第四話「第二の黒帳」
集落の広場。
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巨大な集合呪霊が、ゆっくりと立ち上がる。
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無数の顔が重なり合い。
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男の声。
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女の声。
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子どもの声。
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老人の声。
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すべてが一つになって響いた。
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「返せ……。」
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「私たちの名前を……。」
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地面が揺れる。
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古びた家々の壁に、次々と黒い文字が浮かび上がる。
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『記録開始』
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『新たな犠牲者を登録します』
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真之介は刀を構える。
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「来るぞ!」
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集合呪霊の腕が伸びる。
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それは腕ではなかった。
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無数の黒い文字が鎖のように絡み合い、人を捕らえようと迫る。
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綾乃が飛び出した。
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「真之介!」
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刀で文字の鎖を斬る。
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しかし。
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斬ったはずの文字は空中で形を変え、再び繋がっていく。
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神崎が札を放つ。
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「下がれ!」
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札が炸裂し、白い光が広がる。
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怪異は数歩後退した。
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だが。
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消えない。
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真琴が息をのむ。
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「封印術が効き切らない……。」
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「この怪異は、第二黒帳の力で維持されている。」
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その瞬間。
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拍手が聞こえた。
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「素晴らしい。」
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黒川だった。
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集落の鳥居の上に立ち、静かに二人を見下ろしている。
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「これが第二黒帳の力だ。」
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「記録を書くだけではない。」
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「忘れられた記録に、新たな命を与える。」
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真之介が怒鳴る。
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「こんなものが命だと言うのか!」
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黒川は首を横に振る。
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「違う。」
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「これは救済だ。」
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「誰にも思い出されず消えるより、怪異としてでも存在し続ける方が幸せだ。」
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咲が涙を流す。
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「違う……。」
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「この人たちは苦しんでる。」
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「ずっと助けを求めてる!」
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黒川の目が細くなる。
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「なら、助けてみせろ。」
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第二黒帳を開く。
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ページに新しい文字が刻まれる。
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『集合呪霊 第二段階』
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その瞬間。
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怪異の体が膨れ上がる。
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無数の顔が苦しそうに叫ぶ。
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「殺して……。」
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「終わらせて……。」
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「助けて……。」
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真之介は歯を食いしばる。
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「俺は……。」
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「救う。」
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神崎が真之介の肩を掴む。
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「迷うな!」
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「今は祓わなければ全員死ぬ!」
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真之介は動けない。
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怪異の中には。
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さっきまで笑っていた子どもの顔がある。
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母親の顔がある。
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老人の顔がある。
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「俺には……。」
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その時だった。
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静かな声が響く。
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「なら。」
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「私がやろう。」
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全員が振り向く。
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そこに立っていたのは。
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藤富零。
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彼は黒い刀を静かに抜く。
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「これは。」
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「私が作った罪だ。」
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「だから。」
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「私が終わらせる。」
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零は一歩踏み出す。
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怪異へ向かって。
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黒い刀を振り下ろした。
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集落全体を白い閃光が包み込む。
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そして。
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遠く離れた山頂から。
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あの正体不明の存在が、その光を見つめていた。
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「藤富零……。」
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「まだ、お前はそこまで届かない。」
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その声には。
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黒川すら知らない"敵意"が宿っていた。
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第十章 第四話
「第二の黒帳」
終
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※ここからは、第5話「零の罪」で藤富零がなぜ黒帳を作る選択をしたのか、そして黒幕の存在をさらに濃く匂わせる展開へ繋がります。




