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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第八章「呪われた記録」

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第三話「消えた新聞記者」

大正元年 七月二十日。



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帝都。



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朝。



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新聞社は騒然としていた。



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「相馬が来ていない?」



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編集長が机を叩く。



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相馬誠二。



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昨日の夕方まではいた。



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しかし。



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今朝になって姿を消した。



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家にもいない。



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行方不明。



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それだけなら珍しくない。



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だが。



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異常なことが起きていた。



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「誰だそれ」



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若い記者が言った。



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「相馬って誰です?」



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編集長が固まる。



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「何を言ってる」



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「うちの記者だろう」



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しかし。



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周囲の反応がおかしい。



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誰も覚えていない。



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机。



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名簿。



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給料帳。



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社員記録。



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全てから。



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相馬誠二の名前が消えていた。



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同じ頃。



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藤富家。



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真之介たちは帝都へ向かう準備をしていた。



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その時。



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電話。



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ガチャ。



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受話器を取った綾乃が顔色を変える。



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「そんな……」



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「どうした」



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真之介が聞く。



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綾乃はゆっくり答えた。



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「相馬誠二が消えたそうです」



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全員が沈黙する。



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「死んだのか」



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「違います」



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「消えたんです」



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「記録ごと」



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その言葉。



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榊原が青ざめる。



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「始まったか……」



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真之介は立ち上がる。



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「帝都へ行く」



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帝都到着。



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夕方。



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真之介。



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咲。



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綾乃。



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三人は相馬の部屋へ向かった。



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警察が封鎖している。



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そこで出会う。



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神谷蓮。



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警察官。



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「立入禁止です」



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真之介は藤富家の名を出す。



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神谷は怪訝そうな顔をした。



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「怪異調査ですか」



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「そうだ」



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神谷は鼻で笑った。



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「迷信ですよ」



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その時。



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咲が震えた。



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部屋の中。



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誰かいる。



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「見える」



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「何が」



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神谷が聞く。



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咲は一点を指差す。



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机。



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誰もいない椅子。



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しかし。



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そこに座っている。



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黒い人影。



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顔がない。



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真之介にも見えた。



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神谷には見えない。



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影はゆっくり顔を上げる。



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そして。



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口がないはずなのに。



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声が聞こえた。



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『記録完了』



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次の瞬間。



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影が消える。



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同時に。



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机の引き出しが開いた。



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中から。



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一冊の日記。



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相馬の日記。



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真之介が開く。



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最後のページ。



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『相馬誠二』



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『存在抹消』



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神谷は眉をひそめる。



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「何も書いてませんが」



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見えていない。



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やはり。



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黒帳の文字は選ばれた人間にしか見えない。



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その夜。



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帝国大学。



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桐生真琴は研究室にいた。



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眠れない。



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机の上。



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古文書。



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そして。



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黒い文字。



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『桐生真琴』



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名前が増えている。



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昨夜は一行だけ。



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今は違う。



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『桐生真琴』



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『読む』



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『知る』



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さらに。



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最後の行。



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『記録対象』



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「まさか……」



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その瞬間。



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研究室の本棚。



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無数の本が落ちる。



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ドサッ!



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ドサッ!



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そして。



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本の隙間から。



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人影。



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黒い人影。



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しかし。



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今度は違う。



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顔がある。



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墨で描いたような顔。



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そして。



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笑っていた。



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『ようやく見つけた』



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真琴は後退する。



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「誰なの」



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影は答えた。



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『私は使者』



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『黒帳の使者』



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真琴の背後。



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窓ガラス。



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そこに文字が浮かぶ。



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『次はお前を書く』



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第八章 第三話


「消えた新聞記者」




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ここで初めて 黒帳の使者が登場。


第4話「黒帳事件」では、


真之介と桐生真琴の初対面


黒帳の使者との初接触


相馬誠二の行方の手掛かり


帝都全体へ広がる黒帳事件



へ進みます。

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