に、次々と黒い文字が浮かび上がる。



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『記録開始』



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『新たな犠牲者を登録します』



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真之介は刀を構える。



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「来るぞ!」



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集合呪霊の腕が伸びる。



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それは腕ではなかった。



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無数の黒い文字が鎖のように絡み合い、人を捕らえようと迫る。



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綾乃が飛び出した。



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「真之介!」



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刀で文字の鎖を斬る。



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しかし。



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斬ったはずの文字は空中で形を変え、再び繋がっていく。



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神崎が札を放つ。



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「下がれ!」



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札が炸裂し、白い光が広がる。



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怪異は数歩後退した。



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だが。



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消えない。



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真琴が息をのむ。



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「封印術が効き切らない……。」



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「この怪異は、第二黒帳の力で維持されている。」



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その瞬間。



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拍手が聞こえた。



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「素晴らしい。」



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黒川だった。



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集落の鳥居の上に立ち、静かに二人を見下ろしている。



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「これが第二黒帳の力だ。」



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「記録を書くだけではない。」



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「忘れられた記録に、新たな命を与える。」



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真之介が怒鳴る。



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「こんなものが命だと言うのか!」



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黒川は首を横に振る。



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「違う。」



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「これは救済だ。」



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「誰にも思い出されず消えるより、怪異としてでも存在し続ける方が幸せだ。」



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咲が涙を流す。



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「違う……。」



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「この人たちは苦しんでる。」



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「ずっと助けを求めてる!」



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黒川の目が細くなる。



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「なら、助けてみせろ。」



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第二黒帳を開く。



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ページに新しい文字が刻まれる。



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『集合呪霊 第二段階』



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その瞬間。



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怪異の体が膨れ上がる。



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無数の顔が苦しそうに叫ぶ。



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「殺して……。」



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「終わらせて……。」



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「助けて……。」



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真之介は歯を食いしばる。



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「俺は……。」



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「救う。」



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神崎が真之介の肩を掴む。



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「迷うな!」



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「今は祓わなければ全員死ぬ!」



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真之介は動けない。



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怪異の中には。



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さっきまで笑っていた子どもの顔がある。



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母親の顔がある。



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老人の顔がある。



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「俺には……。」



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その時だった。



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静かな声が響く。



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「なら。」



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「私がやろう。」



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全員が振り向く。



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そこに立っていたのは。



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藤富零。



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彼は黒い刀を静かに抜く。



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「これは。」



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「私が作った罪だ。」



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「だから。」



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「私が終わらせる。」



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零は一歩踏み出す。



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怪異へ向かって。



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黒い刀を振り下ろした。



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集落全体を白い閃光が包み込む。



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そして。



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遠く離れた山頂から。



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あの正体不明の存在が、その光を見つめていた。



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「藤富零……。」



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「まだ、お前はそこまで届かない。」



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その声には。



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黒川すら知らない"敵意"が宿っていた。



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第十章 第四話


「第二の黒帳」




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※ここからは、第5話「零の罪」で藤富零がなぜ黒帳を作る選択をしたのか、そして黒幕の存在をさらに濃く匂わせる展開へ繋がります。

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