第七話 最初の生贄
門の向こうから聞こえた笑い声は、人間のものではなかった。
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低い。
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重い。
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まるで山そのものが笑っているような音だった。
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庄吉は刀を構えたまま動かない。
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地下神殿の空気が変わっている。
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冷たかったはずの空気が、徐々に生暖かくなっていた。
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まるで巨大な生き物が呼吸しているようだった。
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ドン。
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再び門が震える。
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縄が軋む。
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一本。
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また一本。
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封印の縄が切れ始めていた。
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庄吉は門へ近づく。
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黒い石で作られた巨大な門。
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高さは三丈以上ある。
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その表面には無数の文字が刻まれていた。
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最初は模様だと思った。
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だが違う。
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名前だった。
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人名。
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何千。
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何万。
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数え切れないほどの名前が刻まれている。
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庄吉は松明を近づけた。
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するとある名前が目に入る。
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「お春」
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「徳兵衛」
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「与作」
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「千代」
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どれも普通の名前だった。
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だがその中に。
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見覚えのある文字があった。
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権蔵。
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三日前に消えた猟師。
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庄吉の顔色が変わる。
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「まさか……」
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さらに探す。
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村で聞いた失踪者。
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二十年前に消えた女。
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四十年前に行方不明になった男。
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全員いる。
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門に刻まれている。
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庄吉は理解し始める。
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失踪したのではない。
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連れて行かれたのだ。
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ここへ。
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その時だった。
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祭壇の上に何かが現れた。
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白い霧。
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最初は煙のようだった。
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しかし徐々に人の形になる。
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少女だった。
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先ほど消えた少女。
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だが今度は少し違う。
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輪郭がはっきりしている。
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庄吉は警戒した。
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少女は静かに言った。
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「あなたは見えるのね」
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初めて言葉を交わした。
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庄吉は頷く。
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「お前は誰だ」
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少女は少し考える。
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まるで自分の名前を忘れてしまったかのように。
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長い沈黙。
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やがて小さく答えた。
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「……さくら」
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「さくら?」
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少女は頷いた。
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「それが最後に呼ばれた名前」
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庄吉は眉をひそめる。
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最後に呼ばれた名前。
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妙な言い方だった。
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「お前は何者だ」
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少女は祭壇を見つめる。
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そして。
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静かに語り始めた。
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「昔」
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「すごく昔」
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「山が怒ったの」
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庄吉は耳を傾ける。
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「地面が裂けた」
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「家が潰れた」
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「たくさん死んだ」
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少女の声は震えていた。
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「みんな怖がった」
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「だから誰かが言った」
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「神様が怒っているって」
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庄吉は嫌な予感を覚える。
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「それで?」
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少女は続けた。
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「私が選ばれた」
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沈黙。
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「何故だ」
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「一番弱かったから」
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その言葉はあまりにも重かった。
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庄吉は言葉を失う。
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少女は笑う。
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だが悲しい笑みだった。
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「私を山へ連れて行った」
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「みんな泣いてた」
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「でも誰も助けてくれなかった」
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祭壇の周囲の空気が揺れる。
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庄吉の脳裏に映像が流れ込む。
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松明。
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白装束の村人達。
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幼い少女。
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縄で縛られている。
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そして。
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泣きながら頭を下げる母親。
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庄吉は拳を握り締めた。
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少女は続ける。
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「私はここで死んだ」
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祭壇を見つめる。
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「でも終わらなかった」
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その声が変わる。
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悲しみから。
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恐怖へ。
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「下にいた」
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庄吉の背筋が凍る。
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「下?」
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少女はゆっくり頷く。
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「もっと深いところ」
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「もっと暗いところ」
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「そこにいた」
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「ずっといた」
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庄吉は門を見る。
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縄で封じられた巨大な門。
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あの向こうだ。
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少女は震え始める。
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「最初は私だけだった」
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「でも」
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「次が来た」
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「その次も」
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「その次も」
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少女の声に涙が混じる。
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「たくさん」
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「たくさん」
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「たくさん」
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その瞬間。
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地下神殿に無数の人影が現れた。
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男。
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女。
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老人。
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子供。
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全員が祭壇の周囲に立っている。
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透けている。
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だが確かに存在している。
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怨霊だった。
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少女が言う。
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「みんな来た」
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庄吉は息を呑む。
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何百人いるのか。
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いや。
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何千人かもしれない。
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その全員が庄吉を見ている。
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だが敵意はない。
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悲しみだけがあった。
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少女は言う。
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「私たちは帰れない」
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「ずっとここにいる」
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「ずっと」
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その時だった。
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門の向こうから。
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別の声が聞こえた。
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今までとは違う。
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明確な意思を持った声。
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低く。
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巨大で。
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どこか人間に似ている。
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> 「まだ足りぬ」
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地下神殿が揺れる。
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怨霊達が一斉に怯えた。
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少女も震える。
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「来る」
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庄吉は刀を握る。
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> 「まだ足りぬ」
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再び声。
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そして。
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門の中央に亀裂が入った。
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一本。
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細い亀裂。
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だが。
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その隙間から。
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巨大な目が現れた。
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真っ黒な瞳。
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人間ではない。
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だが確かに庄吉を見ていた。
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その目が笑う。
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> 「見つけた」
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庄吉は凍りつく。
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その声は。
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これまで聞いていた怨霊達の声ではない。
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もっと古い。
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もっと巨大な。
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全ての元凶の声だった。
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第一章最大の怪異が。
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ついに庄吉を認識した。
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第八話へ続く。




