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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第八章「呪われた記録」

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第一話「黒い文字」

時代。


大正元年。



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明治が終わり。


新しい時代が始まった。



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人々は言った。



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「昔の迷信は消えていく」



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「怪異なんてもう存在しない」



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しかし。



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人間が変わっても。



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忘れたものは消えなかった。



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藤富家。



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古い屋敷の一室。



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真之介は一枚の新聞を見ていた。



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大正元年。


地方新聞。



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そこに書かれた記事。



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『村人三名、突然失踪』



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事件自体は珍しくない。



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しかし。



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問題は別にあった。



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記事の最後。



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記者の名前。



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そこに。



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黒い文字が浮かんでいた。



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「相馬誠二」



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「……」



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真之介は眉をひそめる。



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「何か分かった?」



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後ろから咲。



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真之介は新聞を渡す。



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咲の顔が変わる。



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「この名前……」



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「知っているのか?」



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咲は首を振る。



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「違う」



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「見えた」



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その瞬間。



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咲の視界が揺れる。



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暗い部屋。



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大量の紙。



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一人の男。



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新聞記者。



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相馬誠二。



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男は必死に何かを書いている。



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「見つけた……」



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「黒い帳面……」



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そして。



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背後。



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黒い影。



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『記録した』



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『お前の存在を』



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「やめて!」



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咲が叫んだ。



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真之介が支える。



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「何を見た」



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咲は震える。



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「死んでる」



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「誰が」



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「記者さん」



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沈黙。



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しかし。



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新聞を見る。



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相馬誠二。



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まだ生きている。



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「未来か」



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咲は頷く。



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「でも……」



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「おかしい」



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「いつもの未来じゃない」



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「これは……」



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「書かれた未来」



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その頃。



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帝都。



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古い図書館。



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一人の女性が古文書を調べていた。



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桐生真琴。



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机の上。



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古い日記。



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内容は普通。



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昔の生活記録。



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しかし。



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最後のページ。



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何も書かれていないはずの場所。



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黒い文字が浮かぶ。



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『読んだな』



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真琴は息を止める。



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「……誰」



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返事はない。



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ただ。



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次の文字。



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『次は、お前を書く』



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真琴は本を閉じる。



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しかし。



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閉じても。



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文字は消えない。



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机。



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壁。



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床。



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周囲の全てに。



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同じ文字。



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『桐生真琴』



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その瞬間。



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図書館の扉が開く。



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入ってきたのは。



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神谷蓮。



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警察官。



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「大丈夫ですか」



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真琴は答えられない。



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「あなたは……」



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「この文字が見えるんですか?」



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神谷は眉をひそめる。



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「文字?」



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彼には見えていなかった。



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そこには。



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ただ古い本があるだけ。



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真琴は気付く。



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この文字。



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見える人間を選んでいる。



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同じ頃。



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藤富家。



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真之介の前。



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古い記録帳。



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榊原清十郎が持ってきたもの。



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「これは」



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老人は言う。



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「開いてはいけない記録です」



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「黒帳か」



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榊原は頷いた。



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「昔の名です」



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「黒い帳面」



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「人間の人生を書き記すもの」



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「書かれたことは」



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「必ず起きる」



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真之介は記録帳を見る。



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表紙には。



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黒い文字。



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『藤富真之介』



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ページが。



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勝手に開く。



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一行。



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文字が浮かぶ。



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『藤富真之介』



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『大正元年』



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そして。



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最後の一文。



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『死亡』



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真之介の動きが止まる。



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その瞬間。



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屋敷の外。



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鐘の音。



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一回。



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二回。



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三回。



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死を知らせる鐘。



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誰かが。



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すでに。



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記録された。



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---


第八章 第一話

「黒い文字」


終。

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