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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第八章「呪われた記録」

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第六話「記録の中の世界」

「彼はもう」



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「人間の世界にはいない」



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墨塗りの男の言葉が。



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廃工場に響いた。



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真之介は本を握る。



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「どういう意味だ」



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墨塗りの男は静かに答える。



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『記録された』



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『それだけだ』



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「ふざけるな」



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真之介が睨む。



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「人間は紙の中に閉じ込められない」



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『本当にそう思うか?』



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その問い。



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真之介は答えられなかった。



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歴史。



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名前。



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記録。



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人間は。



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記録によって存在を証明している。



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もし。



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全ての記録から消えたら。



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その人間は。



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本当に存在していたと言えるのか。



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墨塗りの男が手を伸ばす。



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すると。



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相馬の本が開く。



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ページの中。



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文字が動き始めた。



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まるで。



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小さな世界。



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新聞社。



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街。



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人々。



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その中に。



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相馬誠二がいた。



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「これは……」



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咲が息を呑む。



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「未来?」



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真琴が首を振る。



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「違う」



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「過去でもない」



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「記録された世界」



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本の中の相馬は。



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必死に何かを書いていた。



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「出してくれ!」



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「ここから出してくれ!」



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声が聞こえる。



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しかし。



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本の中の人々は反応しない。



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相馬だけが。



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この世界で異物だった。



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「助ける方法は」



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真之介が聞く。



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墨塗りの男。



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『簡単だ』



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『名前を書き換える』



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「……」



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『相馬誠二』



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『消える』



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『別の名前になる』



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『そうすれば戻れる』



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真琴が気付く。



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「それは……」



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「相馬さんではなくなる」



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墨塗りの男。



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『正解』



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沈黙。



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救う。



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しかし。



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存在を変える。



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それは本当に救いなのか。



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「黒帳は」



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綾乃が言う。



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「命を奪うんじゃない」



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「存在を変えるんだ」



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その時。



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本の中。



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相馬が突然こちらを見る。



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「見えるのか?」



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真之介が叫ぶ。



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「相馬!」



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本の中の相馬。



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驚いた顔。



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「藤富……?」



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「助けに来たのか」



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しかし。



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次の瞬間。



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本の世界が崩れ始めた。



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黒い文字が広がる。



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『修正』



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『異常発生』



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『排除』



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「何だ!」



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真之介が叫ぶ。



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墨塗りの男が初めて焦った。



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『……』



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『これは予定にない』



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「お前でも制御できないのか」



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返事はない。



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その瞬間。



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本の奥から。



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別の声。



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低い。



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無数の声が重なった声。



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『記録は』



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『あるべき場所へ戻す』



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墨塗りの男が振り返る。



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『黒帳……』



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「何?」



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その名。



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真之介たちが初めて聞いた。



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黒帳。



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今まで。



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墨塗りの男を操るもの。



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さらに上の存在。



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本の世界から。



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黒い腕が伸びる。



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相馬を掴む。



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「相馬!」



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真之介が手を伸ばす。



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しかし。



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届かない。



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その時。



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咲が叫ぶ。



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「待って!」



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「見える!」



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彼女の未来視。



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一瞬。



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未来が映る。



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相馬。



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死んでいない。



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しかし。



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黒い文字に囲まれて。



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誰かの名前を見ていた。



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その名前。



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『藤富宗一郎』



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咲の顔が青ざめる。



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「次は……」



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「藤富家の当主が狙われる」



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本の世界。



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黒い腕。



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その奥から。



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声。



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『藤富家』



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『次の記録対象』



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第八章 第六話


「記録の中の世界」




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次は第七話

「黒帳の使者」


墨塗りの男の正体


黒帳と第九の関係


宗一郎への宣告


藤富家最大の秘密



へ進みます。

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