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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第七章「失われた三つの石」

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第六話「返せという声」

夜。



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藤富家へ続く道を。



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真之介たちは走っていた。



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怪異たちも同じ方向へ進んでいる。



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人を襲わない。



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ただ。



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何かに引き寄せられるように。



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「急げ!」



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宗一郎が叫ぶ。



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屋敷まであと少し。



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しかし。



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その時だった。



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空気が変わる。



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まるで。



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見えない壁にぶつかったような感覚。



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真之介は足を止めた。



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「……いる」



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誰かがいる。



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道の真ん中。



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月明かりの下。



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一人の男。



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黒い外套。



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杖。



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御影蓮司。



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「初めまして」



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蓮司は静かに頭を下げた。



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「藤富真之介」



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「お前か」



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真之介は前に出る。



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「怪異を操っているのは」



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蓮司は否定しなかった。



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「操ってはいません」



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「呼んだだけです」



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「何のために」



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蓮司は少し笑った。



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「彼らは探している」



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「奪われたものを」



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真之介の脳裏に浮かぶ。



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三つの石。



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「お前が持っているのか」



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蓮司は首を振る。



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「持っていた」



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「今は違う」



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「どういう意味だ」



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「簡単です」



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蓮司は空を見上げる。



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「私は盗んだ」



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「しかし」



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「私からも盗まれた」



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沈黙。



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真之介は思わず眉をひそめた。



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「誰に」



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その問いに。



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初めて蓮司の表情が曇る。



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「知らない」



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「姿も」



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「名前も」



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「人かどうかも」



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「分からない」



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その言葉は嘘には聞こえなかった。



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「三十年前」



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蓮司が語り始める。



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「私は確かに三つの石を手に入れた」



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「だが」



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「ある夜」



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「全て消えた」



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風が吹く。



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蓮司の声だけが響く。



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「そして」



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「翌朝」



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「壁にこう書かれていた」



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『まだ早い』



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真之介と咲は顔を見合わせた。



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未来視で見た言葉。



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同じだった。



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「その時からです」



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「怪異たちが動き始めたのは」



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蓮司は杖を握る。



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「私は石を利用しようとした」



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「認めます」



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「だが」



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「今は違う」



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「私も探している」



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「何を」



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蓮司は真之介を見る。



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そして。



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静かに言った。



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「盗んだ者を」



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その瞬間。



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遠くで轟音。



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藤富家の方向。



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全員が振り向く。



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屋敷の上空。



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黒い霧。



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いや。



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違う。



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大量の怪異。



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何百。



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何千。



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空を埋め尽くしている。



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「まずい!」



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宗一郎が叫ぶ。



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怪異たちは。



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ついに屋敷へ到達した。



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一方。



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藤富家地下。



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保管庫。



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誰もいないはずだった。



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しかし。



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そこに人影。



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黒い。



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輪郭の曖昧な存在。



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顔がない。



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目もない。



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ただ。



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人型だけ。



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その存在は。



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空になった台座の前に立つ。



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そして。



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指で壁をなぞった。



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すると。



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石壁に文字が浮かぶ。



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『返せ』



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『返せ』



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『返せ』



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無数の文字。



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そして最後に。



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たった一文。



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『記録はまだ終わっていない』



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その存在は。



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誰にも聞こえない声で呟いた。



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『次の管理者は誰だ』



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同時刻。



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真之介たちは屋敷へ走っていた。



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誰も気付いていない。



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今動いているのは。



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怪異でも。



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御影蓮司でも。



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黒帳でもない。



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もっと別の存在。



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そして。



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それは初めて。



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藤富家そのものに興味を示した。



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第七章 第六話

「返せという声」



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ここで第7章後半は、


屋敷襲撃戦


藤富家の古い罪


怪異が「返せ」と言う本当の理由


蓮司と一時共闘



へ進み、単純な敵味方ではなくなっていきます。

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