表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亀の瀬異聞録  作者: こうた
第一章:仏生堂の影 ― 生贄の地 ―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/37

第八話 封印の主

門の亀裂から覗く巨大な目。


それは生き物の目ではなかった。



---


人間の目とも違う。



---


獣の目とも違う。



---


例えるなら。



---


「闇そのものが目の形をしている」



---


そんな存在だった。



---


その瞳が庄吉を見つめている。



---


いや。



---


見透かしている。



---


身体ではない。


心の奥まで。


魂の底まで。



---


全てを覗き込まれている感覚。



---


庄吉は刀を構えた。



---


武士として。



---


恐怖に屈する訳にはいかない。



---


だが身体は正直だった。



---


足が震える。



---


額から汗が流れる。



---


本能が理解していた。



---


目の前にいるものは。



---


人間が戦う相手ではない。



---


その時だった。



---


少女――さくらが庄吉の前へ立つ。



---


小さな身体を広げるように。



---


まるで守ろうとするかのように。



---


「見ないで!」



---


彼女が叫ぶ。



---


その瞬間。



---


巨大な目が閉じた。



---


地下神殿の空気がわずかに軽くなる。



---


庄吉はようやく息を吐いた。



---


「今のは……何だ」



---


さくらは震えていた。



---


「名前を知らない」



---


「誰も知らない」



---


「でも」



---


彼女は門を見る。



---


「みんな、あれを神様だと思った」



---


庄吉は眉をひそめる。



---


「神ではない」



---


即座に答えた。



---


さくらも頷く。



---


「うん」



---


「神様じゃない」



---


「でもみんな信じた」



---


「だから始まった」



---


生贄。



---


供物帳。



---


失踪者。



---


全て。



---


庄吉は静かに理解し始めていた。



---


最初から神など存在しなかった。



---


ただ恐怖があった。



---


山崩れ。



---


地震。



---


飢饉。



---


人々は理由を求めた。



---


そして。



---


目の前の存在を神と呼んだ。



---


その時だった。



---


奥の闇から足音が聞こえる。



---


コツ。



---


コツ。



---


コツ。



---


庄吉は振り返る。



---


誰かが歩いてくる。



---


怨霊ではない。



---


足音がある。



---


実体を持っている。



---


やがて暗闇から姿が現れた。



---


男だった。



---


黒い装束。



---


年齢は五十代ほど。



---


顔は青白い。



---


しかし最も異様なのは目だった。



---


瞳が真っ黒だった。



---


白目が存在しない。



---


まるで闇が人間の形を取ったような男。



---


庄吉は刀を向ける。



---


「何者だ」



---


男はゆっくり笑う。



---


「久しぶりだ」



---


庄吉の顔が険しくなる。



---


その言葉は自分に向けられたものではない。



---


もっと別の誰かに向けられている。



---


男は祭壇を見つめる。



---


そして。



---


さくらを見た。



---


「まだ残っていたか」



---


さくらの顔が青ざめる。



---


「来ないで」



---


男は笑う。



---


「何故だ」



---


「お前達は役目を終えた」



---


庄吉が割って入る。



---


「答えろ」



---


「何者だ」



---


男はようやく庄吉を見る。



---


そして。



---


少し驚いたような顔をした。



---


「生きた人間か」



---


まるで珍しいものを見るような口調。



---


男は名乗った。



---


「久世宗景」



---


庄吉は聞き覚えがない。



---


しかし。



---


さくらが震え始める。



---


明らかに知っている反応だった。



---


宗景は微笑む。



---


「安心しろ」



---


「私は敵ではない」



---


庄吉は刀を下ろさない。



---


「信用できるか」



---


宗景は肩をすくめる。



---


「当然だな」



---


そして門へ視線を向けた。



---


「だが」



---


「お前達は勘違いしている」



---


「勘違い?」



---


宗景は頷く。



---


「この封印は人々を守るためのものではない」



---


庄吉の眉が動く。



---


宗景は続けた。



---


「逆だ」



---


「封印は奴を守っている」



---


地下神殿が静まり返る。



---


庄吉は言葉を失った。



---


宗景は門を見上げる。



---


「人間は弱い」



---


「恐怖に耐えられない」



---


「だから神を作る」



---


「そして神に捧げる」



---


その声には感情がなかった。



---


まるで事実を語るだけ。



---


「藤富家もそうだ」



---


「仏生堂もそうだ」



---


「この国もそうだ」



---


庄吉は問い詰める。



---


「お前は何を知っている」



---


宗景は笑う。



---


「全てだ」



---


その瞬間。



---


門の向こうから再び声が響く。



---


> 「宗景」





---


男は振り返る。



---


まるで主に呼ばれた犬のように。



---


> 「時が近い」





---


宗景は静かに頭を下げた。



---


その姿を見て庄吉は悟る。



---


この男は崇拝者だ。



---


信者だ。



---


封印の主に仕える者。



---


宗景は庄吉へ視線を戻す。



---


「武士」



---


「お前は死ぬ」



---


庄吉は睨み返す。



---


「断る」



---


宗景は笑う。



---


「そう言った者を何人も見た」



---


「だが皆、供物帳へ記された」



---


その言葉に庄吉の拳が握られる。



---


宗景は最後に言った。



---


「お前が最初ではない」



---


「そして最後でもない」



---


そう言うと。



---


男の身体が崩れ始めた。



---


砂のように。



---


黒い灰のように。



---


そして。



---


完全に消えた。



---


残ったのは沈黙だけだった。



---


庄吉は門を見る。



---


巨大な亀裂。



---


その奥にいるもの。



---


そして。



---


久世宗景。



---


初めて姿を現した黒幕の一族。



---


この呪いは怪異だけではない。



---


人間が関わっている。



---


それも何百年も前から。



---


その事実が明らかになった時。



---


地下神殿のさらに奥から。



---


別の音が響いた。



---


ガコン。



---


石が動く音。



---


隠された何かが開いた音だった。



---


第九話へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ