表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亀の瀬異聞録  作者: こうた
第七章「失われた三つの石」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/174

第十話(最終話)「返されなかったもの」

泣いている。



---


何千もの怪異が。



---


男の背後で。



---


静かに。



---


ただ泣いていた。



---



---


真之介は動けなかった。



---


今まで見てきた怪異とは違う。



---


憎しみではない。



---


怒りでもない。



---



---


喪失。



---


それだけだった。



---



---


「お前は……」



---


真之介が問う。



---



---


「何者なんだ」



---



---


男は少し考えた。



---



---


そして。



---


困ったように笑う。



---



---


「だから忘れたと言っただろう」



---



---


「名前を消された」



---



---


「記録も消された」



---



---


「だから」



---



---


「私は私を思い出せない」



---



---



---


管理者が前へ出る。



---



---


『やめろ』



---



---


『それ以上話すな』



---



---


男は管理者を見る。



---



---


そして。



---


どこか寂しそうに言った。



---



---


「まだ守るのか」



---



---


『役目だ』



---



---


「違う」



---



---


男は首を振った。



---



---


「恐れているだけだ」



---



---



---


沈黙。



---



---


その沈黙が。



---


何より雄弁だった。



---



---


真之介は気付く。



---



---


管理者は。



---


この男を封じていたのではない。



---



---


隠していた。



---



---



---


「なぜ」



---



---


真之介が聞く。



---



---


「なぜ消された」



---



---



---


男は怪異たちを見る。



---



---


泣き続ける存在たち。



---



---


そして。



---


静かに答えた。



---



---


「人間が耐えられなかったからだ」



---



---



---


「何に」



---



---


「後悔に」



---



---



---


空気が重くなる。



---



---


「第十一は返す石だった」



---



---


「失った記憶」



---



---


「捨てた感情」



---



---


「忘れた罪」



---



---


「全部返す」



---



---



---


真之介は理解した。



---



---


だから。



---


人間は恐れた。



---



---


忘れたくて捨てたものを。



---


再び抱えることを。



---



---



---


「だから封印した」



---



---


男は頷く。



---



---


「そして」



---



---


「歴史から消した」



---



---



---


咲が涙を流していた。



---



---


怪異たちを見ている。



---



---


彼女には分かってしまった。



---



---


彼らは。



---


怪物ではない。



---



---


忘れられた人々だ。



---



---



---


その時。



---


外から朝日が差し込んだ。



---



---


長い夜が終わる。



---



---


怪異たちは空を見上げる。



---



---


誰も暴れない。



---



---


誰も叫ばない。



---



---


ただ。



---


静かだった。



---



---


男はゆっくり振り返る。



---



---


怪異たちに向かって。



---



---


「聞いただろう」



---



---


「人間はまだ思い出せないらしい」



---



---



---


その声に。



---


怪異たちは動き出す。



---



---


去っていく。



---



---


一体。



---


また一体。



---



---


朝日に溶けるように。



---


消えていく。



---



---


最後に残ったのは。



---


静寂だけだった。



---



---



---


「終わったのか」



---



---


宗一郎が呟く。



---



---


男は答えなかった。



---



---


代わりに。



---


真之介を見る。



---



---


「一つ忠告しておこう」



---



---


「これで終わりではない」



---



---



---


「どういう意味だ」



---



---


男は空を見上げた。



---



---


「人間は忘れる」



---



---


「だから同じことを繰り返す」



---



---



---


「そして」



---



---


ここで初めて。



---


男の表情が曇る。



---



---


「今度は私ではない」



---



---



---


「何だ」



---



---


「次に来るのは」



---



---


男は小さく呟いた。



---



---


「裁く者だ」



---



---



---


その瞬間。



---


遠くの空。



---



---


黒い雲のようなものが見えた。



---



---


しかし。



---


雲ではない。



---



---


文字だった。



---



---


黒い文字。



---



---


空に浮かぶ無数の文字。



---



---


罪。



---


憎。



---


恨。



---


怒。



---



---


そして。



---


一文字。



---



---




---



---


管理者の顔色が変わる。



---



---


「まさか……」



---


榊原が震える。



---



---


宗一郎も言葉を失う。



---



---


男は静かに笑った。



---



---


「来たな」



---



---



---


空を覆う黒い文字。



---



---


それは。



---


後に。



---


黒帳



---


と呼ばれる存在だった。



---



---


男の身体が少しずつ薄れていく。



---



---


「待て!」



---


真之介が叫ぶ。



---



---


「お前の名前は!」



---



---


男は振り返る。



---



---


そして。



---


少しだけ考えて。



---



---


笑った。



---



---


「思い出したら教えてやる」



---



---



---


その言葉を最後に。



---


男は消えた。



---



---


朝日だけが残る。



---



---


しかし。



---


誰も安心していなかった。



---



---


怪異たちは去った。



---



---


だが。



---


もっと危険な何かが。



---


今。



---


動き始めたのだから。



---



---


第七章


「失われた三つの石」




---


第七章で判明したこと


怪異は忘れられた記憶や感情の集合体だった


藤富家は「守る側」であると同時に「隠した側」でもあった


第十一は「記憶を返す石」だった


第十一を管理していた存在は歴史から消された


三つの失われた石の真相はまだ不明


黒帳が動き始めた




---


そして第八章 **「呪われた記録」**では、


黒帳によって「記録そのものが呪いになる時代」が始まります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ